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【龍神様に攫われた~生きる望みを無くした極貧少女~】

作者: Marry西城
掲載日:2026/04/11

ドドドーーンガラガラ・・・・


ドドドーーンガラガラ・・・・


さっきまで晴れていた空一面に真っ黒な雲が覆い、雷が鳴り始めた。


まるで日が暮れたような有り様となり、


すぐに鱗のついた長い胴体が力強く雲の間をうねって来るのが見えた。


雲の隙間から一寸の光が指し、流れる血で遮られた望海の目の前にその光が向かってくる。


徐々にはっきりと人型となった光の中から現れた見目麗しい青年は望海に告げた。


【遅くなってすまない我が妃よ】






「早く行ってきなさい。のろまな子だね!」大声で罵倒しているのは義叔母のイネだ。

小屋の前で背中を竹竿で強く突かれて転び、痛みに顔をゆがめたが泣かないように

歯を食いしばっている望海のぞみだった。

「なんだい?睨んでいるのかい?生意気だね」


両親を山の土砂崩れで亡くした望海は7歳の頃から

父方の叔父キョウゴの家に引き取られて8年が過ぎた。


「帰る家もないあんたを引き取って育ててやったのはこの私だよ。

恩返しくらいしてもらわなくちゃ損ばかりだ。ほんとに厄介者だよ」


母親は古くから神を祀る神社の出だったが、良家ではない父親との結婚に勘当された。

家出同然だった母親が亡くなっても望海を引き取る親戚など居なかった。


まだ小言が続きそうだったので両肩に担いだ棒に水桶をぶら下げて慌てて逃げた。

秋風が吹く中、使い古した草履をひっかけて畑の間を抜けて小川まで来た。

井戸があるのは御屋敷持ちの庄屋くらいだ。


そんなお屋敷へ時々出入りして編んだ草履や頼まれた物の

買い付けなどを行っている叔父の家には井戸などなかった。


重たい二つの桶にできるだけ砂が入らぬよう小川の水の上澄みだけを流し入れた。

多く水を入れた帰りは望海が担いだ棒が肩に食い込む重さだ。


今日はこれで3回目・・・家の水甕に入れるのに、

幼い望海の力では一度でいっぱいにはならなかった。

3回目の水汲みを終えてようやく仕事が終わった時は既に日が暮れていた。

軋む入り口を開けて入ると叔父のキョウゴとイネそして

2歳年上の従姉サエの夕餉が既に終わりそうだった。


「望海どこほっつき歩いていたの?あんたが入ってくると臭いわ」と語り出したのはサエだった。

閉じられた障子の向こうからでも声が聞こえる。


自分の食事は無かった。鍋に少し残っている汁物を器に入れた。

鍋に焦げが少し残っていた。そげ落として汁物に入れれば、ふやけて量が増す。

茶の間には上がらず土間に正座して音を出さぬよう、今日初めての食事を口に運んだ。

以前、長式台に上がって食事をしようとしたら、

イネに蹴られて土間に落とされてからはそうしている。


娘の言葉にイネは大声で笑ったが、叔父のキョウゴは何も言わずに俯いたままだった。

望海という食い扶持が増えた事で自分の女房に頭が上がらないのだ。


キョウゴは望海に食べ物をくれる事もあったが、

イネに見つかると受け取った望海が折檻されるのだ。

手で叩かれるだけでなく、焼けた火箸で背中を殴られる事もあった。

そんな事があると徐々にキョウゴからの施しも減って行った。



ある朝、キョウゴは既に仕事に出ていた。

イネに何度も呼ばれたサエは文句を言いながら起きてきた。


「望海が私を起こすのを忘れたのよ」

「え?サエお嬢様に頼まれていませんが・・・」

「何あんた私に噓をつくの?お母さ~ん」

「いえ、嘘などついては・・・ヒッ!」


後ろから来たイネは何も言わず、望海の髪を鷲掴みにして後ろへ引き倒して脇腹を蹴った。

「この厄介者のくせに、私達ご主人様に対して嘘をつくのかい?あんた!」

引き倒され蹴られた痛さも忘れて、望海は土下座した。

「申し訳ございません。すみません」

ただひたすら謝罪してこの場が過ぎるのを待った。

「すみません、すみません」


その姿を見てサエは顔を歪ませてニヤリと笑った。

土下座したままの望海の前を通り過ぎる時、揃えられた手を思いっきり踏み付けて行った。

痛い・・・・・

しかし望海は一言も言葉を漏らさなかった。

痛そうにうめき声をあげればイネもサエも喜ばせるだけだから。


********************


サエは手習いに行っていた。

将来は大きな商家へお嫁に行くのよと母に言われていた。

母曰く、サエは器量良しだから商家だけでなく

大きな地主からも嫁入りの話があるはずだと聞かせてくれた。


そのサエは日々、お茶を点てる手習いに行っているが

自宅で練習するわけでもなく、ただ菓子やら何やらを頬張り尽くすだけだった。


最近はお琴も習い始めた。まだ始めたばかりなので、

先生も周りのお嬢様たちも優しく指導してくれるが、

家での練習を忘れていると毎回言われている。


着物を縫えるようにも通っているが、針が指に刺さるのが辛くて辞めたいと思っている。

この家は庄屋の奥様が教えているので、母からは辞めずに続けるようにと言われている。

嫌々ながらも誉め上手な奥様なので1年続いている。


きちんと寺子屋へ文字や数はじきなど教わりに行ったが、

行っているだけで同じ寺子屋の子との遊びに夢中だった。


寺子屋からは宿題も出ているが、

帰宅してから望海にも学ぶ機会を与えてやっている。

先ほどの着物の習い事から出る宿題は勿論、望海に縫わせている。


当たり前だ、サエの綺麗な指に針痕などついては

嫁入りの話が有った時に困るだろうと考えている。

どんなにお菓子を頬張り、身体がブクブクと太っていっても

、体形に合わせて望海が縫い直してくれる。 

私が手習いの機会を与えてやっているのだから望海は感謝しているだろう。


*******************


望海は幼い頃お社へ文字を習いに通っていた。

両親が畑仕事をする間、可愛がってくれた神主さんの

奥方様から手習い的に教わっていたのだ。

既に子供達が成長して独立し、幼い望海を孫のように可愛がってくれた。

7歳前には数はじきも教わっていた。

手習いの後には美味しい茶菓子を振舞われるので、

幼いながらも奥方様の美しい所作を真似ていたものだった。


********************


ある日の夕方、手習いを終えて自宅へ向かう小沼の脇を駆けていると

背の高い草の間に綺麗な着物が見えた。立ち止まると誰かがいるようだ。


「う・・うう・・」

辛そうに声を発していた。

「誰ですか?痛いんですか?」

「う・・ん」

「そっちへ行っても良いですか?」

言い終わる前に足は草の茂みに進んでいた。

少し草のないところに男の子が辛そうに蹲っていた。


足から血が出ている。

「大丈夫ですか?痛そうですね」

数十分泣いていたのだろう男の子の頬には涙のあとがあった。

足の傷も酷そうだった。


薬も持っていないし・・・自宅まではまだ暫くかかる。


少し先にガマの穂が見えた。あっあれで何とかならないかな。

ガマの花粉は止血作用がある。

花粉を何とか少し集めて傷口に当てて、

縛るものがないので自分の着物の襦袢を裂いて巻き付けた。


「ちょっとだけだけど、これで家まで間に合うと思います。」

男の子は驚いた顔をして見つめていたが、望海と目が合いニッコリと微笑んだ。


「ありがとう・・・」

「いいえ、どういたしまして」

「今度は僕が助ける」

「あははありがとう。じゃ気を付けてね」

と言ってすぐに自宅へまた駆け出した。


「あっ名前・・・・」聞けなかった。

男の子は名前を聞けなかった、あの優しい女の子が

巻いてくれた襦袢を見てほんのり赤くなった。


********************


朝日が昇る前、雲の間で姿を隠しながら、兄からの攻撃を避けていた。

8歳上の兄は飛ぶ力も強くそして速かった。

将来の龍神家を受け継ぐ者として日頃から鍛錬を必要としていた。


昨日から父が神龍頭の集まりで出掛けて、鍛錬の日だとは聞いていない。

でも飛龍兄は長男である自分に鍛錬の日だと父が言い残して出掛けたと言い切った。


弟の宇龍は母親から授かった魔力は使えるが、まだまだ幼い身を護れる程ではなかった。

「宇龍、そんな事だったら我が龍神家は護れないな。もうそろそろ自分の弱さに気付くべきだ」

と笑いながら、悔しがる宇龍に一撃を食らわせた。


龍神の戦いは村の民が被害を被らないよう魔界で行っている。

ところが精魂尽きかけた宇龍は魔界と隣り合わせの現世へ魔力切れで落ちてしまったのだ。


そんな時だったから、望海に助けられて辛い心に何か温かい物を感じた。

足の傷も辛い心もは見る見るうちに癒えていった。


********************


数年が過ぎ義叔母のイネに頼まれたお弁当をサエお嬢様のところへ届けた帰りだ。

朝寝坊のサエがお琴の手習いに駆け出していく際に、持って行くのを忘れたのだ。


学び舎の扉をコンコンと叩くと中から若い丁稚が出てきた。

中で習っているサエお嬢様にお弁当を届けに来た旨を伝えると

無言で受け取ったが扉は直ぐに閉じられてしまった。


ちゃんとサエお嬢様に渡してくださるかしら?

サエとは従妹になるが、義叔母のイネからはお嬢様と呼ぶように言われていた。

不安に思いながら帰り道を歩いていると、

村一番の庄屋の門が開き、子ども達が数人飛び出してきた。


寺子屋学び舎の男子達だわ。こんな遅く、今の時刻から行くのかしら?

直ぐに視線が合いその中の一人が言った。

「ああサエんところの女中だ」

女中じゃないわ、従妹よ。

しかし声にはならなかった。


大柄の子が肩からぶつかってきて倒されたからだ。

「痛い」

「あははは」

「情けねえ姿だな」

倒れた望海の顔めがけて、砂を蹴ってきた。

「うっ・・・やめてー」

「うはははは面白れぇ」


「そう言えばサエの筆をこいつが盗んで持って来れなかったとか言ってたぞ」

身に覚えのない話だった。きっと筆箱を入れ忘れたのだろう。

「手癖も悪いのか、どうにもならない奴だな」


そう言うや否や4人が一斉に望海を蹴り始めた。

一人が背中に足を置き、望海が逃げ出さないように押さえ付けた上でだ。


側には数人の大人たちが通り過ぎたが、誰一人としてそれを咎める者は居なかった。

庄屋の息子だからだ。


何度も蹴られ腕や足だけではなく顔からも血が流れてきた。

ドカッ!バキッ!

ぐふっ・・・げぶっ・・・

あははははははは

もう私駄目かも・・・我慢してきたけど・・・もう。

血の流れる顔に涙も加わってぐちゃぐちゃになってきた。

徐々に抵抗する気力も無くなってきた。


******************


ドドドーーンガラガラ・・・・

ドドドーーンガラガラ・・・・


さっきまで晴れていた空一面に真っ黒な雲が覆い、雷が鳴り始めた。

まるで日が暮れたような有り様となり、

すぐに鱗のついた長い胴体が力強く雲の間をうねって来るのが見えた。

雲の隙間から一寸の光が指し、流れる血で遮られた望海のぞみの目の前にその光が向かってくる。


徐々にはっきりと人型となった光の中から現れた見目麗しい、

しかし逞しく育った青年は望海に告げた。


【遅くなってすまない我が妃よ】


ぼろぼろになった望海は目の前に差し出された腕へ縋る様に手を重ねた。

震えていた筈の身体に温かなぬくもりを感じると、

地面から足が離れ、ふわーっと軽さを覚えた。


村人達の呆気にとられた顔が目の端に見えた。


村人に向かって龍神様が何かを告げたように聞こえ、

炎が見えた気もしたけれど、

しっかりと抱きしめられ鼻筋の通った凛々しい横顔を

間近に見て上昇しながら意識が遠のいた。


******************


「う・・ん・・」開いたまぶたの先に見えたのは

純和風の広い座敷と心配そうに顔を覗き込む・・・子ども・・耳の生えた。


「耳!」目の前の子どもに気付き飛び起きて布団からはみ出てしまった。

驚いたのは子どもの方で「うわぁーーん!」と大声で泣き出した。


ニャーーンではなく、うわーーんと泣き出した子どもに向かって

「大丈夫だって!僕たちに驚いただけだよ」と

頭を撫で始めた隣の子どもには長い尻尾がユラユラしていた。


呆気に取られていると、尻尾の長い子どもが語り掛けてきた

「お妃様お目覚めですね。3日間も目覚めなかったのです。

良かった本当に良かったです。旦那様に知らせてきます」と

二人とも部屋を出て行ってしまった。


泣いていた子が一瞬振り向いて涙目ながら私と目が合いニッコリと笑った。

かわいい・・・猫。


程無くして遠くから急ぎ足が聞こえたかと思うと襖が勢い良く開いた「目覚めたか!妃!」

そばに膝をつくとギュッと抱きしめられた。

「あっ・・え・・はい」

「すまなかった、お前を見つけ出せず迎えに行くのが遅くなって本当にすまなかった」

綺麗な顔が辛そうに望海を見つめている。

「あっ、いえ助けて下さって有難うございました」


「いやそんな事より大丈夫か?体は痛くないか?」

「大丈夫です」


ふっと自分の姿を見ると綺麗な浴衣で腕や足には包帯が巻かれていた。

手当してくださったのね。

ん?着ていた着物は?もしや脱がされた??


「腹は空かないか?」

ぐっぐーーーーっ『空きました』と、

お腹の虫が先に答えてくれた。

挙動ってしまった。


******************


あれからまた子ども達が呼ばれ、わらわらと集まってきて黒髪に櫛を通され、

綺麗に結わえられ可愛い花飾りが付けられた。


一緒に運ばれて来た高級そうな桜色の着物にも着替えさせられた。

と言っても立っているだけでスルスルと支度が出来あがった。

頬には薄らとピンクに塗られ、口元には紅をひかれた。


「お妃様とっても綺麗です」

「可愛いです」

「お肌も真っ白でつるつるですね」


周りに集まる耳やヒゲや尾っぽの生えた子ども達が

それぞれに誉め言葉を口にしてくれた。

そんな事ないのに。


「こちらですお妃様」

子ども達に先導されて着いた座敷は、先ほどの和室の倍くらい広かった。

襖が開くと既に龍神様が座していた。


「大変お待たせ致しました」

返事はなく、龍神様がポーっと口を半開きにしていた。

ハッとしてすぐに返事をした。

「いやそれほど待ってはいない」


心なしか龍神様の頬が染まっているような気がしたけど気のせいだと思う。


龍神様の向かい側に座ると、

目の前には色取り取りの美味しそうなお料理が沢山の小鉢に分けられていた。


「食べられない物はあるか?」

「いえ」

「ん、ではいただこうか」


側に居た子どもがお茶を入れてくれて

「ゆっくりお召し上がりくださいませ」と告げて部屋を出た。


まるでお豆腐のような真薯は柔らかく、ほんのりとエビの味がした。

天ぷらはアスパラ・タケノコ・ふきのとう・・・春野菜だ。


焼き魚は味噌の味がして、ご飯と合う。

猫ちゃん達も食べるのかしら・・・お魚・・ふふっと微笑んだ。


「美味しそうに食べるんだな」

「あっ申し訳ございません考え事をして・・」

「いや良いんだ。気にするな」


「猫ちゃん達が可愛くて、お魚を見たらつい思い出してしまいました」

「あいつ等は私の使役だ。お前の着替えや傷の手当てもしてもらった」


あっ龍神様には見られていないんだ・・・背中の傷。

着物の中の身体には醜い痕があった。

痛みは既に無くなったが火箸の叩かれた痕と

やけどの痕はまだくっきりと残っている。


「あの使役達は村の者に虐められていたのを連れてきた。

魔力を与えあのような姿で話もできる」

あの時は虫の息だった。


虐められていたのを助けたなんて龍神様はお優しいのね。

私の事も助けてくれた。


******************


あれから3か月・・・猫・・・じゃなく使役達と大きな屋敷の広い庭園で遊び、

龍神の宇龍からは毎日優しい言葉を掛けられている。


泣き虫だった幼かった宇龍も今では逞しく育ち

龍神頭の父から【次期龍神頭】の印も受け取っている。


「望海の傷が癒えたら祝言を上げよう」

「はい・・・嬉しいです」

望海はポッと頬が染まった。


日々の幸せを感じつつ・・・そう言えば、

あの後の現世の事が気がかりだった。

サエお嬢様や村の子ども達はどうしているのだろう?


「村の奴らにはもう二度とお前を傷つけられないようにしておいた、安心しろ」

「えっ?殺し・・・?」


「いや、家を一軒焼いただけだ。その後、不思議と風が吹いて二・三十軒焼けた程度だ」

二度と妃に手を出すなとちゃんと念を押して焼いただけらしい。


美丈夫な龍神は口角が上がり意味ありげにニヤリと笑った。

村の半分近いお屋敷を焼いちゃったのね。

~完~

報われない望海が龍神の宇龍とともに幸せを掴むお話です。

虐められる望海の辛い時間が短い方が良いと思い、短編とさせて頂きました。


文章に慣れておりませんが、少しの隙間時間に読んで頂ければ有り難いです。

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