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第十一話 四度目の球祭

 ◇


「うおーーーーー分からん!」

「ちょっと待て!これってあってないのか!?」

「解答がズレてるぅぅぅぅぅ」

「選択問題のバカヤローーーーー」

「いやいや見直ししたぞ俺!!?」

「こんなのやってねえーーーーーー!」

「終わった…もう終わった…」

「…」




 以上、今月頭にあった期末テストのダイジェストだ。

 見て分かる通り全部幸宏の悲鳴と絶望で埋め尽くされている。

 理恵は中間テストの結果が思ったよりも伸びず、期末までの間コツコツと勉強していたようで、今回は無難に通過。

 祐也は、前回もどうして勉強会に参加したのか、分からないぐらいに優秀なので割愛。

 夕紀を俺は普段通りに地道に期末を終わらせた。






 季節は冬真っ只中。今年最後の月に入っていた。

 期末テストと前後して、センター試験の申し込みなどがあったようで、クラス内の緊張感は今がピークのようだ。

 中には、授業中に他の教科の参考書を開いていたり、追い込み具合が分かりやすいクラスメイトも居る。

 理恵や祐也とも、今月に入ってからはあまり会話を出来ていない事は推して知るべし。

 そんな中、俺は夕紀が側にいる三年の冬を初めて迎えようとしていた。






 学校の中と打って変わって、外へ出ればそこはクリスマスムード漂い始める街だ。

 ここで俺は漸く思い至った。


「クリスマスプレゼントだ…」


 今の俺はバイトもしていないので資金が無い。きっと夕紀は、どんなものでも嬉しそうに笑って受け取ってくれるはず。

 でも、どうせなら驚かせたい。


「さて、少し癪だけど頼むならアレしかないよな」


 そう決めると俺は、バスに乗ることも忘れ夢中で駅まで走っていた。そのほうが少しでも早く何かが出来そうだったのだ。

 勿論気のせいだが。





 ◇


「おはよー」


 教室に鞄を置き、廊下でぼーっとしていると横から声を掛けられた。誰の声かは聞き間違えようがないが。


「おー。おはよう夕紀」

「なんだか最近お疲れ気味?」

「まあちょっとな」


 表に疲労が見えるほど腑抜けていたか。いかんいかん油断した。


「最近眠りが浅くて疲れが取れないんだ」


 これはある意味事実だ。最近何故か夢見が悪く、それがどんな夢かは覚えていないが何故かいつも魘されて起きる。


「試験勉強の疲れが後を引いてるかなー?大丈夫??」

「体調は問題ないよ。ありがとう」


 初めは何かの暗示かと警戒していたが、数日経っても何も状況に変化が起きなかったので、ただの疲れだと思うことにした。


「そうだ、丁度良い。クリスマスイブ空いてるか?」

「平気だよー?デートのお約束?」

「そうだな。久しぶりにどこか行くか」

「やったー!すごく嬉しいよ!」


 生徒会の活動からも解放され、進路の憂いも無くなり、年末の今やっと俺と夕紀は自由を満喫出来るのかもしれない。

 そうだ、これは昔の俺が望んでいた未来だった。夕紀と一緒に居ること。ただそれだけをあの時から望んでいた。

 子供のようにはしゃぐ夕紀を見ながら、俺はそう思っていた。





 ◇

 そして遂に今年最後のイベントがやってきた。

 クリスマス。



ではなくて…



「しゃーーーーーおらーーーーーー!」

「サッカー部なんかに負けんじゃねーぞーーー」

「運動部がなんぼのもんじゃーーーー」


 暑苦しい。

 うちのクラスにも運動部が何人もいるが、去年から始まったスポーツ大会では運動部に所属している人間よりも、所属はしていないが運動が好きな生徒のほうが燃えている。

 事前申請すればクラスを超えて有志でチームを作ることも出来る。主にこのルールのせいで、打倒運動部と言った気風が吹き荒れているのだと思う。

 かく言う俺もその一員ではあるのだが…。


「去年の雪辱だ!」


 細かい記憶が定かではないが、去年一回目となるスポーツ大会では運動部に惜敗したようだった。

 見渡してみれば去年同じクラスだった連中に加え、祐也のクラスメイトで放課後球蹴り仲間なども見かける。

 ようするにここにいるメンバーはスポーツ大会におけるサッカー有志チームというわけだ。


「どうした智之。また考え事か?」

「ああ悪い、ちょっとな」


 思えば俺はいつから、こんなに考え事をするようになったのだろうか。

 自問自答のような、自分に話しかけるような事が多くなった気がする。


「で、俺はスタメンなのか?ベンチなのか?」

「一応第一試合、第二試合はスタメンだ」

「了解」

「準決勝と決勝はベンチだな。体力温存ってとこだ」


 有志の人数が割りと多いため、交代要員は少なくない。そのため、チームメンバーの厚さは保証できる。


「まあ左利きが5人も居れば順番に使っても余るぐらいだしな」

「だなー」


 ともあれ、スポーツ大会の作戦会議は滞り無く済んだようだ。

 実は監督兼選手としての祐也が優秀だった事に起因するのだが、あまり目立ちたくないようなので触れないでおく。






 ◇

 迎えたスポーツ大会当日。生憎の曇り空だった。肌寒さを感じるグラウンドでは、各々入念にアップを始める姿が見受けられる。俺はまだジャージを着ている状態だが。


「気合入りすぎだろ…」


 試合開始どころか、開会の宣言が校内放送でされるまであと三十分もある。

 昇降口のガラス戸に、対戦表を貼っているスポーツ大会の実行委員らしき生徒もびっくりだ。


「おー智之!お前もアップか!?」

「どこの馬鹿連中かと見に来てみれば、案の定お前らか…」


 元クラスメイト数人の顔が視界に入る。ついでに幸宏も。


「グラウンドの様子を見に来たら身体動かしたくなって、ついな」

「つい、じゃねえよ」


 すっと背後の校舎を見上げると、見物客のように窓から何人もの生徒が、こちらを眺めている。その中に夕紀や理恵の姿もある。


「あそこから見てる生徒からしたら智之も同類みたいだな!」

「嬉しそうに言うんじゃない」


 そのまま引きずって昇降口へと戻る。後を追いかけて馬鹿どもも付いて来たので安心した。本当に単純で熱しやすい奴らだ。

 そう思いながらも自然と口元が緩むのが分かった。




「ああ、きっと今の俺は悪い顔してるな」



熱血 友情 気合 集中 

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