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第十二話 四度目の暴露


 ◇

 スポーツ大会は二日間に渡って行われる。スポーツ大会と言っても球技ばかりなせいで、一度に行える競技が少ないためだ。バレーボールをしている時はバスケットボールが出来ないし、サッカーをしている時は野球が出来ない。さらには、野球の他にキックベースなどもあり試合会場が被る事が多い。例外として、硬式テニスと軟式テニスはコートが別々に有るため、初日で終わっていたりする。




 スポーツ大会初日。

 曇り空ながらこの時期にしては気温が低すぎる事もなく、程よいスポーツ日和だった。

 初日はほぼ全ての競技で準決勝までが消化される。割りと強行スケジュールなので、野球などの競技でさえ時間制となっている。そして勿論元々時間で区切られるスポーツは大幅な時間削減で試合が行われる。


 俺が参加するサッカーに関して言えば、前後半十五分にインターバル二分で一試合三十二分となっている。決着がつかない場合はジャンケンやPKなど、その時審判する生徒によって采配が下る事になっている。審判は試合のないクラスのサッカー部が務めるので、俺達はただサッカーを楽しむだけだ。





「さてースタメンは集まったかなー?」


 監督兼選手である祐也が、緊張を感じさせない声で、周りに集まるチームメイトに声を掛ける。

 三年は全部で七クラス。それに有志チームを三つ加え全部で十チーム。有志チームはトーナメント表の端に寄せられ、全部で四試合行う予定だ。その内二試合を今日行う。

 当初の予定通り、俺は今日の試合でスタメンだ。


「智之ー頑張ろうなー」


 祐也の話を聞きながら柔軟をしていると、同じくアップをしている幸宏に声を掛けられた。こいつも俺と同じ試合に出る事になっている。いつも一緒に球蹴りしているメンバーは気心が知れてやりやすい。


「まあカッコ悪い所は見せられないからな」


 幸宏のクラスの女子がどんな選手分けをしているか分からないが、夕紀は時間があれば必ず見に来てくれるだろう。そんな時に負けようものなら、今日一日は顔を合わせるのが嫌になる。それぐらいには自尊心が高い。

 やはり、どうせ見せるなら勝利している姿だろう。

 それも、出来ればサッカー部が多いクラスに。


「と言うことで、あまり気負わずに気楽にサッカー楽しもう」


 物思いに耽っている間に、作戦会議が終わったようだ。作戦を聞かなくて平気なのかと言われれば、別に問題ない。どうせいつもと同じ内容だろう。つまりは、


「よく周りを見て、仲間を頼って、チーム全体で勝とう、か。毎度ながらよくこれで全体がまとまるよな」

「まあそう言うな、去年からみんな一緒に球蹴りしてるんだ。特にあれこれ言わなくても今までの積み重ねで分かるだろ」


 伊達に放課後集まっていない。それが俺達の強みなのだろう。誰に強制されるでもなく、ただボールを蹴るのが楽しいから集まる。

 体力こそ厳しい練習を毎日繰り返しているサッカー部とは比べるまでもないが、狭い場所でやっているため小手先のテクニックや、チームワークは高いはずだ。


「ま、そうだな!とにかく楽しくやろうぜ親友!」

「馴れ馴れしいぞ親友」


 憎まれ口を叩きながら、俺はボールを取りに行く。親友という俺の発言に驚いている馬鹿と、時間までパス回しでもするために。





「縦抜かせるな!」


 第一試合前半はどちらも得点のチャンスを活かしきれず、0対0で後半を迎えた。

 今は後半が開始して5分前後。

 今声を上げたのは相手チームの生徒だった。縦を抜かれる。サッカーの縦とは長方形のフィールドで長辺方向の事を言う。その為、自陣から敵陣へまっすぐ放つロングパスなどは縦パスなどと言われる事が多い。

 今俺はその縦パスを受けるために、敵の選手の裏へ走りこんでいた。

 どうやら相手チームのディフェンダーはサッカー経験があまり無いようで、簡単に裏を取らせてくれた。

 鋭いロングパスを振り向きながら胸の上側、やや肩に近い位置でトラップし、落とす。


「智之!ファー!!」


 フォワサイド。ようするにボールがあるサイドとは遠い位置に有るサイド。逆サイドなどとも言われる位置だ。

 そこにチームメイトが走り込んでいるのが分かる。よく見ればそのさらに奥にも、幸宏が走り込もうとしている。


「おらよ!!」


 二枚あればどちらかが決めてくれるだろう。そんな願いと共に、俺はゴールラインぎりぎりからセンタリングを上げる。






 第一試合を2対0で勝利した俺達は、続く第二試合までしばしの休憩をしている。

 とは言っても、ニ試合目は午後に設定されている為だいぶ空き時間があるのだった。


「余裕だったなー」

「どこがだ」


 確かに第一試合は、サッカー部があまり居ないクラスだったので、そこまで苦戦するほどでは無かった。

 しかし、それでも2点しか取れなかった。初戦ということもあって身体が固かったようだ。いくらアップをしても、いざ試合になれば緊張で身体に力が入る。動いている内にそれも取れてきたのは、試合の推移から見ても分かる。前半0得点、後半2得点。

 次の試合はチームの半数がサッカー部というやや手強い相手だ。緊張で動きが鈍るなんて言っていては、勝てる試合も勝てなくなる。


「まあまあ堅いことは言いっこなしで、女子の応援行こうぜ?」

「いや俺達クラス違うからな」


 野球の試合の準備をしているグラウンドを横目に、俺達は体育館へと続く外階段を登る。

 丁度今の時間なら、夕紀がバレーの試合に出ているらしい(幸宏情報)。


「体育館履き取りに行くのめんどいから、靴下でいいかー」


 二人はそのままペタペタと、体育館へと進入する。入り口から見て奥と手前に二面バレーボールのコートが出来てる。体育館を横に区切っている形だ。同じく体育館で行われるバスケの試合も同じように二面コートを作る。

 ちなみにサッカーはどうだったかと言うと、これも同じく横長のグラウンドを縦に区切り二面フィールドを作っていた。体育館に近い方のフィールドは、女子からの声援が届きやすいのは言うまでもない。


「お、やってるやってる」


 どうやら幸宏のクラスは、手前側のコートで試合をしているようだ。

 得点は20対17と幸宏のクラスが有利。このまま行けば勝てるだろう。


「夕紀も小さいのによく動くな」


 さすが引退したとはいえ、元バドミントン部。相手のサーブを機敏な動きでレシーブしている。


「まあ運動神経はうちのクラスでも上の方らしいからなー」


 これは驚きの事実だ。普段何も無い所で躓いたり、転びそうになったりするのに…。

 この前だって自分の足に引っかかって俺の背中に追突してきた程だ。いや、まだ何か引っかかるものがあるなら良い方か…。閑話休題。


「お、終わったみたいだぜ?」


 幸宏とくだらない話をしていたら、試合が終わったらしい。こちらを見つけ、夕紀が小走りで近付いて来る。

 が、途中で足を止めるとそのままUターンしてしまった。いやもはやあれはVターンのレベルだ。


「??」

「??」


 そんな光景を見た俺と幸宏は、訳も分からず立ち尽くすほか無かった。






 午後の試合の前にあるのは、勿論昼飯だ。スポーツ大会では、昼休憩に豚汁を無料で貰うことが出来る。要するに炊き出しというやつだ。

 冬のこの時期に外でスポーツをすると、動いている最中は暖かくても、休憩に入れば汗が引き寒くなる。そこで活躍するのが豚汁供給だ。




「こりゃ亡者の列だな」

「人多すぎ…」

「待ってる間にさらに冷えるわ」


 昼になり理恵や夕紀とも合流し、こうして豚汁の列に並んでいるのだが食べ盛りの高校生が豚汁に群がる光景を目の当たりにすることとなった。

 それにしても、合流してからも夕紀が一向に喋らない。俺と眼があっても慌てて逸らす事の繰り返しだ。


「どうかしたのか?」

「っ!?」


 ビクッ!といった反応で、少し俺から離れた。こういった反応をされると多少なりとも傷付く。


「あー、気にしないであげて。その子汗のニオイ気にしてるだけだから」


 俺の前にした理恵が、首だけこちらへ向けながら、投げ捨てるように言った。


「り、理恵!?言わない約束は!!」

「だって、別に気にするほどのことでもないでしょ」


 一見すると乙女らしさに欠ける発言だが、理恵の言う通り汗の匂いなどそこまで気にする程の事でもない。


「それに夕紀の汗の匂いなんて嗅ぎ慣れてるでしょ」



「え?」



「え?じゃないわよ。どうせ進むとこまで進んでるんでしょ?」

「うわ~男の俺でも遠慮して察する程度にしてたのに…」

「なるほどな」


 確かにゲスい。あまり過敏に反応すると、理恵にさらに追求されそうなのでポーカーフェイスを貫く。が、


「そそそそそ、そんなことしてないよ??!」


 もう一人がダメダメだった。

 まあ若い好き合っている二人が同室に居て、そう言った行為にならないほうが不健全、と言ったら暴論かも知れないが。それなりに進展はしている。まあ、特に語る必要が無いので語らないが。


「やっぱりね…」


 半目でこちらを睨む理恵。眼を合わせるべきではない。これは決して負けでも臆病でもない。そう長期的な考えあっての戦略的撤退だ。


「でも、ほら…私だけ汗臭かったら恥ずかしいし…」

「…」

「…」

「…」


 これは爆弾だ。地雷だ。


「へー、二人で一緒にかく汗なら気にならないって事ね」

「え!?え!?」


 理恵よ、言いながらなぜ俺ににじり寄る。


「さて、豚汁豚汁~」


 幸宏が何も聞かなかったかのように、豚汁を受け取りに行く。それに追随するように俺も前へ!




「ったく。ちゃんと幸せにしなさいよね…」


 理恵の横を通り過ぎる時、小さな俺にだけ聞こえる声でそう言われた。ずっと心配で心配で仕方がなかったのだろう。


「ああ」


 短くそう答え、豚汁を目指す俺だった。








 午後の試合は4対1で圧勝した。

 別に何が理由というわけではないが、何故か俺が2ゴール1アシストという、本日MVP並の活躍をしてしまった。


「夕紀ちゃんが見てると、お前神がかってるな」


 そう幸宏に言われたのは、誰にも明かせない。

 別に何が理由ということはないのだ。そう、夕紀が応援していたことはさしたる理由ではない。






ペラペラと喋らなくても


分かるよね?



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