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第二話 四度目の準備


 次の日、俺は志望校と学科を書いた紙を持って職員室を訪れていた。


「うーむ」


 教師の表情はあまりよろしくない。


「志望動機、学力、内申。どれをとってもギリギリのところだな」

「そうですか…」


 公立の普通科から、デザイン系の専門学校や大学への進学はあまり薦めることが出来ないようだった。

 勿論、才能が遅咲きだったり努力が好きな人間なら別だが。当時の俺はそのどれのも当てはまらず、本当に平凡な成績、内申点もきっと良くも悪くもなく、むしろこれから少しずつマイナス方向へ進むだろう。

 デザイン系に進むなら美術の成績も加味されるだろうが、あいにく十段階評価で七というなんとも言えない評価。


「今の時期ならまだ他に進路を探すことも出来るだろう」

「いえ、どうしてもこの進路が良いんです」


 きっと頑固さは伝わっただろう。俺はどうしてもこの進路で、この職業を目指したいんだ。

 そんな気持ちを感じ取ってくれたのか、


「まあ推薦は出来ないわけじゃないからな。そこまで言うなら書類を提出するといい」


 進路担当の教師はそう言いながら、自分の机の方を向いてしまった。


「ありがとうございます」


 そう言うと、教師は首だけこちらを向きながら、


「担任からの評価だけじゃ、生徒は分からないもんだな」


 手で追い払う様な仕草をしながら、目の前の教師はそう呟いた。






 昼休みにそんな話をしていたため、昼飯を食いそびれた。なので俺は、授業が終わりHRも終わるとすぐに学食へ急行した。

 うちの学校の学食は席数が驚くほど少なくほぼ座れないので、ほとんどの生徒が購買か弁当、またはコンビニを利用する。だが、放課後は人が少ないのでのんびり出来たりする。

 まあ、三年生にでもならないとそんな利用方法を実行に移せない、暗黙の空気があるのも事実だが。


「おばちゃん何残ってる?」


 放課後に何が食べれるかは昼の売れ行きで決まる。保存が出来る物が残ればいいが、保存のしにくい物が残れば出せる物が大きく減る。


「そうだねー。カレーが少しと、後はうどんか蕎麦だね」

「ならカレーうどんで」


 こういった無茶も、放課後だから出来る事だろうと俺は思っている。

 頼んだものが出てくるまで、学食を見回す。今日もあまり人が居ないようで、座っている生徒も少ない。

 その中で、俺はある人物を見つけた。



「ここ座るぞ」


 カレーうどんを受け取り、後は何処に座るかだったが、俺は迷わずさっき見つけた生徒の横へ座った。


「え」


 声は普段より大人しめで、少し掠れていた。


「一体何の用よ」


 俺が来るよりも早く此処に居たという事は、HRに出ていないのか。それとも、もっと前から授業に出ていないのか。


「そう食って掛かるな。飯が不味くなる」

「不味くなるなら他へ行けばいいでしょ」


 俺は、そんな意見をスルーしてうどんを啜る。


「ったく何なのよあんた…」

「何のことだ?」


 食事中に喋るのはマナー違反だが、俺はこの凶暴娘と話がしたかった。


「…」


 だんまりが返って来たので、食事を再開する。カレーにも和風出汁を使っているのか、うどんの汁に合わせても違和感が無い。学食にしてはまともな食事にありつけた気がする。


「…聞いたわよ。なんか喧嘩したらしいわね」


 うどんも半ば食べ終わったのを見計らったのか、そう言われた。


「喧嘩なんて大事じゃない。ただ言い返しただけだ」


 横目で顔を見ると、ショートカットの少女が堂に入った睨みを俺に向けていた。

まあ目を細めていてもなお、可愛らしい感じは残っているが、本人に言うと手が飛んできそうなので汁と一緒に飲み込む。


「今までのあんたなら、それすらしなかったでしょ」

「まあな」

「今までのあんたなら、きっと聞こえないふりをして逃げてたのに」

「だろうな」

「あの子も、そんなあんたを心配して自分に何か出来ないかって色んな人に相談してたのにっ」

「そうだったのか…」


 俺が不甲斐ないせいで、夕紀を追い詰めていたのか。最終的にあいつの罠に嵌ってしまったのも、それが原因だったのかもしれない。

 自分一人の視点で、何もかも分かった振りをするのはやっぱりダメだな。


「いったい何があったのよ」


 俺は答える前に自分の中で整理しようと思った。汁を飲み干しながら自分がこれから何をしなければいけないかを考えた。

 横のツンデレはその様子をただ黙って見ていた。


「特に」

「そんなわけないわっ!」


 たっぷり溜めたせいで反応も激しかった。が、出来ればもう少し我慢して聞いていて欲しかった。


「特に何があったとかそういうんじゃない」


 言い終わると同時に、持っていた器をテーブルに置いた。

その音が心無しか学食に大きく響いたような気がした。きっとそれは、俺の気持ちが現れていたのかもしれない。


「ただ、何が一番大事か思い出しただけだ」


 そう言って、隣にいる女子生徒をしっかりと見る。俺の気持ちが伝わるように。


「木村。手を貸して欲しい」

「…っ!?何よいきなりっ!!」


 目の前の女子生徒、木村理恵は夕日に顔を朱く照らされながらそう狼狽えた。


「夕紀をずっと笑わせてやりたいんだ」

「だから、俺に纏わり付く今の状況をどうにかしたい」


 俺だけでなく、夕紀も傷付ける噂。それらを払拭するだけの話題。それを俺はこれから、学校中に示さなければならない。


「木村だけじゃない」


 そう言って俺はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、短縮で電話帳の4番目を呼び出した。木村は俺の言葉を整理しようとしているのか、綺麗に切りそろえられた前髪を揺らしながら、ウンウンと唸っていた。


「…」


 暫く呼び出し音が鳴ると、


『もしもし~』


 何処か気の抜けるような、それでいて芯が通っているような、そんな不思議と心地良い声が耳に届く。


「手伝いをして欲しい」


 短くただそれだけ言う。


『ははは~待ってました~』


 何処か嬉しそうにそう言ってくれた。


『それでこそ僕の幼馴染だよ』

「詳しくはまた連絡する」

『はいよ~』

「ああ、またな祐也」


 心強い幼馴染の返事も聞けた。後は数人俺に手を貸してくれそうな人間を浮かべる。


「木村。決めたか?」

「何よ。そんなにせっつかなくても分かってるわよ!」


 ブツブツと文句を言いながらも、最後には快諾してくれた。


「頼りにしてるからな?」

「わ、分かったからこっち見るな!!」


 時間も経ち、学食が夕日の朱から蛍光灯の白に変わっても、木村の顔は朱いままだった。








 帰りにバスで指摘したらガッツリ足を踏まれた。

一人で解決出来ると思ったら一度深呼吸



きっと失敗する事に気が付く

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