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第九話 四度目の休息


 ◇

 文化祭も終わり、教室の窓から見える景色も夏からだいぶ秋らしさを見せ始めた頃、生徒会選挙の時期になる。

 現生徒会が三年主体なので、ここで二年生、一年生へとバトンタッチするわけだ。

夕紀が務める副会長という立場も、残す所数日となっている。放課後なども引き継ぎ作業などをスムーズに進めるために、一年間の行事や活動報告などを整理しているようだった。

 なので文化祭以降なかなか会える時間も取れず、お互いに寂しい時間を過ごしていると信じたい。





 ◇

「はよーっす」


 今日も気の抜けた挨拶で教室へと入る。ここ最近はなんだかやる気が抜けてしまっている。文化祭が終わって気が緩んだのかもしれない。


「今日もやる気ないなー」

「そろそろ中間もあるし…ってお前は推薦組か」

「でもあまり点数低いと推薦取り消しあるかもよ?」


 三年にとって明日から行われる生徒会選挙はあまり関係がない。勿論生徒会役員などは忙しく動きまわっているが、みんなはそれよりも選挙後にある中間試験のほうに、意識が向いているようだ。


「まあ、毎日の積み重ねがあるしあまり焦る必要もないだろ」

「出たよ優等生発言。藤田は本当に面白みのない奴だな」

「真面目っていうか本当に同い年かっての」

「どっかで留年してんじゃね?」


 中学で留年とかないから。などと突っ込みを入れつつ、今日もダラダラと気の抜けた一日が始まった。






 昼休みになり、みんなそれぞれ席を動き始める中、俺は隣のクラスへと足を向けた。

 昼休みも仕事をしているようなので、一緒に昼飯とはいかないものの、無理してないかの確認だけでもしておこうと思う。決して一目見たいとかそう言った女々しい感情では無い。断じて無い。


「おいっす」


 教室へ入るとすぐ近くに幸宏が居たので仕方なく声をかけてやる。


「お、智之どうしたー?って夕紀ちゃんしか用事ないか」

「ほっとけ」

「で、夕紀は居るか?」


 ぱっと教室を見渡してみても、夕紀の姿は見当たらなかった。


「残念。さっき生徒会長が来て一緒に出ていったぜ?」

「そうか」


 会えなかったのは残念だが、急ぎの用事が入るのは仕方ない。


「そういやちょっと疲れてそうだったな」

「昨日も閉門ぎりぎりまで作業してた見たいだぜ?」


 幸宏の周りに居た生徒も、体調が悪そうな夕紀を気にしていたのか、自分が知っている話をしてくれた。


「なんか生徒会長が色々仕事を回してるとか聞いたぞ」

「俺は自分が彼氏と別れたから、やっかんでるとか聞いてる」


 生徒会長に関する噂になってしまったが、どうやら俺の事をあまり良く思っていないようで、俺と会ったりする時間を削ろうとしているんじゃないかという噂が生まれた。


「まあ生徒会選挙が終わって、お役御免になればゆっくり出来るだろう」


 噂話から陰口になるのを避けるために俺はなんでもない風にそうみんなに言った。誰よりも俺自身がそういった噂の怖さを知っている。

根も葉もないのに花が咲く。花が咲けば新しい種が生まれる。

そんな風に拡大する怖さは、他の誰であっても味わって欲しいとは思えない。






 ◇

 選挙活動が開始してもう4日。もう一週間の選挙前運動も折り返しの時期になる。それなのに夕紀の忙しさは一向に落ち着く事はなかった。

 俺のクラスメイトも最近俺が夕紀と一緒に居ないことに気が付いたらしく、時々様子を伺いに来たりもする。

 三年に上がってもう半年。俺がこの体に入ってからでももう結構経つ。

 陰口を言われたり、俺の事をあまり良く思っていなかったクラスメイトも、ここの所色々イベントがあったお陰で、だんだんと打ち解けることが出来た。

 なので、もはや遠慮が無くなっている。


「なあ初体験が上手く行かなかったから最近イチャイチャしてないのか?」

「いや、こいつらまだキスもしてないんじゃないか?」


 簡潔に言えば下世話。良く言えば思春期特有の。


「あのな、何度も言うがただ忙しいだけだ」


 でもよー。何人もが口を揃えてそんな反応をする。文化祭からまだ二週間。そこまで目立って不仲なイメージは無いはずなのに、こうまで人の意識の上に流れやすいとは…。

 何か覚えがあるような。そう思った時、


「智之いるか?」

「トモいるかい?」


 親友と幼馴染、その両方が前後のドアから俺を呼んできた。二人は廊下側で何か頷くような仕草をすると、廊下へ出るようにジェスチャーをしてきた。








「なるほどな」


 二人が俺に急ぎ伝えたかったこと。それは、


「まだ確証はないんだけど、玉置がなんかしてる気がするんだな俺は」

「僕の方もちょっと良くない噂を聞いたよ」


 今回の俺たちがちょっとした理由で会えない期間を利用して、玉置がまた良からぬ噂を流しているということだった。


「しかも今回は、生徒会長を巻き込んでの話だからね」

「生徒会長が彼氏と別れた事もネタにするなんて、あいつは…っ!」


 信任投票で決まるほど今の生徒会長の人気はすごかった。あまり派手な外見はしていなく、ただ単純に生徒会長らしい出来た性格だった。それも保守的な性格ではなく、夕紀と一緒にスポーツ大会なんて一行事を、年間予定表に追加させるほどの行動力もある。


「玉置くんは人気ある生徒が嫌いなのかな?」

「それならそれで、ただの嫌な奴で終わるんだけどな」

「狙いが俺と夕紀なら、どこか違う目的があるんだろうな」


 狙いは夕紀ただ一人だ。俺が知っている歴史じゃ、人気であればダントツの生徒会長にちょっかいを出しているあいつを見たことがない。


「そうかー。ならとりあえずどうするよ」

「僕としては、生徒会長巻き込んだ事は失敗だと思うんだよね」

「まあな」

「なんでだ?」

「生徒会長は、ただ人気があるだけじゃないって事だよ」






 ◇

 次の日から徐々に生徒会長が夕紀を虐めているなど、根も葉もない噂は聞こえなくなった。それと時を同じくして、俺と夕紀がモメているなんて噂もパタリと止まった。

 これに関して言えばなんともありがたい話だ。生徒会長の悪い噂が消えていく過程で、それの元となった俺達の噂にも疑問を持つ人が多く居たのだろう。人に流されやすい事が、良くも悪くもそういった結果を呼び込んだようだ。




 昨日、俺も祐也も同じ事を思っていた。生徒会長が動けなくても、その回りにはちゃんと理解者がいるはずだと。

 玉置は俺の印象は壊せるだろう。

 なぜなら俺は玉置と同じ一般生徒で、なんの実績も特徴もない平凡な生徒だ。ただ、夕紀を彼女に出来たことで運が良いなんて印象はあったかもしれないが。

 しかし、生徒会長や夕紀の印象はそう簡単に侵せない。俺なんかよりずっと多くの時間、多くの視線の中で活動していたのだから。

 一時的に疑問を抱かせても、すぐに自分が本来持っていた印象を思い出していく。


「まあそういう事だな」

「なるほどなー。よく分からないけど」

「まあ無事に終わって良かったじゃない」


 生徒会選挙も無事に終わり、新しい生徒会が発足した。所々の引き継ぎ作業なども、散々時間を掛けて準備したお陰で滞りなく終わったようだ。

 なぜそんなに時間が掛かったり忙しかったのかというと、


「あの子ったら全然手を抜かないし、細かい所までいちいち説明付け加えるから、時間いくらあっても足りなかったのー」


 と言う事らしい。


「私達の代で作っちゃったスポーツ大会の事も、その目的とか委員の仕事とか、とにかく一から百まで全部書類に残そうとするんだから困っちゃったよー」


 俺達は今学食のテーブルで話をしている。俺が夕紀と一緒に居られなかった時間を埋めたくて呼んだのだが、それに幸宏が付いて来て、さらに校内をウロウロしていた祐也も合流した形だ。ここに理恵が居れば俺の親しい友人が揃うことになる。


「って事は夕紀ちゃんだけが忙しかったわけじゃなくて、生徒会長を含め全員が忙しかったのか」

「そうだよ~」


 俺の隣に居た夕紀は、思い出しただけで疲れが蘇ったかのように、テーブルにグダーっと体を倒した。その情けない姿を見て、みんなで笑っていると、


「これから中間テストが始まるのにそんなだらし無い事でいいわけ?」


 夕紀の後ろから理恵の声がした。顔だけそちらへ向けると何故か睨まれた。


「うー酷いよー。私頑張ったのにー」


 夕紀は恨めしそうに後ろへと振り返った。それもかなり緩いスピードで。

 それが更に理恵のスパルタ心に火を点けたようだ。


「推薦組だかなんだか知らないけど、テストの成績悪かったら怒るからね!」

「なんだよ、ただの僻みかよ」


 幸宏がいらんことを呟いたせいで、その場は修羅場と化したのは言うまでもない。





いつも気を張っていると疲れちゃうよね

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