表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ちょっとした短編集

古今和珍事伝集~お犬様!!~

作者: 山鴎 柊水

 ここに日本という国がありました。将軍様がおさめるようになって数十年がたって平穏な日々が過ぎていたのです。


 ある時の出来事である。

「殿! 殿! 一大事でございます!!」

 一人の若いお侍さんが急ぎ渡り廊下をとおる。

「なにごとだ」

 とある一室に殿さまはいた。まだ年若き殿は餅を食べていた。

「一大事です!」

「わかっておる。わかっておる。大事なことが二つも三つもあったらかなわん」

 若いお侍さんは落ち着きを取り戻したようだ。

 この殿さまは海岸沿いの領地を治めている人である。最近になって、殿さまのお父上が腰痛のために当主の座を譲られて、このお殿さまが当主。

「それで、何用か?」

「それが、それが南蛮で悪名高い、“けるべろす”、というやつが表れ、領内を荒らしております」

「なに!? けるべろすだと!!」

 殿さまは立ち上がりながら驚愕の表情を浮かべる。

「それで、けるべろすとは何ぞや?」

「そこからでございますか!?」

 若いお侍さんは、かしこまった姿勢のまま、床を滑った。

「これこれ、着物が汚れるであろうに」

「それは……。いえ、そんなことより、けるべろすというやらは、南蛮の太古から存在する物の怪にございます。なんでも、神々の城の門を守るとのこと」

「なぜ神々の城を守ってるやつが、こんなところに現れたのだ。ここは南蛮ではないぞ。それに神々なんて聞いたことがない。なにか、わしが神か?」

「いえいえ、殿さまは神ではありません。決して、それはもう」

「なにうえ、断定する」

「それは明明白白」

「もうよい。それより、続きを」

「ははっ、その“けるべろす”が領内を暴れているのです」

「それは分かっておる。討伐できないのか!」

「そ、それが」

 言いよどんでしまう。一時の間を空けて、

「犬の姿をしているのです!」

「な、なに! 犬だと……」

「はい、犬でございます」

「それは一大事じゃのう。将軍様がお犬様には手出しをだしてはならぬというお触書を出しておるからのう。うかつに手が出せぬわい」

「そうでございます。お犬様に手出しはできないのです。どうしましょう!?」

「お犬様か、それで、そのけるべろすというやつがお犬様なら、餌を与えてみたらどうかの。お犬様は大切にせよと、将軍様のお達しなのだから」

「それはいい案でございます。さっそく、餌を準備します」

「おぉ、とびっきりうまいもんを食わしてやれ!」

「ははっ!!」



 こうして、“けるべろす”は、領内のそれはおいしいおいしい食事を食べさせてもらい、すっかり殿さまになつかれてしまいました。

 いつなんどきも城の前には、この“けるべろす”が寝そべっていたのです。

 それ以後、ここのお城はお犬様の住まわれる地として、長い間繁栄と平穏な日々を手に入れることができましたとさ。


 余談なのですが、もし討伐していたとしたら、どうなってたのでしょうか? 血で血を洗う悲惨なことになっていたでしょう。ですが、お犬様の姿をしていたために、大事にならずに済みました。

 これもすべて道理なのかもしれません。


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ