木曜ドキュメンタリー 「近年急増する八月三十一日症候群の実態」
八月三十一日に必死をこいて課題を消化する全ての学生に捧ぐ……
ピッピッピ、ポーン
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今日は何日だろうか。そう、二〇〇六年八月三十一日木曜日、一般的な学校の夏休みの最終日である。今、このテレビを見ながらも学校の夏休みの課題でハアフウ息を切らせて明日に間に合わせようとしている生徒が多いことだろう。しかし、現代の若者たちは何故普段から宿題をやっておかないのか? これこそが近年医者の間で言われる「八月三十一日症候群」の症状である。この病気はあなたも知らないうちに感染しているかもしれない。今日の木曜ドキュメンタリーでは、近年増加のめどを知らない八月三十一日症候群の実態に迫っていこうと思う。
木曜ドキュメンタリー
「近年急増する八月三十一日症候群の実態」
今年も八月三十一日症候群の季節がやってきた。近年を中心に多く発生するこの症例は未だ跡を絶たないという。
八月三十一日症候群とは夏休みは七月二十日頃から始まっているにも関わらず、八月三十日まで宿題に一切、もしくはそれに近いほど手を付けずに八月三十一日になってから手をつけるという、生活習慣病などに並ぶ現代病の一種である。この症例が見られる人は、八月三十一日になると友人・知人に連絡を取り、課題を写すパターンが多く、実際にきちんと課題をこなす症例は皆無という。課題の量が八月三十一日の二十四時間で割ると、人間の出来る量を超してしまうことが大きな原因である。
またこの病気の大きな謎が一つある。A山大学の青山教授にうかがった。
A山大学医学部教授 青山氏の話
「どのような計算をしても、八月三十一日にあらゆる手を尽くして宿題をやるよりも計画性を持ってやったほうが遥かに楽に、無駄な体力を使わずに課題を消化することができる結果が出る。つまり、この病気にかかると本来よりも面倒くさく辛い方法を自ら選ぶようになってしまうのです」
面倒くさい・疲れたなどと、昔の人間に比べて文句が多いと比較される若者たち。何故そのような若者たちの間でこのような不可解な病気が流行するのか。青山氏はこうも言う。
「計画性を持ってコツコツと課題を消化することは、体力は使いませんが忍耐力・根性などに値する部分を使うことになります。ただ忍耐力も底が知れています。この病気にかかったが故に使う体力よりかは大分マシなはずです」
つまり忍耐力の不足が、この病気の流行につながっているようだ。
ところで、この病気にかかってしまう原因は多岐にわたると言う。そこで街角の中高生でこの病気にかかっている人に聞いてみた。
東京のAさんの場合
Q:この病気にかかってしまったのは何故ですか?
A:塾をはじめとする習い物です。月曜ピアノ、火曜剣道、水曜塾、木曜ピアノ、金曜塾、土曜塾、日曜塾。そんなことをしていると、宿題なんてやってる暇ありません!
Q:なるほど(?) それでは八月三十一日木曜日はどうするんですか?
A:その日だけピアノを休みます。
大阪のBさんの場合
Q:この病気にかかってしまったのは何故ですか?
A:病気? 病気なんかじゃないよ! 当たり前じゃん! 楽しい夏休み! 思い切り過ごさなきゃ!
Q:勉強は?
A:八月三十一日で十分! 一日も費やしてあげるんだから、ありがたく思いなさい!
A山大学医学部教授 青山氏の話
「この人の場合は、典型的な八月三十一日症候群の症例にあたります」
名古屋のCさんの場合
Q:この病気にかかってしまったのは何故ですか?
A:病気っていうか周りのみんなそうだから。むしろ毎日コツコツやってるほうが病気だと思う。
A山大学医学部教授 青山氏の話
「昔と違い、この病気の患者の方が多い今、治療は昔より難易度が高くなっていることがうかがえます」
もう一つこの病気には謎がある。
そう、八月三十一日に苦労するくらいならいっそ諦めてしまえばいいのでは?
そこで彼らにもう一度聞いてみた。
Q:八月三十一日に苦労するくらいならいっそ諦めてしまえばいいのでは?
東京のAさんの場合
「え? いやそれは……」
大阪のBさんの場合
「そりゃそうだけど……」
名古屋のCさんの場合
「それは言いすぎだと思う」
皆、やらないとまではいかないようだ。これについても青山氏に聞いてみた。
A山大学医学部教授 青山氏の話
「八月三十一日症候群のもう一つの特徴として、八月三十一日になったらやるということがあげられます。この八月三十一日症候群が無かった昔は、宿題を友達同士や先生・時には親と協力して終わらせるようにしたものですが、今の社会は八月三十一日にみんなやるという常識というか共通概念を持ちながらも、『宿題なんかまったくやってない』という言葉に対する強い疑念感も裏に潜んでおり、宿題をやってないと互いに誤魔化しあいながらも最終的には本当に置いてけぼりにされないように一応やろうとするわけです」
それでは最後に教授からこの病気の克服法をうかがい、まとめをして終わることとしよう。
A山大学医学部教授 青山氏の話
「先ほど言いましたように、うわべだけの信頼関係とその裏に潜む疑念の心がこの病気を生み出していると言えます。そこでやはり一番の克服策は気の許せる友達と協力をして計画的に、課題を消化することでしょう。お互いの家でも、図書館でも構いません。友達同士でやれば励みになること、間違いありません。急には無理でしょうし、これが出来る課題と出来ない課題とがあると思います。是非出来るところから実践をしてみて、この病気を克服してください」
青山教授、ありがとうございました。
それでは、友達と一緒に計画的で有意義な夏休みを過ごしていってください! それではまた!
……もう遅かった。去年の八月三十一日もこんなこと放送してたような……。
ドキュメンタリー仕立てでしたがいかがでしたでしょうか?
筆者自身も夏休みの課題消化率は50%です。私なんか近年では始業式に宿題を終わらせることもしばしば……皆さんはくれぐれも非計画的な夏休みをお過ごしになることのないようお気を付けください!ってもう遅いか……。