それゆけ食いしん坊よ世界に出ろ
これから始まるかもしれない物語の話。食いしん坊の友情。
それは、およそ華の都と謳われた街の美しい公園に似合わぬ光景だった。
ベンチに少女らしき物体が蹲っている。通りかかった正道は驚きで目を丸くした。同じ旅人だとは思われるが。思わず近づいてみると、その少女らしき物体は小声でつらつらと言葉を紡いでいた。
「お腹が空いた・・・なんという失態だ、この美味い物しかないような街で財布をすられるなんて・・・仕事も見つからないしなんて不運・・・死ぬ前にこの街の食べ物をお腹いっぱい食べたかった・・・」
年の頃は15かそこら。肩までの黒髪に黒目の少女は言語的に考えても同じ国の出身のようだと判断した正道は、少女に声をかけた。
「そこのお嬢ちゃん?これまた何か呪っているような声音だが、どうしたんだ」
「お腹が空いて力がでない。財布はすられた。仕事は蹴られた。荷物は置き引きにあった。正真正銘無一文だ」
少女は声にこたえ正道を真っ直ぐに見つめた。その目はしっかりと「食物をよこせ」と訴えている。それなりに可愛らしい顔立ちなのに真顔でそんなことを請求してくる辺りが残念過ぎる。正道は若干げんなりしつつも、男として可愛い子を放っておくのはいけないと思い言葉を続けた。
「よし分かったお嬢ちゃん、同郷のよしみで一晩泊めてついでにたらふく食わせてやろう」
「よくいった。それでこそ男だ」
「君遠慮がないな」
言うとすぐさま少女は立ち上がり、真顔のまま正道に握手を求めてきた。苦笑しつつも正道は応える。あ、そうだとばかりに正道は口を開いた。
「お嬢ちゃんの名前は」
「小夜子だ」
「やっぱり同郷だな。俺は正道。みっちーと呼んでくれ」
「では私のことはさっちゃんと呼んでくれ」
挨拶をして、小夜子は早速正道に言った。
「みっちー」
「なんだいさっちゃん」
「お腹が空いた。ご飯をくれ」
「君もうちょっとその明け透けな物言いをなんとかしよう」
正道は笑いつつも、小夜子を自分の拠点に案内した。小夜子は満足そうににやりと笑ってついて行った。美人が台無しである。
この後の二人の、美味しい物をひたすらに追いかける旅の行方をここで語るのはやめておこう。
二人はそれぞれの目的の為に別れ別れになるが、この時結ばれた不思議な縁は続き・・・
「初めまして、本日付で営業第三課六班に配属されることになりました、葵です」
「俺は正道。お前の担当だ。みっちー先輩と呼んでくれ」
更なる出会いを生むこととなる。
「えっ、葵ってさっちゃんの兄貴だったのか」
「うちの妹がお世話になりました」
食で巡り合った現世の縁。
読んで下さってありがとうございました。
物凄く短いですが楽しんで読んでいただけたら幸いです。
書いていても楽しいお話でした。