第6話 御子柴蓮は守りたい
ジェットコースター乗り場に着くとにはすでに行列ができていた。
「凄い混んでるねぇ...」
柳は人の多さに驚く。
「このくらい普通よ。さぁ、早く並びましょ!他の所に行く時間がなくなっちゃう!」
凪沙はみんなを急かして列の最後尾に並ぶ。
([仲直り作戦1、ジェットコースターで2人が隣同士になるようにして距離を近づける]だったわね!そして私も柳と隣になって距離を近づけるわよ!)
凪沙は仲直り作戦の計画を思い出しながら柳の方を見て考える。
だんだんと乗り場に近づきジェットコースターから聞こえてくる悲鳴の音も大きくなる。
「よーし、柳!一緒に乗るぞ!」
なんだかんだで柳と遊園地を楽しんでいる御子柴蓮は柳を隣に誘う。
(このままじゃまずい...昴!)
「蓮、俺が柳と隣でいいか?こいつ昔から俺の隣じゃないと怖くてジェットコースター乗れねぇんだ!」
「えっ...そんなことないけ...モゴモゴ」
昴は適当な理由をつけて柳の隣になるが柳が作戦を壊しそうだったので凪沙が慌てて口を塞ぎにかかる。
「5名様ですね。お入りください〜」
乗り場のスタッフがジェットコースターに案内し5人は歩き始める。
「せっかくだし月麦と乗ったらどうだ。」
「あ、あの……わ、私……」
昴は御子柴に向かっていい、月麦が何か言うのを振り払って自分はそそくさと柳とジェットコースターに乗る。
(なんで私が1人で...でも仲直りが優先ね。)
凪沙はガッカリしながら1人で乗り込み、月麦と御子柴は残される。
「...乗るか。」
「...うん...。」
御子柴が目を合わせないままいうと、月麦も恥ずかしそうに同意する。
「いってらっしゃ〜い!」
スタッフの見送りの声が響く中、ジェットコースターが動き出す。
「きゃああああ!!」
ジェットコースターの頂上からの落下で月麦が目をつぶりながら悲鳴をあげ、安全バーを掴むつもりが間違えて御子柴の腕をぎゅっと掴む。月麦は掴んでいることに気づいていないようだ。
「……っ!」
(こ、これは……いや、でも……!)
蓮は顔が熱くなるのが分かるが腕を掴まれているので動けずに重力に身を委ねる。
ジェットコースターのスリルも、叫び声も、その瞬間は全部遠ざかってーー
蓮には心臓の音だけが聞こえていた。
ジェットコースターが元の乗り場に戻り、ずっと目をつぶっていた月麦は安全バーを握っていたはずの右手が違うものを掴んでいることに気づく。
横を見ると顔を赤くした蓮が下を向いて沈黙していた。自分の手の先を見て彼の腕を握っていたことに月麦は気づく。
「ご...ごめんね!目つぶってて全然気づかなかった...!アハハ...」
「...」
「楽しかったか?」
「...え?...うっ、うん!楽しかった!」
しばらくの沈黙の後、蓮は相変わらず目を合わせずに言うと、月麦は戸惑いながらも笑顔で答える。
「...そうか、よかった...」
蓮は小声で呟く。
「すいませーん、降りてください〜!」
スタッフの声で現実に引き戻された2人は急いで降りて他の三人が待っている場所にいる。
(なんか進展あった見たいね。...私は全然怖かったけどね!しょうがなかったとは言えしっかり1人で乗ったわけだし!)
凪沙は心の中で柳と乗れなかったことを悔しがりながらも2人の様子を見て安心する。
「さぁ!さっさと次行くわよ!次!」
凪沙がそう言うと昴達が後に続く。
「わぁ!馬に乗れるんだ!」
と子供のようにはしゃぐ柳。
「高校生にもなって…」
と呆れる凪沙だったが、実際に回り始めると彼の笑顔に思わず頬を赤らめる。
「行くぞー!」
と全力で回す昴。
「ぎゃあああ!ストップ!吐く!もうやめろってばぁ!」
と悲鳴を上げる凪沙。
「僕はまだまだいけるよ!」
と楽しそうに笑う柳。
「昔いっしょにのったことあったよなぁ。」
「...うん。楽しかったよね...!」
対照的に、御子柴と月麦のカップはほとんど回らず、静かにのんびり会話が続いていた。
「凪沙どこー!?」
「バカ柳!はぐれんじゃないわよ!」
迷路の中でドタバタと騒ぐ二人。
「蓮ー!それ鏡だ!」
「いっってぇー!」
「大丈夫蓮くん!?」
鏡に映った昴を見て突っ込み頭をぶつける御子柴とそれを心配する月麦。
5人は次々と園内のアトラクションに挑戦していきすっかり夕方になった。
「ねぇ柳、お揃いのキーホルダー買わない?」
「いいよ!どれにする?」
日も翳りお土産屋に来た5人はお土産を見て回っている。月麦は柳と凪沙の2人のやり取りを見て楽しそうに笑っている。
「で...少しは話せたか?蓮。」
「なんのことだよ...」
お土産の棚を見ていた御子柴に昴は話しかける。
「わかってるだろ。宇佐美さんだよ。」
「まぁな...」
御子柴は少し目線を下にやって話し始める。
「小学校のとき、みんなに悪口言われたり、読んでた本を取られたりしてた月麦を放っておけなくて俺が守らなきゃって思ってたんだ。月麦に嫌な思いして欲しくないって。中学校でも一緒になったアイツは前よりも人と話したりするようになってきてちょっとずつだけど明るくなってた。」
「家に誘われて飼い犬のコユキと一緒に遊んだりしてた時にアイツがいったんだ。『“私と違って”可愛いでしょ!』ってな。俺はそれが許せなかった。自分に自信がない月麦にじゃない。月麦をそうさせてしまった全てが許せなかった。」
「俺がもっと早く止めてればってな。」
蓮は悔しそうに本音を打ち明ける。
「...そうか。それは本人には?」
昴の質問に蓮は黙って首を振る。
「だったら言わなきゃいけないんじゃないのか?」
「そんなのわかってるよ。でも...」
「お前さっき言ったよな。宇佐美さんには嫌な思いして欲しくないって。」
「いま宇佐美さんはお前と話せなくて嫌な思いをしてるんじゃないのか?」
昴は蓮の肩を掴んで言う。
「それはっ...!」
「いいから行けよ。できるだけ早い方がいい。」
「...ありがとな。」
「いいってことよ!」
蓮の礼に昴は笑って答える。
(凪沙も今頃上手くやってるだろ...俺、この後どうしようかな...姉貴になんか買って帰るか...)
昴は少し寂しそうにため息をついてお土産屋コーナーをみて回るのであった。
「じゃあ最後観覧車乗ろっか。」
観覧車に向かいながら凪沙は月麦に向かって言う。
「あのさ月麦ちゃん。月麦ちゃんは御子柴くんとなんで喧嘩になった思う?」
「...それは、私が変なこと言って、蓮くんが不機嫌そうになって、それで私が怒ったから...?」
「御子柴くんはさ、たぶん月麦ちゃんのせいで不機嫌になったわけじゃないと思うよ?」
「えっ...?どういうこと...?」
「御子柴くんも月麦ちゃんも言葉が足りなかっただけなんだと思う。」
「だから御子柴くんと仲直りしたいなら自分の気持ちも伝えなきゃダメなの。自分はなんで嫌だったのか、自分はなんで喧嘩しちゃったのか。全部伝えないとダメ。」
凪沙は月麦に思っていたことを思いっきり吐き出す。
「...そっか。わかった...私、話してみるよ...!」
月麦は凪沙に向かい合って真剣な表情でいう。
「月麦ー!」
後ろから走って追いかけてくる蓮が2人の目に映る。
「よし!柳!あんたは私と一緒に乗るわよ!」
そう言って凪沙と柳はゴンドラ乗り込む。
「月麦、先乗れよ。」
「う...うん。」
月麦と蓮も違うゴンドラに乗り込んでいく。
「...」
「...」
「それでさ...月麦...!」
「あのね...蓮くん...」
2人は沈黙を破ろうと話しかける。
「月麦が先でいいよ。
「蓮くんが先でいいよ...!」
「...」
「...わかったよ。俺が言う。」
「俺、あの時、嫌だったんだ。自分が。」
「...え?」
驚く月麦をそのままに蓮は話を続ける。
「俺が月麦のこといじめてるやつと喧嘩した時、月麦はもう誰から見てもいじめられてるってわかるぐらいにひどくなってた。」
「月麦がいじめられてるかもって気づいた時、俺は怖かった。自分もいじめられるんじゃないかって。」
「でも1番怖いのは月麦だった。だから俺は...もっと前に、もっと早く助けられたのにって思ってるんだ。今でも。」
「あの日、家に呼ばれて、『私と違って』って言った時、俺のせいだって思った。俺が...って。だから不機嫌な顔に見えたのかもしれない。隠してて悪かった!」
「...」
「いいよ。」
暫くの沈黙の後月麦は答える。下を向いていた蓮は顔を上げる。
「私はずっと自分に自信は持てない。中学校の時も今日みんなと遊んだり話した時も、みんなはそんなこと思ってないとわかっててもそれでも、自信は持てない。自分なんかってまだ心のどこかで思ってる。」
「でもね...蓮くん。私、あなたが助けてくれた時、すごい嬉しかったの...!周りの人が助けてくれない中で1人だけ立ち向かって!」
「だからそんなふうに思わなくていいよ!私、全然怒ってないよ!」
「...ごめんな!本当に...」
「私もごめん...ごめんねぇ...!」
「おいおい泣くなよ...!...俺も涙でてくるだろうが...!」
泣きあう2人をよそにゴンドラは頂上へ到達し綺麗な夕焼けがゴンドラ全体を染めた。
今回は新しい登場人物がいなかったので担任の先生の紹介です。
名前:帯刀小雪(帯刀はおびなたと読みます)
年齢:28歳(婚期が...)
生月日:12月31日
身長:163cm
好きなこと:冬の朝に白湯を飲むこと・最近ハマってる恋愛漫画を読むこと・源氏物語
好きな言葉:「やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな」小倉百人一首 より 理由は初恋の先輩に教えてもらった恋の歌だから
苦手なもの:残業...