ゆずる3
2学期が始まって1週間が経った。
最初の3日間はあたしが思いつく限りのほたるとの思い出の場所を手当たり次第にももとまわった。
意味があるのかないのかと聞かれたらたぶんない。
でも手がかりもなにもないんだからしょうがないじゃん。
「もも思うんだけど、ほたるって子はさ本当は存在しないんじゃない?
ゆずるの架空の友達だったんだよ、きっと。
きっと辛いときにさ、その子に励ましてもらっててさ…」
4日目にももがそうこぼした。
言っている意味がなんとなく汲み取れた。
もうこれ以上探しても意味ない、と。
「もも…あたしはほたるを見つけるまでやめるつもりはないよ。」
だってほたるのいない世界なんて生きていく自信がない。
「………ももじゃだめなの…?」
「………なんの話し?」
「…そのほたるって子のかわりにももじゃだめなの?!」
ももは本気の目であたしに問いかけてきた。
あー、ほたる…あたしってやっぱり鈍感だったわけね。
「……だめだよ。」
謝るのも違うと思ってきっぱりと言ってやった。
ももは教室の真ん中で泣き崩れてしまった。
クラスがざわめく中、あたしはそれを無視して教室を後にした。
その日からももはほたるを探すのについてこなくなった。
もう探せるところは全部さがした。
手がかりもなにも見つからない。
だからあたしはほたるのアパートを監視することにした。
今はあのおじさんが住んでいるらしいあの部屋を。
学校にも行かず朝の7時から夜の10時までひたすら。
あたしの直感だったけどほたるは絶対ここに帰ってくると思った。
だってここはほたるの家だもん。
いや…それ以外すがれるものがなかったからそう思いたかっただけかもしれない。
でも2学期が始まって1週間が経った今日、ほたるの部屋(おじさんの部屋?)の前にいつもとは違う人影が見えた。
小柄でまだ蒸し暑さが残る9月にちょっと薄汚れたコートを着ている女の人だった。
たぶん20代後半に見えるけどどこか幼さが残っていてキレイというよりは可愛らしいと言えるような女の人。
「……ほたる…?」
年は高校生には見えない。
でもあたしの記憶に残っているほたるにそっくりだった。
それこそこの人を高校生に戻したらほたるそのもののような。
訳がわからず動けずにいたらその女の人はドアの中に入っていってしまった。
「あ……!ほたる…待って!!」
確証はない。
でも確信に近いものを持っていたあたしは大声で愛しい人の名を呼んだ。
「ほたるーーーーー!!!!」
返事はない。
鍵も閉められている。
「ほたる!!いま家の中に入ってったでしょ?!開けてよ!!
いるんでしょ!?開けて!!」
やっぱり返事はない。
ほたるー、あたしちょっと怒っちゃったよー。
「開けてくれなきゃおじさんには悪いけどこのドア蹴り壊すからね!!」
散々心配させたあげく何も理由も言わないでまた消えちゃうつもり!?
そんなのあたしは絶対に許さないから!
そろそろ本気でドアを蹴り壊そうと考えたとき、ドアの鍵が開いた。
「ほたる!!」
あたしのかけ声とは裏腹に出てきたのはこの前のおじさんだった。
「……嬢ちゃん、ゆずるちゃんだろ?」
「だったらなにさ?!
おじさん、ほたるはどこ?!」
「………部屋の中に入ってさ、自分の目で確かめなよ。」
その言葉と同時にあたしは部屋の中に入り込んだ。
後々考えたらこれすごい危ない行動だよね。
そこにはほたるの姿はなかった。
かわりに1つしかない窓が全開に開いていて心地いい風が吹き込んでいた。
「……さっきまではいたよ。
でもあの子はゆずるちゃんには会えないんだってさ。」
その言葉にあたしはおじさんの胸ぐらをつかんだ。
「なんでよ!?
なんでほたるはあたしをさけるのさ?!
あたしがなんかしちゃったから嫌いになっちゃったの?!
あたしはもうほたるに会っちゃだめなの?!」
勝手に涙があふれる。止まらない。
あたしはほたるに嫌われたのかな。
ほたるはもうあたしに会いたくないのかな。
「なんでよ……」
「ちょ、ちょちょちょ!!
ほんと手荒い嬢ちゃんだな…。」
あたしの手を振りほどいておじさんは続ける。
「ったく、話してやるから。
ほたるに会うか会わないか、俺の話を聞いてから嬢ちゃん自身が決めなよ。
あいつを救ってやるかどうか嬢ちゃんが決めるんだよ。」
「え……。」
あたしは今すぐにでもほたるを追いたい衝動を我慢しておじさんの話しを聞くことにした。
だってわけが分からなすぎるから。
もしあたしが何かしてたのならちゃんと謝りたいから。
おじさんの言うようにほたるが救いを求めているなら尚更理由を知ってからだと思うから。