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47/63

46 気持ち

 ・ ・ ・



「アッハッハッハ! 結構、結構! 実力行使で黙らせるとはな、セド! ゼファ、あんたもガキにしてやられたか! アハ、アハハハ!」

「笑いすぎだ! つ、慎め!」

「子ども扱いしないでくださいよ!」


 家まで送り届けてもらったので、そのまま一緒にムウさんに一連の出来事を報告すればこう、だ。食卓にムウさんのたいそう大きな笑い声が響く。


「神の首を斬る奴が他に居てたまるか。あー、面白い」

「我の知る限りでは、こんな恐れ知らずはニコくらいだろうな……」

「はあ? あんな気狂いの享楽主義者とセドを一緒にするな」


 突然の乱雑な物言いに、ええ、とゼファ様が困惑の声をあげる。そうか、ニコ様と僕に血の繋がりがあることをゼファ様は知らないのか。……ムウさんをこれ以上刺激しないためにも、黙っておいたほうが賢明かもしれない。


「しかし、急に心変わりしたんだな。何があんたを変えた?」

「……我はセドが、もっと軽い気持ちで、神を継ぐと言うておるのかと思っていてな。ちゃんと聞けば、ちゃんと決めておったから……応えたまで」

「そんな、僕は最初から――あれ?」


 ……思い返せば、今の今まで面と向かってお願いしていなかったかもしれない。継げます、としか伝えてなかった気がする。またその発言に至るまで、ぐずぐずと悩んでいるだけだった。それだけではない。


「僕、もしかして、ゼファ様に自分の気持ちを全然言っていませんでしたか?」

「ふむ、確かに? そこまで聞いたことがないな……」


 天井を仰いで、わざとらしく脱力して見せる。なんとまあ、勿体ないことをしていたんだ、僕は。気恥ずかしさを紛らわすように軽く咳払いして、みぞおちに手を当てて話し始める。



「――僕、ずっとゼファ様のこと、凄くお優しい方だなって思ってました。人のことを大事にするあまり、お疲れになられることも、傷つき悩まれることも多かったろうな、と。だからその肩の荷を少しでも下ろせるのなら、僕に神の力って荷物を預けてほしいな、って今は思います。……言ってない、ですよね?」

「ああ。初めて聞いた……」

「それに。僕にとって、愛するムウさんと永遠を過ごせるなんて、願ってもない幸福なんですよ?」


 冗談めかして言えば、ゼファ様の固かった表情が緩んだ。……ムウさんは横で怪訝な顔をしているが。事実だから仕方がない。


 実のところ、神になった後のことは何ひとつ考えていない。与えられる永遠をどうやって生きていくか、計画などてんでしていない。だけど、こんなにも柔らかく笑むゼファ様を見れば、この選択は間違いじゃなかった、と信じられる。


「セドも、本当に優しいな」

「ふふん。でしょう」


 ムウさんは腕を組み、呆れたように黙って目を閉じていたが、話の区切りだと分かるとおもむろに口を開いた。


「……ところでゼファ。神継ぎの後に予定はあるか?」

「む? 無いが」

「そうか。じゃああんたはうちに泊まっていけ。10日間ほど」

「何故だ?」


 ニタリと小さな口端を引き上げれば、クツクツとからかうように笑う。しかし目つきは〝薬師〟の時と同じ真剣さがあった。


「神の姿で何百年も過ごして、まともに人間生活を送れると思うか?……肉体の感覚などとうに忘れているだろう、恐らく食事も水分補給も、歩行さえもままならんよ。入院だ、入院。リハビリをしろ」

「そ、それくらい造作もない――」

「あんた、神継ぎ直後の人間に立ち会ったことがないのか? ニコでさえ失禁していたぞ?」


 ゼファ様は絶句していた。予想だにしなかったであろう情報にかなり引いている。代償を得るのは僕だけじゃなく、ゼファ様もらしい。これから生きる為の行為を強いられる身体となるのだ。


「……セドにはそのような姿、見せたくはないな」

「だ、そうだ。継いだあとは暫く出てってくれ」

「え? 嫌ですよ。ムウさんと他の男が二人きりなんて、首を刎ねるじゃ済まないです」


 さらりと返した僕の言葉に、ゼファ様は更に顔を強張らせた。あれ、そんなおかしなこと言ったっけ。いや、流石に怖いことを言ってしまったか?


「……お、お主、何というか、そこまでムウのことを……」

「ベッドはお貸ししますし、僕は階下に居ますから。手は出さないでくださいね」

「ああ……なに、幼子は趣味ではない。大丈夫だ」

「私とて、好きでこの姿をとっていないのだが?」


 こめかみに皺を寄せて強く悩むゼファ様と、ぷっと頬を膨らませるムウさんを交互に見やる。二人にいつか撫でて貰った頭や、抱きしめられた感触や、心細い時そばにいてくれた時間を思い出す。



 こうやって、二人が自身の感情や想いを繕うことなく、話せる日がきてよかった。


 二人が憂うことなく、すっきりと笑うことができてよかった。

 それに――ああ、いや。

 ちゃんと、口にしないと。


「……ムウさんとゼファ様に愛してもらえて、よかった、です」


 唐突だったためか、二人がパッとこちらを振り返る。


 しばらくして、ゼファ様は照れくさそうにはにかんで、ムウさんは不敵な笑みを浮かべながら、優しい声で静寂を破った。


「どういたしまして」

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