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(7)



「……? なんだ、まだ妖精が、隠れているのか?」


 告げられた言葉に、

 ふと、左右を確認して、けれど誰もいない。となれば、


「? …………。――ッ!?」


 自分にだ。と、気づいて。

 それはあからさまに肩を震わせた。

 びっくりした。

 それはまた、妖精のようでもあった。


 その頭には森色をした三角形のとんがり帽子。街の子供たちよりも頭二つ分ほどちいさな背丈で、側の茂みから顔だけを覗かせている。しかし、そのちいさな姿とはアンバランスに、むしろ、魔族のドワーフのように絶妙なバランスで、彼は立派な髭を生やしている。目も、ふさふさとした眉毛がすっかり覆う。

それは確かに、童話の、小人のような妖精に見えなくもない。

 けれど「いや」目の前の青色美少女は、前言を撤回し、

 言った。


「お前、精霊じゃないか?」


 それはただ、時が止まったように動かない。




 石のように身じろぎひとつしない、

 そんな姿の妖精――もとい精霊の姿をアルザークは見た。

 確かに、見た目は妖精かも知れない。一般人が見ればその類と勘違いし、そうだな、ピーターに出てくる羽根つきの妖精ではなく、靴屋の小人でも思い出すのではないだろうか。見た目にも、奇妙な哀愁が妙に愛くるしく見えなくもない。そういう妖精。に、見えるけれど、


『あら?』


 一緒に見て、声が告げた。


『あの子、ノームじゃない』


 決定的だった。




 ノームと呼ばれ、覗いていたそれは本格的に身を隠した。

 逃げるように。

 それを見てとっさに、


「ルインっ」


 叫べば彼女も早いもので、

 まさに狼が狩猟をするかのごとく、紅葉こうようの向こうへと跳びかかる。

 草木の揺れる音がいくつか。

 ほどなくして、


「アルさん、捕獲成功です!」


 両腕に、ぬいぐるみをそうするように抱きかかえ、戻ってくる。

 しばらくルインの腕の中で暴れていたようだが、まったく意味を成さず、ノームはすぐに静かになった。連れて来られ大人しく、しゅん、と垂れてしまったそれを見て、


「アルさん、このひと、精霊なんですか?」それに「ノーム、って」

「ノームっていうのは、土の精霊だ。見た目はたしかに、妖精って言われても、普通の、こういったことを専門的に扱わない人間でないと、見分けなんてつかないよな。小人と妖精だって、言ってしまえばひとくくりにされる世の中だ。ほら、お前なんかだってそうだろう。狼と犬」

「それはアルさんの意地悪の気もしますけど」


 それはそれとして、


「もしかして、アルさん達の知り合いですか?」

「そうじゃない。けど、知っている。

 いいか、ルイン。八年前。そう、これも八年前だ。当時、霊界にてちょっとした事件が起こった。諸事情があってな、詳しくはいつか話してやるとして、簡単に言えば、精霊の子供たちが現界へと家出をしたんだ。比較的おとなしい気質の水の精霊をのぞき、氷のセシア、炎のカシス、風のフゥに雷のイオン。そして、土の精霊、ノームだ。

 セシアとカシスの百合コンビについてはすぐ解決したからいいとして、あとの三人は未だに行方不明。なおさら、こいつらはただの精霊じゃなく、数百年に一度、次期の大精霊となるだろう資質を持った金の卵ときている。放っておけば当然、現界によくない影響を与えかねないし、そうでなくても子供なんだ。精霊達も心配している。だからこそこうして、こちらを自由に歩けるオレも、捜索に一枚噛まされてるってわけ。しかし、それをこんなところで見つける事になるなんて、思ってもみなかったよ」あくまでついでの事だし。


 しかし、だとすれば話が変わる。


「八年前。そうだ、時期としてもピッタリじゃないか」


 この森が紅くなった頃。

 さらに、


「土の精霊だ。大地や植物を司るこいつらが関わるって言うなら、話は早い」


 ずいと、顔を寄せる。

 ルインの腕の中、やや慄きに身を引くノームに、


「この原因、お前だな、ノーム」


 言わずもがな、か。

 疑いようのない事実であるように思った。

 しかし、


「ま、待って待って」「たっぷたっぷー!」


 アルザークのジト目の正面、割って入る姿がある。

 妖精姉妹だ。


「ちょっと待って、怒るの、ちょっとタイム」「あーちゃんレフィリーストップだよ」

「あーちゃん、って……」


 誰だそれ。


「あのね、あーちゃんの言いたい事、すっごくわかる」「わかるよー」「でも、ちょっと待って」「こっちにだって」「ちゃんとした理由、事情があるのっ」「絡み合う、ふたりの事情」「だから、おじいちゃんを責めないでッ」「意味深」

「おじいちゃん、って……」


 確かに、土の精霊は種族柄、老人のように見えてしまう。けど、


「一応そいつ、まだ子供だからな?」

「でもこの子、どこか誇らしげですよ?」


 ホントだ。

 変わらず腕の中のノームだが、先ほどまでの委縮した様子はどこ吹く風。手足は垂れたままだが、胸を張って、こう、キリッ、としている。立派なお髭が眩しいかぎり。


『この年頃の子って、大人扱いに弱いものよねぇ』

「確かにセシアにもそういう節はあるが、大人すぎるだろう」


 おじちゃんって。

 まぁ、いいけどさ。って。


「で、なんだ、その事情っていうのは」


 一応聞く。

 なぜなら、ただの悪戯で片づけて、この森を元に戻したとしても、やっぱり、妖精たちをどうするのかが定まらないからだ。魔力のない森に戻せば、結局のところ、妖精たちは消えてしまう。しかし、


(ノームと妖精に、繋がりがあるのだとしたら)


 もともと土の精霊は、精霊達のなかでも妖精と深いかかわりを持つ属性だ。意味もなく見た目が似通っているわけではないのだから。表しがあるのなら、成り立ちと、そこに意味が必ず介在する。だとしたら、なにか、ヒントになり得るかもしれない。そう思うのだ。

 なんて、


(口に出して言えば、どうせ、また二人がやかましいだろうけどな)


 からかわれるのはごめんだ。

 さて、


「どうなんだ?」


 急かすように告げる。

 聞けば、妖精姉妹。どうしようかとお互いに顔を見合わせて、

 次に、ルインの腕の中にいるノームへと、向き直って。


「いい、よね。おじいちゃん」


 返答は、沈黙であった。

 しかし、姉妹は一度、強くうなずいて。


「わかった」


 お願い。と、


「助けて欲しいの」「そのために」「「着いて来て」」



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