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ほたるらいと  作者: にやー
9/13

ほたる4

結果として私は三回ゆずるを救うことができなかった。


一回目、二回目はさっき述べたままである。

三回目はゆずるの心が死んでしまった。

私がゆずるのお母さんを殺したから。

目の前で自分の大好きな母親が殺されたんだからしょうがない。


ゆずるはお母さんが本当に大事で大好きだった。

知ってる。

私はそれを知っている。

それでもゆずるを助けたくて…死んでほしくなかったからあの女を殺した。

ゆずるに嫌われてもゆずるを守りたかったから。


お母さんだったものと返り血で血まみれの私を見たゆずるは発狂した後、一言も喋らなくなった。


目から光が消え、口は常に半開きになって涎をひたすらこぼしている。


「ゆ、ゆずる……?」


「………」


違う、違うよ。

私はゆずるの光を、幸せを守りたかっただけなのに。

こんなの望んでない。




だから私は賭けに出た。

ゆずるが三歳の頃に、十四年前に、ゆずるがお母さんを大好きになってしまう前に戻ろうと、そこであの女を殺そうと決心した。


正直これだけの時間を戻るのは初めてだったからどうなるかわからなかった。


まぁ結果は成功したとも言えるし失敗したとも言える。

十四年前に十七歳の私はいともたやすく戻ることができた。


当然といえば当然なのだけど、この時点で私は世界から消滅した。

存在が世界から認知外のものになった。


当時三歳だった私は十七歳の私が存在することによって消えてなくなった。

当時まだ生きていたお母さんに会って聞いたのだから間違いない。


「失礼なのですが今お子さんはいますか?」


「子供?いないわよ。

でもそうねー、そろそろほしい気持ちはあるわねー。」


「そうですか。

いきなり失礼しました。」


私のお母さんは私が六歳のときに交通事故で死んだ。

だからできれば今後も子供は作らないで欲しい。

その子はお父さんと新しいお母さんの間でつらい思いをするだけだから。


でもそんなことはどうでもいいくらい私はゆずるで頭がいっぱいだ。

今後、お母さんが子供をつくらないことを

私がいないことによってお母さんが事故に遭わない未来を

心の片隅で願おう。


余談だけどその後、お母さんがどうなったのかを私は知らない。

知ろうと思えば、会おうと思えば簡単に会えただろうけど、

私にはそんな勇気と権利はない。




ゆずるは引っ越したことがない。

それを聞いていた私は簡単にあの女を見つけることができた。

そして簡単に殺すことができた。


保育園にゆずるを預けた帰りに駅のホームから突き落とした。

私はその女と目を合わせる間も無く殺した。


この時のこの女がすでにゆずるを殺そうと考えていたのかは私にはわからない。

わからないけど一度目と同様にためらいはなかった。





今の私を見てもゆずるは友達になってくれるかな。

ありもしない現実を私はずっと妄想している。


ありもしない

ありえない


だってゆずるはもう私のことなど知らないのだから。

出会った事実は私が時間を戻したことによってなくなったのだから。


仮にもしその事実が残ってたとしても自分の母親を殺した相手と友達に、親友になんてなれないだろう。




私はその後四年間、ゆずるが小学生にあがるまで陰ながら成長を見守り、この町をでた。


一年間は家もなく公園で暮らし、

三年間はゆうすけさんの家に居候した。


ゆうすけさんは私が未来で住むはずだった家に住んでいるフリーのジャーナリストだ。

私が懐かしくなり元私の家の前にいたときに買い物から帰宅してきたゆうすけさんと出会った。

泥棒だと思われ家につれこまれ、警察を呼ばれそうになった。


十代の女の子を無理矢理つれこむのもダメだし泥棒を自ら家に上がらせるのもダメだ。

ゆうすけさんは頭がダメなやつなのだ。


私のぼろぼろな身なりから何かを悟ったのか(勘違いしたのか)事情を話せば警察は呼ばないとか言ってきた。


一応言っておくとぼろぼろなのは洋服だけだ。

ごはんを食べて銭湯に行って時間を戻せばお金をかけずにそれなりの生活ができるわけで。


私がこっちに来たときは服すらなかった。

真っ裸だ。

見られて損するような身体つきはしてなかったけど服の調達には苦労した。

まぁどうでもいいことなので省略。

そんなわけで一年間公園で過ごしていたわけで私の一張羅はぼろぼろだった。


そして私はゆうすけさんに本当のことを言った。


誰かと話したかった。

誰かに話したかった。

誰かに許してほしかった。


ここまでしといて私はまだ救いを求めるなんて


自己嫌悪から私は泣いた。

なんて弱くて

なんて醜くて

なんて滑稽なのだろう。



ゆうすけさんは私が泣き止むまでなにも言わないで待ってくれた。

そしてこんな途方もない話を信じてくれた。


「俺の家でよければいればいいよ。

よくわからんがお前の家でもあるみたいだしな。」


信じたのか

頭が弱いのか

下心なのか


わからないけどゆうすけさんは私をここにいさせてくれた。


襲われそうになったら出て行こう、と思ってたけどゆうすけさんは何もしないでくれた。

(魅力がないだけなのかも)


そしてゆずるが小学生になったときに出て行った。


「まぁ、また来いよ。

ほたるならいつでも歓迎だ。」



後々、知ったけどゆうすけさんは私が居候に来る前からこの家をすぐ出て引越すつもりだったらしい。


「ありがとう、ゆうすけさん。

また来るわね。」


優しさが嬉しかった。

救ってくれた。

でも駄目なのだ。


私は救われちゃだめなのだ。

だから町をでた。




それからはときどき、ゆずるの顔を、様子を見にこの町に訪れながら生活をしている。


ゆずるの成長を見守りながら私の中にしかない思い出を、

今となっては妄想に浸るくらいは許してあげよう。

そう自分に言い聞かせた。



ゆずると話がしたい

ゆずるの隣にいたい

私に向けたゆずるの笑顔が見たい



そんな衝動を抑えながら。























私は走った。


「なんで……」


ゆずるがゆうすけさんの、元私の家に来た。

知っているはずがない私の名前を呼んだ。



驚いた。

でも嬉しかった。

全て溶けてしまいそうな程に。

でも駄目なんだよ、ゆずる。



「私はこれ以上幸せになっていいヤツじゃないんだ。」


「………ほたる…。」


「また来るわね、ゆうすけさん。」


「おいっ…!」


私は窓から逃げた。




だめなんだ

ゆずるが全てを知ったら私を罵倒してくるだろう。

それはだめなんだ


その時点できっと私は楽になる。

やり場のない罪悪感と孤独に終止符を打ってしまうだろう。

それはだめなんだ









そんな言い訳じみた理由を無意識に頭に置いて走った。

逃げた。



私は知ってる

本当はただ怖いだけ

本当は私が弱いだけ

そんな自分からも逃げるように走った。





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