もも1
ももは鈴音ほたるが嫌い。
ももが1年かけてゆずるとここまで仲良くなったのに鈴音ほたるは何ヶ月としないうちにゆずると仲良くなったんだ。
いや、鈴音ほたるには仲良くなる気なんて毛の程もなかったと思う。
それが逆に気に入らない。
嫌い嫌い、ほんとにムカつく。
ももはゆずるが好き。大好き。
恋だって言われても否定はしない。
最初は嫌いだった。
ももは中学の頃は妹みたいだの、かわいいだの周りからだいぶちやほやされていた。
いわゆるアイドルみたいな存在に近かった。
高校に上がってもこんな感じでちやほやされるんだろうと思ってた。
まぁ多少はそんな感じだった。
でもゆずるがいた。
ゆずるはもものような「ぶりっこ」とは違って表裏のない明るい性格で誰からも愛される存在で、その上で自由でクラスの中心で何かをするって感じじゃなかったけど存在感はでかかった。
そんな人気者のゆずるに最初は嫉妬した。
でも嫉妬から憧れにかわって、憧れから好意にかわるのは一瞬だったよ。ほんとに。
仲良くなりたくてたくさん遊びに誘った。
今までももは遊びを断られたことなかったから最初ゆずるに断られたときには3日ほど落ち込んだ。
「ん?クレープかぁ!いいねー!!
でも今日はだめなのだ!
ゆずるちゃんは今日お母さんとブラジルにコーヒーを飲みに行かなきゃでさ!」
意味がわからない。でもかわいい。
ブラジルはアホらしいけどお母さんとどっかに行くってことだと思う。
ゆずるはお母さんと仲がいいらしいから。
それでもめげずにいっぱい誘った。
中学の頃のももには考えられないくらい誘った。
その甲斐あって1月頃には一緒にスキーしにお泊まりするくらいには仲良くなれた…と思う。
「あ!もも!!あたしらまた同じクラスだよ!やったね!」
そして2年生もゆずると同じクラスになった。
もうこれは運命だと思った。
ももとゆずるは結ばれる運命なんだ。
さっそく、ゆずるを遊びに誘ってみよう!
今回は思い切って2人きりで。
「いつも誘ってくれてありがとね、もも!」
「あ、当たり前だよ。ももたち友達じゃん。」
お礼言われたよー!これはいい感じなんじゃないかな!
「でもさ、今日は、えーと…なんだっけな、名前。あの1番窓際の後ろにいるあの子と遊ぼうかなって思ってるんだ!
にしし、まだ誘ってないんだけどね!
あ、もももくる?」
………は?鈴音ほたる?なんで?
いや…それよりもゆずるが遊びに誘う?なにそれ?
「あ、えっと…ももはいいや。
そういえば用事思い出しちゃった。」
「そう?そっか!
じゃぁまた今度遊ぼうね!!」
その今度は訪れなかった。
ゆずるがほぼ毎日、鈴音ほたるを遊びに誘うのだ。
あのゆずるが。
完全受け身で気が向かないとそのお誘いさえ断るゆずるが。
ももはこの行為の「意味」を知っている。
ありえない。なんでゆずるが?なんであの根暗を?
理解できなかった。
だからついゆずるに聞いてしまった。
あのバカにも聞こえるように。
「あんな暗いやつのどこがいいのさ?
キモいし一緒にいても楽しくないよ?」
殴られた。
何回も何回も。
あんな顔のゆずるを見たのは初めてだった。
「やめなさいよ!
私は嫌われ者で、あんたは人気者でいいじゃない!ゆずるが怒ることじゃないよ!!
だからやめて!」
しかもそれを止めたのが鈴音ほたるだ。
屈辱だ…これじゃももが噛ませ犬みたいじゃん。
だからももはゆずるに謝った。
お門違いなのは承知で。
例え鼻からパスタを食えと言われてもあいつには謝れなかった。
「あの子にもあの子なりに譲れないものがあったんじゃない?
共感できるかは別だけど、理解できないこともないよ。」
鈴音ほたるが放課後ゆずるとそんな会話をしているのが聞こえた。
きっと悪気もないだろうしこれは鈴音ほたるの本心であると思う。
それが逆にももの心をえぐる。
「大丈夫?もも。
まさかゆずるがあそこまで怒るなんてねー。
ありゃぞっこんだわな。
もももとばっちり受けちゃったね。」
ゆみとかクラスの人がもものことを気遣ってくれた。
ありがたいよ。でも違うの。
ももが今優しい言葉がほしいのは鈴音ほたるでもゆみでもクラスのだれでもなくゆずるなんだよ。
鈴音ほたる…なんなの…
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。あーもう大嫌い。
いじめられて不登校にでもなればいいのに。
そもそもなんであんないじめて下さいって顔に書いてあるようなヤツがいじめにあってないのよ。
あーほんとムカつく。
うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい。
もうこの世から消え失せてほしい。
そうすればゆずるはももに振り向いてくれるのに。