27 今まで通り
話を聞きつけた村のみんなが、暗い表情のまま何だ何だと表に出てくる。
「おい、祭りの道具は仕舞ったばっかだろ……」
「俺もそう思う。でもやるっつうんだよ」
「こんな時に何をやるんだ?」
「宴会、だとさ」
奥さんの要求に従って、徐々に机や椅子が運ばれてくる。疑心暗鬼になりながら広場に来た人たちが、手を動かしていくうちに真剣な目つきに変わっていく。あっちに寄せてくれ、ここに何を置いてはどうだ、そんな会話を繰り返されるうち、だんだんと聞こえる声に活力がこめられていく。
腕を組んで眺めているムウさんに、小声で尋ねる。
「ムウさんって、花の神でもあるんですか」
「違うぞ?」
何でもないことのようにけろりとしている。あんなに嘘が下手くそなムウさんが、ハッタリもいいところの大嘘を吐き通しているなんて、到底理解できない。しかし、どこからともなく花びらが生み出され舞っていたのは、ムウさんの神力によるものでなければ何なのか。
「じゃあなぜ、花が宙から落ちてきたんです。もしかして今、花の神様がここにいらっしゃる?」
「フ、私のような高位神は、似た要素をもつ中位・低位のマナも扱えるからな。花もその範疇な訳だ」
「地のマナの要素って、ええと……収束して、エネルギーを受けるマナ、だから……」
「簡単に言えば、固体全般ってことだよ」
何を簡単に解釈すればそうなるのか皆目見当もつかないが、ムウさんがそう言うのならそうなのだろう。マナの要素の話はどうにも概念的で、資料も全くない。言い換えてもらってやっと、なんとなくの実感が湧く。
「それにな。私が花の神でなくとも、祭りの伝承に乗じたほうが〝神様〟っぽいだろ」
腕を組んだまま、満足げな顔をしている。視線の先にはせわしなく動く村民たちの姿。
「――僕、みんなを手伝ってきますね」
夕方になれば、テーブルに数々の料理が並べられる。祭りの料理ではなく、村長が好きだったメニューが中心だ。僕はそれに花を添えるような献立を裏で作っていた。
奥さんが、広場の人溜まりに向かってぱちんと手を鳴らす。
「みんな、ありがとうね。傷心の人も、そうでなくても暗い雰囲気に当てられちゃった人もいるでしょう」
村民たちの視線が奥さんへと注がれる。誰もがお喋りをやめ、奥さんの言葉に耳を傾けている。
「かつて、花の神・ニコ様は村を飢饉よりお救いになるだけでなく、沢山の希望を与えて下さいました――そして今、花祭りの夜を迎え、花の神様が再びご降臨なさいました」
どよ、とざわめきが起きる。神様だって? 実在したのか? と聴こえてくる。普通に生きていればその存在に触れることはないだろうから、無理もない。
ちらりと隣を見ると、ムウさんが苦虫を噛み潰したような、ものすごい形相をしていた。
「……え、ムウさん?」
「やっぱり嫌だ。もう帰るぞセド。ニコは私の先代じゃないか。何が花の神だ、くそったれ」
「言い出しっぺはムウさんでしょうが。ほら、行きますよ」
「なぁっ――」
駄々をこねるムウさんの手首を掴み、前に引っ張り出す。小さい手をぶんぶんと振り回して反抗していたが、広場の中心が近づくにつれ、だんだんと大人しくなっていった。ムウさんは大人しく広場の中心に立てば、神力の光を身体に纏わせる。昼間の威勢はどこへ行ったのか、しゅんとしている。
「あー……私が花の神、ってことは黙っていてくれよ。私じゃない、なんか神が再降臨した、くらいにぼんやり話を止めておいてくれ」
ニコという神様がどんな方かは知らないが、あの言いようだと一緒にされたくないのだろうな。面倒そうに後頭部を掻き、足下の地面へとマナを注いでいくのが、夕の薄暗さの中でキラキラと輝いて見える。まるで、強く反射する金粉を撒いているようだ。
「まあ、先代も村長もお喋り好きだったからな。普段村にいない私のためにも、村長の話を沢山聴かせてもらおうか」
ムウさんを中心として円形にマナの注がれた地面から、背の低い葉や蔓が伸び、広がる。やがて色彩豊かなつぼみをその草葉のすき間につけていく。
「悼もう。――また巡り、陽だまりとならんことを祈って」
食事の前にするような指を組む祈りをしてみせれば、広場いっぱいに広がった蕾が一斉に開花する。神力を使われる時の威圧感やマナの光も相まって神々しい。僕もつい便乗したくなり、風のマナに意識を向けて、できたばかりの花畑を風で煽る。沢山の花弁や葉が舞い上がり、紙吹雪のように華やかに会場を彩っていく。
村民たちはその光景を見て呆気にとられていたが、やがてぽつぽつと拍手が起こり、歓声があがる。みんな、悲しみの渦中から希望を見いだしたような表情をしていた。
キッシュや蒸し鶏などが真っ先に取られていき、だんだんと焼き魚やサラダにも手がつけられ始める。空いているテーブルを中心に何人かで集まり、語らっているのが見える。奥さんが、こちらへゆっくりと寄り、ムウさんの手を取る。
「みんな、表情が明るくなりました。本当にありがとうございます、ムウ様」
「様付けなんて気持ち悪いぞ。……今まで通りでいい」
「じゃあ……ムウちゃん?」
否定も肯定も態度で示さないムウさんを、肯定の意で捉える奥さん。そのまま彼女がぎゅっとムウさんを抱きしめると、マナ構成体特有のひんやりとした体温に驚くが、ムウさんがゆっくりと抱き返すのを受けて、とびきりの笑顔を見せた。




