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第七話 三度目の異変


 文化祭が終わり、日曜日、さらに振替休日と休みが続き、漸く昨日の撤収日に文化祭の名残も消えた。

 それに伴いクラスでは、明日に控えた生徒会選挙の公示に備え、立候補者の有無を話し合っていた。


「うちのクラスからは生徒会副会長一名と書記二名の三人で決まりかー?」


 副会長は言わずもがな、大西だ。書記には木村と、驚くことに幸宏が立候補した。


「それじゃあ、立候補した者は、それぞれ選挙活動のサポーターと決めておく事。それじゃあHRを終わりにする。号令!」


 選挙活動のサポーター。今回は木村も立候補している為、クラスの女子が大西の手助けをするだろう。しかし、木村はなんとなく分かるが、幸宏はまたなんでこんなチャレンジをしたのだろうか?


「なあ勿論サポーターやってくれるよな?」


 そうこう考えていると、当の本人が目の前に現れた。前の席に座っている幸宏だ。


「その前に、なんでお前は立候補なんて」

「ちょっと待ちなさいよ。智之にはあたしのサポーターになってもらうんだから」


 これは俺の言葉を遮るように右から現れた木村の発言。しかし、何処からそんな発想が生まれてくるのか、ちょっと心配になるぞ俺は。


「えっと、智之くんサポーターお願いできないかな?」


 後ろからおずおずと声を掛けてくるのは大西。生徒会役員の立候補者を決める前にあった席替え。その結果が、今出た通りの席順になったのだ。俺の前に幸宏、右に木村、後ろに大西。

 席替え直後にこの大惨事では、先が思いやられる。因みに教室での位置は廊下側の後ろだ。昼休み、購買にいち早く行けると幸宏は喜んでいた。


「どっか別の所に意識飛ばしてないで誰のサポーターになるかさっさと決めなさいよ」


 右の悪魔は逃避すら許してくれない。まさに悪魔。


「何か言った?」


 普通にしていれば、ショートカットの黒髪美人なのに、なんでそう凄むかなこの子は。


「いや?ただ、理恵の髪少し伸びたなって」

「なっ!?」


 瞬間湯沸し器発動。


「智之、後ろで夕紀ちゃんが唸ってるぞ」

「ん?」

「うーうーー」


 とても可愛い生き物が居たので取り敢えず撫でておく。ラブコメ臭が半端無いが今はこれで話を誤魔化しておく。


「それで、誰のサポーターになるんだ?」


 誤魔化されないという、空気が読めない男が一人いた。


「んじゃ幸宏で」

「んじゃってなんだよ!んじゃって!」


 サポーターになってやろうってのに贅沢な奴だ。


「それじゃあ他の奴にするかな」

「俺の他に、智之をサポーターにしたいなんで奇特な人は…」


 なんだかこんな話の流れに覚えがあるな。


「あたしが居るけど?」

「私もーーーー!」

「そうだった!」


 何を馬鹿な事をしているのやら。しかし、困ったな。いつの間にこんな状況になるほど仲良くなった?


「それじゃあ2日交代でサポーターになってもらうってのは?」


 選挙期間は公示する日から一週間。実際に選挙活動をするのは選挙前日の立候補者演説までの6日間だ。その6日間を三人で分けると言うことか。


「俺は別にいいけど、そうすると俺が居ない残りの4日間はどうするんだ?」

「そんなの他の友達に頼むわよ」

「なら6日間友達に頼めよ」

「嫌よ」

「なんでだよ」


 なんで木村がそこまで俺にこだわるのかが分からなかった。ひょっとしてこいつ俺に気があるんじゃ…なんて単純な脳みそは勿論持ち合わせていなかった。


「文化祭で上がった、あんたの知名度を利用したいのよ」

「俺の知名度??」


 そんなものが、いつ出来たのだろうか。


「まがりなりにも、劇で主役をやった生徒が有名にならない訳無いでしょ」

「ま、俺もそれに乗っかろうと」


 悪気を感じさせずに爽やかにそう言った幸宏。なんかイラッと来たのでアイアンクローをしてやった。


「馬鹿やってないで、理由に納得いったならどうやって二日間分けるか決めましょう」


 こいつは…本当に俺の意見を聞こうとしないな。

 こうして俺は半ば無理矢理三人のサポーターを押し付けられた。


「嫌なら良いのよ?」

「別にそこまで嫌じゃねぇよ」





 ◇

 ―サポーター一日目―


「今日は幸宏か」


 適当にやろう。


「おい!そういうことは思ってても口にするなよな!」

「悪い、口に出てたか」

「思いっきり口にも態度にも出てるわ!」


 そう言って俺を指差す。俺は今昇降口に設置されたベンチで横になっていた。


「生徒会書記候補―えーっと苗字なんだっけ。まあいっか。幸宏をよろしくお願いしまーす」

「鈴田だよ!鈴田幸宏!チラシにも幟にも書いてあるだろ!」


 昇降口に居る生徒は皆クスクスと笑いながら通りすぎていく。


「ホント頼むぜー…」


 これはこれで成功だと思うんだが。認知度的に。



―サポーター二日目―


「あんた…巫山戯たら蹴るわよ」

「さーいえっさー」


ガスッ


 こいつ、本気で蹴りやがったっ!


「もう一度だけ言ってあげるけど、巫山戯たら殴るわよ?」

「生徒会書記候補!木村理恵!木村理恵をよろしくお願いします!」

「ちゃんとやれば出来るのにあんたってホント馬鹿ね…」


 木村が何か言っていたような気がしたが、必死に働く俺には何も聞こえなかった。



―サポーター三日目―


「また幸宏か…」

「今日は真面目に頼むぜ?」

「分かった分かった」

「生徒会長候補○○○○さんをどうぞよろしくお願いします!」

「俺を応援しろよ!」


 これもまぁまぁ受けてたな。


―サポーター四日目―

 今日は大西のサポーターのはずなんだが…選挙活動をすると言っていた場所に大西の姿は無かった。


「確かにここだったはずなんだが」


 大西が選挙活動をしていたのは昇降口を出て右側、体育館のある棟と教室がある棟の間だ。ここは、テニスコートやグラウンドが近いこともあって、運動部を中心に知名度を上げることが出来る。

 体育館で部活をしているバドミントン部やバスケ部、バレー部などにはある程度顔を知られているだろう、大西ならではの場所選びだと思った。


「電話してみるか」


 そう思い携帯電話を取り出す。すると、すぐ側にある体育倉庫から物音がした。放課後なので物音がしてもおかしくはないのだが、やけに大きな音だったので少し気になった。怪我人なんかが出ていたら大事だ。

 携帯電話を制服のポケットに入れると、俺は倉庫へ向かった。


「誰か居るのか?居るなら返事か何かしろー」


 体育倉庫の電気は点いていなく、埃と体育倉庫ならではの鼻にツンと来る臭いで充満していた。

 ガタガタッ

 どうやら人は居るようだ。仕方が無いので電気を点けようとしたが、どうやら電球が切れているようで点かなかった。手探りで得点板や、ボールの入ったカゴなどを避けながら奥へ進んでいく。


「おい、どういうことだ」


 そこで見たのは、男子生徒に抑えつけられている大西の姿だった。

 怒りで沸騰するよりも早く、冷えていく頭は状況を正確に理解しようとした。

 衣服の乱れはある。が、幸い乱れているだけで既に乱暴をされた後ではないようだ。

 手は白い紐で結ばれ、足も同じように結ばれている。

 口は布か何かで塞がれているようで、上手く言葉を発せられない。

 俺を見る眼が涙で一杯になるのが、高い位置に設置された窓からの光の反射で分かった。

 漸く物音に気が付いたのか、男子生徒がこちらに振り向こうとする動きが見て取れた。


 人数は二人。

 何やら携帯電話を持っている奴と大西の身体を押さえつけている奴だ。

 俺は、こちらに比較的近い、携帯電話を持っている生徒の襟首を引き寄せ、そのまま地面に転がす。

 転んだ拍子に落とした携帯電話を、拾おうとした生徒の手ごと革靴の踵で踏みつける。


「――――――っ」


 声にならない声を出しながら、手を踏まれた男子は床を転がり続けた。


「お前誰だっ」


 漸く事態が飲み込めたのか、大西を押さえつけていた男子も腰を上げ、こちらに身構えてきた。

 胸に付いている胸章の色から、一年生だということがここで分かった。


「先輩に対する態度がなってないな…」


 別に普段そんなことは気にしないが、今はそんな気分だった。

 こちらを睨みつける男子の体格は俺よりも少し大きめで、幸宏を少し太くした様な感じだった。

 こんな男子に抑えつけられて大西はさぞかし怖かっただろう。


「ここで何していたんだ?」


 少し近付くと、大西は自分の姿を俺から隠すように横を向き、身を丸めた。

 ここまで近付くと、その後ろ姿が小刻みに震えているのまで分かる。


「何をしていたんだ?」


 一向に答えない眼の前の男子に嫌気が差し、足を大きく踏み鳴らす。

 密閉された倉庫に思ったよりも大きな音が響いた。


「う、うるせぇ!」


 その音に驚いたのか、男子生徒は俺に向かって手を伸ばしてきた。

 その手を外側に避け、すれ違うように腹部に膝蹴りを入れた。避ける時に何かを踏んだような気がした。

 腹を掛けて倒れていく男子を見ながら足元を見ると、さっき踏みつけた携帯電話が、さらに砕けていた。

 倒れている二人に適度に追い討ちをかけた後、大西に声を掛ける。


「もう大丈夫だ」


 すると


「ふっ…くっ…グスッ…ヒック」


 泣くのを我慢している大西を解放するべく、縛っている紐を解く。解いていく事に泣く声は大きくなり、解き終わる頃には大声を上げて泣いていた。そんな大西を俺はずっと撫で続けた。




 大西が泣き止むのを待ち、保健室へ送った後、俺は体育倉庫に残してきた二人を問い詰めていた。


「上級生に命令された、と」


 少し脅したらすんなり吐いた。


「誰かは教えられない、と」


 二人は激しく頷いていた。ここで俺は少し探りを入れることにした。


「口は開かなくていい。ただ、今から言うことが合ってたら素直に頷け」


 二人は少し考えた後、ゆっくりと首を立てに振った。俺の予想通りならすぐ終わる。


「二年ではなく三年」


 頷く。


「部活の先輩」


 頷く。この二人が部活に入っている事はさっきの尋問で分かっていた事だ。


「それも女子の」


 この発言に二人は少し肩を震わせた。別におかしな話ではない。全て、俺の経験したことから導き出した答えなのだから。都合三回の経験値を舐めてもらっては困る。

 因みにさっきの荒事も場数の違いでしかない。都合青春三回目にもなれば、それだけそういった場面にも出くわす。元々喧嘩に強いわけではないので、もっと大人数で、喧嘩慣れしている上級生に囲まれたら、どうにもならない。


「バドミントン部の女子三年」


 これがこの二人に命令をした犯人だ。


「それもキャプテン。女子バド部の部長か」


 目の前の二人は眼を見開き、俺の顔を見てくる。なぜそんな事が分かるのかと言った表情だ。


「もし、次こんなことがあったら」


 そう言いながら俺は二人を解放する。今回の事を大事にしても、大西にとって良い事が全くない。

ただ、先輩には言っておく必要がある。



 体育倉庫から出て、そのまま外階段を上がり体育館へ続く通路を歩く。先輩も、この時間ならまだ部活中だろう。

 体育館へ入り、バドミントン部が居る場所を探す。どうやら、今日はステージ側で練習をしているようだ。


「先輩」


 数人の三年生がこちらを振り向く。当然先輩だらけな事を失念していた。


「藤田君?」


 ラリーをしていたのか、相手の部員に会話した後、こちらに目当ての先輩が来てくれた。


「どうしたんだい?もしかして入部?」


 汗のかき方から笑顔から全てにおいて、爽やかな雰囲気を出しながら、そう聞いてくる。


「いえ、夕紀の事で少し」

「夕紀?」


 その訝しげな評定は、俺が夕紀と呼んだことに対してなのか、それとも俺から大西について話を振られることになのかは分からなかった。


「さっきまで、夕紀が体育倉庫に監禁されていました」

「なんだって!?」

「詳しい話は向こうで」


 大きな声を出した事で注目を浴びてしまっていたので、俺は先輩を体育館の周囲を囲む通路に促した。


「夕紀は無事なのかい」

「今は保健室に居ます」


 こうして俺は、今回の事件の概要を先輩に伝えた。大西が、乱暴されそうになったことはぼかしながら。


「そんな…」


 犯人の予想も伝えたが、先輩の反応は鈍かった。


「先輩からも一つよろしくお願いします」


 先輩から、例の元カノに一言警告をしてもらえれば、きっと大西に対する嫌がらせは終わるはず。もう既に嫌がらせの域を出ているが。


「しかし、そんな事が…」


 どうやらまだ犯人が信じられないようで、必死に何かを振り払っているようだった。


「とりあえず俺は保健室へ行きます」

「僕も行こう」

「いえ」

「今の先輩を連れていくわけにはいきません」

「なんだって?!」

「夕紀の事を思うなら夕紀をちゃんと見てあげて下さい。今の先輩は夕紀を苦しめるだけです」


 そう言って俺は、先輩の返事も聞かずにその場を離れた。体育倉庫の出来事から少し興奮気味だったせいで、余計なことを言ったような気がしたが、紛れも無い本心だった。



「失礼します」


 保健室の独特な匂いを嗅ぎながら、俺は大西を探した。


「大西さんならお母様が迎えに来て帰ったわよ?」


 ベッドを直しているのか、カーテンの向こう側から先生の声がする。どうやら少し遅かったようだ。


「そうですか…様子はどうでした?」

「落ち着いては居たようね」

「ただ、すごく貴方の事を気にしていたわよ」

「俺の事を…ですか?」


 一体何を気にしていたのだろうか。怪我をしていないことは、保健室へ運ぶ最中に確認させたし。


「貴方を自分の問題に巻き込んだんじゃないかって」

「そんなこと…」


 それは俺が望んだことだ。むしろ俺の願いだ。大西の人生に関わっていくことこそ、俺がここに居る目的なのだから。


「気を付けなさい」

「何をですか?」

「女の嫉妬は恐ろしいわよ?」



 その言葉を聞き、俺は一刻も早く今の状況を変える為ある決意をした。どんな結果になっても、きっと状況は変わるはずだ。

 良くも悪くも…。


少しの変化の積み重ねが大きな変化になるもの

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