第四話 ニ度目の結果
その日、俺は仕事を終え家に帰って来ると、郵便受けに一通の葉書が入っていることに気が付いた。
大学進学と共に実家を出て、隣の市で一人暮らしをしている俺に、私的な手紙が届くことは珍しい。郵便があっても毎月の支払等の封筒などだ。
その珍しい手紙は黒い枠で縁取られた少々暗い印象の手紙だった。内容は少なく、日時と場所、そして一つの苗字に数人の名前が連なっていた。
それは大西夕紀の通夜の案内だった。
その手紙の内容に頭が追いつかないのは、前回の通夜は、同級生と疎遠であり幸宏経由で通夜を知らされていたからだ。
「なぜ…?」
良くも悪くも、前回と違う道を辿ったはずなのに、なぜ、また夕紀が死ななければならないのか。そう考えながらも思考は通夜の日、仕事を休ませて貰うため電話を掛けていた。
◇
通夜当日、幸宏に連絡を入れようとしたが、この幸宏は、一度目のように俺が夕紀に紹介してないから接点は薄いんだ、ということに気が付いた。
(それに、元クラスメイトだし同じように案内来ているだろう。会場に行けば会えるさ)
そして通夜はしめやかに執り行われた。通夜に参列する人数は、前回よりも心なしか少なくなっている気がした。
(これも俺が与えた歪みのせいか…)
前回は生徒会副会長に就任し、持ち前の優しさと、気さくさ、明るさなどに加えて、自信や、経験を積み、人脈も増え人として一皮むけたと言ってもいいほど変わった、今回それらの機会を、俺が潰してしまった。
通夜に来る人の数で、その人の人生の幸せを計れるとは言えないかもしれないが、その変化を仕方ないなどと、無視できる性格ではなかった。
元クラスメイトや夕紀の家族に挨拶をして会場を出る。前回と違った意味で俺がそこにいてはいけないような気がしたからだ。
「ふぅ…」
手に持った、会葬御礼の紙袋を握り直し駅のホームで電車を待つ。
「よう」
後ろから多少気さくな、しかし声色は若干低めな声で呼びかけられた。
「ん?幸宏か」
「なんだか早い帰りだな。もういいのか?」
「まぁな、なんだかあの場に居づらくて」
「そうか」
そう言って幸宏は、静かに俺と並び立つ。隣に立つと分かるが幸宏は俺より数センチ背が高かく、学生時代は茶色だった髪も黒く染まっていた。
「…」
「…」
自分よりも背が高く、昔と違って優男風ではなく、眉間にシワを寄せた厳しい顔をしている相手が、横で黙っているのはただでさえ重い空気をさらに重くさせる。
そんな、なんとも言えない雰囲気を掻き消すかのように、電車がホームに滑り込んで来た。
その後も、俺達は会話を交わすこともなく、無言で窓の外を眺めていた。
「…俺は乗り換えるけど幸宏はどうする」
「…俺もそっちに気になる事があるから…」
「そうか…」
俺は、高校のあった場所の近くを通るように電車を乗り換えた。なぜかそこに行かなかればいけないような気がしたのだ。女々しいかもしれないが、懐かしい景色に夕紀の姿を追っているのかもしれなかった。
乗り換えてから数分後。
「雨…降ってきたな」
幸宏が窓から外を見ながらそう呟いた。確かに窓にポツリポツリと水滴が当たり、斜めに流れていた。
「前もこんな雨の日だった…」
「え?今なんて」
景色に集中していた俺は、幸宏が呟いた言葉を聞き取れず聞き返そうとした時
“次は鎌子、鎌子。お降りの方はお忘れ物ご注意ください”
いつか聞いた懐かしいアナウンスが流れた。
その音声と、金属同士が擦り合うような甲高い音を聞きながら
俺は、突然の衝撃に宙を舞った。
出会いから失敗して後悔した結果はやっぱり悔しくて