ゆずる1
なんか暗いし口が悪いしいつも1人で教室の端っこでつまんなさそうに空を眺めてる。
そんな女の子にあたしは恋をした。
いやいや、自分でもよくわからないんだけど一目惚れというやつをね、ちょっとね。
言っておくけど今までのあたしは女の子を好きになったことなかったからね!
ほたるが特別なんだ。
だからたくさん話しかけにいった。
友達でいいから仲良くしたいと思って。
最初はなかなか大変で会話にすらならなかったけど。
あたしは友達が多いほうだと思う。
こんな性格をしてるせいか不思議と人と打ち解けるのが楽なのだ。
でも自分から遊びに誘うことはほとんどなかった。
誘われて特に予定もなくて気が向いていたら誘いに乗るって感じ。
だから1年生の頃から同じクラスの人たちは2年生になったあたしを見て驚きを隠せないでいたみたい。
あたしは毎日のようにほたるを遊びに誘っていたから。
「あんな暗いやつのどこがいいのさ?
キモいし一緒にいても楽しくないよ?」
あえてほたるに聞こえるようにあたしに言ってきた子がいた。
あたしはよく覚えてないけどその子を思いっきりぐーで何回も殴ったらしい。
それを止めたのがほたるだとそれを見ていた子に教えてもらった。
「やめなさいよ!
私は嫌われ者で、あんたは人気者でいいじゃない!ゆずるが怒ることじゃないよ!!
だからやめて!」
だそうだ。
ほたるは優しい。
こんな自分のことしか考えてないあたしのことを気にしてくれた。
嬉しいんだか悔しいんだか。
次の日、その子は「あたし」に謝ってきた。
この子は何に対して謝っているんだ?
もう1回ぶん殴ってやろうかと思ったけどほたるのことを思ってやめた。
…いや違うな。
ほたるに嫌われるのが怖くてやめた。
「ゆずるは人の気持ちに鈍感だね。」
「…ん?どういうこと?」
「あの子にもあの子なりに譲れないものがあったんじゃない?
共感できるかは別だけど、理解できないこともないよ。」
「うぅっ…!わからん!
どうせあたしはバカで無能で自分勝手のアホですよーだ!」
「そこまで言ってないけど…
…否定はしないけど」
「やっぱりほたるはあたしに冷たい!!」
「…でもありがとう。
ごめんね、ゆずる。手…怪我しちゃったね…」
「えっ?お?ん…!?
にしし!いやいや!大丈夫大丈夫!!
それにあたし達友達じゃん!」
友達にお礼を言われただけなのに、やばい幸せ。
この、つんでれほたるめ!
「ねぇねぇ、もう1回言ってよー!」
「…今すぐ苦しんで死なないかしら。」
「ほたるは人付き合い下手だね!
あたしにも分かるよ!」
「…訂正するわ、今すぐ苦しんでのたうちまわって死になさい。」
「にしし!やだ!!」
楽しい、幸せ。
ほたるがいればもうなにもいらないとさえあたしには思える。
2年生になってからほたるとは色んなところに行った。
夏休みもほぼ毎日遊んだし(全部あたしから誘ってるわけだけど)
あたしんちにもきてもらったし、ほたるんちにも行ってお泊まりもした。
ほたるは1人暮らしだった。
なんか両親とあまりうまくいってないみたい。
小さいころにお母さんを亡くしたあたしにはわからない悩みだ。
色んなところにいったけど1番よく行ったのはあたし達のひみつの場所だ。
子どもが遊ぶにはちょっと険しく、大人がわざわざ立ち入ろうと思わないような山道を越えたところにそこはある。
いまは使われていないであろう廃屋があり、その後ろは崖になっており海が広がっている。
夕暮れに見るその景色はあたしのお気に入りだ。
だからほたるに教えた。
その景色をはじめて見せたときのほたるの顔はほんとに子どもみたいでかわいかった。
「……きれい…」
「にしし!でしょでしょ!!
他の人には内緒だからね!!」
「…ゆずる…ゆずるは私なんかといて楽しいの?
この景色だって他の子と共有したほうがいい反応するわよ。」
「もうそれ聞き飽きたよ!
あたしが、そうしたいからそうしてるの!
ほたるといたいからいるし、ほたるにこの場所を教えたいから教えたの!!
あたしは自分勝手なんだって!」
「…ふふ…そうね。
ゆずるは自分勝手だね。」
「あ!ほたるが笑った!!」
そんなに驚くことかと言われれば驚くことなのである。
「…ほんとゆずるは変わってるよ。
ゆずるに会えてほんとによかった。」
「ほたる…?」
泣いてるの?
「…ほんときれいな場所だね。
感動しちゃった。」
「…で、でしょでしょ!!
いやー、そんな喜んでくれるとは連れてきた甲斐があったってもんだよ!
あ!!にしし!ここで1つ謎かけを!」
「……なによいきなり。」
「にしし!面白いの浮かんだからさ、ほたるにきかせたいんだよ!」
「…そのこころは?」
「まだなにもといてないよ?!」
「早くしてよ。
こう見えて私は結構うるさいわよ?」
「うぬぬ……
ほたるとかけまして亭主関白なお父さんと解きます!」
「………わからないわ。
そのこころは?」
ちょっと考えてからほたるはお手上げのポーズをとる。
「どちらも意気地が(育児が)ないでしょう!
どうよ、これ!?やばくない?!
きちゃった?!」
さっきまでのいい雰囲気をあたし自身が壊す。
ほたるがぷるぷる震えている。
「にしし………おこっちゃった?」
と思ったら笑いをこらえていた。
「ふ…ふふっ…なかなか…ふふふ…やるじゃない。
面白かったわよ。」
「ほんと?!にしし!!
さすがゆずるちゃんでしょ!?
ほたるが笑ってくれるとあたしも嬉しいよ!」
ほたるが喜んで笑ってくれるだけであたしはこの上なく幸せを感じれるんだよ。
「……そうなの?」
「そうだよ!当たり前じゃん!!」
ほたるはほんとに不思議そうにあたしを見つめる。
自分なんかのためになんで…なんて考えてるんだと思う。
「ならさ………」
少し俯き加減にほたるは言う。
「ん?なになに?」
「………ずっとゆずる、一緒にいてよ。
……そうすれば笑えるから。」
「………うん!!!ずっと!!
ずっと一緒にいるよ!!
ほたるが嫌がったって一緒にいるよ!!
ほたるがいなくなっちゃったってあたしが探しにいくよ!!」
幸せだ。
こんな毎日がずっと…ずっとずっと続くといいな。
夏休みが終わって2学期がはじまった。
時刻は午前8時20分。
クラスのほとんどの人がもう自分の席に座っていて和気あいあいと話している。
いつも通りの、1学期からなにも変わらないクラスの風景。
その中にほたるの姿はなかった。