(5)
ヴォルムスが、気付けば地面に倒れていた。兵士はもちろん、ヨハンも誰も、その原因がさっぱり解らない。解らないものだから、
「姫、いまのは……」
武力における絶対者、姫騎士に解説を乞おうとする。が。
「あ、アル、あるの、アルのローブ、アルが着てた、あ、アルの――ハァハァ」
多分、これ、ダメだ。
顔をローブに埋める姫を、無視せざるを得ない。
が、
「勝負は、オレの勝ちだな」
いつの間にか、いや、姫に気を取られている間にだが、アルザークが歩み寄っていた。試合の場となっていたところでは、倒れるヴォルムスの側に衛兵が駆け寄っている。視線を戻し「返せ」「あ、もうちょっとっ」「お前少しは場所を考えろよ」無理矢理だが正しい事にローブを取り返していたアルザークを見て、彼も、それに気付いたのだろう。ほぼ強引に奪い返したそれを、改めて着込みながら、
「ん、なんだ?」から「あいつの事なら心配するな。ただ、一発殴って気絶させただけだ。いい腕してるよ、まったく。おかげで、身体のあちこち痛いままだ」なんて。
ヨハンはただ、舌を巻いた。
なんという、圧倒的か、と。
あの一瞬、つまりアルザークは、回転する槍の中央。つまりはその動力となる、ヴォルムスの手、蜘蛛の足とも言えようその指を止めさせたのだ。棒を回す際、人は手首のみならず指の動きも使い、それは派手に見えて繊細な動きを要求されるもの。つまり、優しく手を上から添えるだけでも、その動きは潰れてしまう。簡単な動作ではあるが、しかし、あの高速の動きに合わせ、かつ、コンマ数秒で回り来る柄を避けながら、精確に手を当てなければならない。到底、人間業ではない。
それを軽々とやってのけ、
なおかつ、
(見えぬほどの一撃を、叩き込んだのか?)
おそらくはボディ。だが、速度はすなわち破壊力だ。ヴォルムスの槍による打撃がそうであるように、軽い一撃でさえ、素早さが乗ればそれだけで暴力的となる。つまり、見えぬほど、とは、そういう重さの攻撃である、という事だ。
昏睡もしよう。
鎧さえつけていれば、と思っても、それは、ただ殴る場所が、別の急所へと変わるだけだろう。なんの意味もなさない。
なるほど、
「姫が認めるだけは、あるのだな」
当然か。
ヨハンは静かに、頭を下げた。
そして、
「約束だ、こちらも、貴様から受けた被害を考慮し、もう一日この場に留まるとしよう。それまで、明日の明朝まで。姫を――」よろしく頼む。とは、流石に言えないので「姫に、助けられるが良い」




