第4話 宇佐美月麦は仲直りしたい
柳と凪沙が教室に入ると、教室の後ろにみんなが集まって誰かを囲んでいた。
その中心にいるのは山鹿昴だ。みんなは昴に向かって多くの質問を投げかけている。
「身長どんくらいなの?」
「部活何部入るの?」
「今日の放課後カラオケ行かね?」
「身長はだいたい180cmくらいかな!」
「部活はサッカー部に入ろうと思ってる。」
「今日の放課後は予定あるからパスで!ごめんな。」
昴の周りは質問攻めで、本人は苦笑いしながらも愛想よく答えようとしている。
(相変わらずすごいなぁ、全部相手にしなくてもいいのに...でもそこが昴のいいところなんだよな。)
柳は昴の優しさに若干呆れつつも勝手に納得する。
「山鹿くん、凄いなぁ。」
右斜め後ろの席に座った宇佐美月麦さんがそう呟く。
「昴は昔からそういう優しい奴なのよ。」
凪沙は昴の方を見ながら少し自慢げに宇佐美さんに説明する。
「へぇ〜、門脇くんとだけじゃなくて山鹿くんとも幼馴染なんだ。」
「うっ...そ、そうよ。」
凪沙は少し動揺した様子で返事をする。
(せっかく忘れてたのに昨日のこと思い出しちゃったじゃない...!)
「昴は僕とも幼馴染なんだ!」
柳は誇らしげに宇佐美さんに言った。
「あの...」
宇佐美さんが弱々しく問いかける。
「友達になりたい人がいるんだけど、協力してくれないかな...!」
突然の依頼に柳と凪沙は顔を見合わせる。
「いいわよ!」
「いいよ!」
柳と凪沙は同時に返事をし凪沙は少し恥ずかしそうだ。
「それで、誰と友達になりたいのよ。」
凪沙が問いかける。
「あそこにいる、御子柴蓮くん...」
宇佐美さんが指差す方にいるのは昴と話す、明るい茶髪が特徴的な御子柴くんだ。
「なんで友達になりたいのよ?」
凪沙は至極当然の質問をする。
「...」
宇佐美さんは顔を赤らめて教科書で顔を隠した。
「...好きってこと?」
少し間があって凪沙は宇佐美さんに問いかける。
「違うの!...そうじゃなくて、御子柴くん、蓮くんとは幼馴染なの。」
宇佐美さんは照れながら慌てて否定する。
「じゃあ普通に話しかければいいだけじゃない。」
「...」
宇佐美さんは無言で首を横に振る。
「何か話しかけにくい理由でもあるの?」
柳が問いかける。
「実は...」
宇佐美さんが話しはじめようとした瞬間。
「ホームルームやるぞ〜。」
そう言って帯刀先生が入って来てしまった。学級委員に既に決まっていた菅原さんの号令で立ち上がって挨拶をする。
「昼お弁当?どこかで食べながら話しましょ。」
「...」
凪沙が提案すると、宇佐美さんはまた教科書で顔を隠しながら無言でコクコクと頷く。
キーンコーンカーンコーンと授業の終了を知らせる鐘が鳴る。
「今日の授業を終わる。明日も教科書忘れないように。」
帯刀先生が言う。昼前最後の授業は国語で帯刀先生の担当教科だ。
「購買行こうぜー!」
「ここのパンめっちゃ美味いらしいぞ!」
教室が騒がしくなり始める。
「中庭で食べる?」
「うん...」
柳が提案すると宇佐美さんも頷いて立ち上がる。
中庭のベンチに座って弁当を置くと早速凪沙は質問する。
「それで、なんで宇佐美さんは御子柴くんと友達になりたいの?」
凪沙の問いかけに宇佐美さんは少し躊躇して答え始める。
「実は...中学の頃に喧嘩しちゃってそれっきり話せてないの。だから仲直りするのに協力して欲しくてそれで...」
「...なるほどね、喧嘩の内容は?」
凪沙は一瞬だけ凪沙の母親の作ってくれた特製の卵焼きに箸を伸ばす手を止めて詳細を聞き出す。
「蓮くんはね、小学校の時いじめられた私を助けてくれたの。それから仲良くなって中学でも3年間一緒のクラスだった。私は自分に自信がなくて、でも蓮くんはずっと励ましてくれたり一緒に遊んでくれた。」
「御子柴くん凄いいい人なんだね!」
御子柴くんはかっこいい人なんだなと柳は思いながら話を聞く。
「それで中学の時、家に来てもらったことがあったの。家で飼ってるコユキっていう名前の柴犬がいたんだけど、私が『コユキは私と違ってこんなに可愛いんだよ!』って言ったら何故か蓮くんが不機嫌そうな顔になっちゃって」
「だから『なんでそんな不機嫌そうな顔するの?』って聞いたら『なんでもねぇよ!」誤魔化してきて、喧嘩になっちゃったの...」
宇佐美さんは今にも泣きそうな表情で喧嘩について話す。
「...」
風の吹く音だけが聞こえる。
凪沙は何か変な予感がして柳の方を見る。
「それは大変だったね。どうして不機嫌になっちゃったんだろう。」
柳は腕を組んで首を傾げながら真剣に考えている。ふと凪沙が柳の方を見てくることに気づく。
「凪沙はどうしてかわかる?僕全然想像できないや。」
(もしかして御子柴くんって月麦ちゃんのことが好きで宇佐美さんが『自分と違って』って自分のことを卑下したことが嫌だったんじゃ...!?)
凪沙はある一つの結論に辿り着いていた。恋愛に対して特に鈍感な柳が御子柴くんの好意に気づくわけもない。だからと言ってここでそのことを話してしまえば余計に話が拗れるかもしれない。凪沙はその質問に答えるのに躊躇する。
柳は顔を覗き込んでくるが、そんなことを話すわけにもいかず返事をどうしようかと頭を抱えていると、そこを購買から帰ってくる昴が通りかかる。
「昴!良いところに来たわね。実は...」
嫌な予感を察知して逃げようとする昴を捕まえて柳と月麦ちゃんに聞こえないよう少し離れて一連の経緯を話す。
「なるほどな、そんなことが。」
「そりゃ御子柴と宇佐美さんが話さない限り仲直りなんてできないよな。」
「そうなのよ、何かいい方法はないかしら。」
凪沙はため息をつく。
「俺にいい案がある......」
「遊園地に行くんだ!」
「...」
「はぁ!?遊園地に行く!?」
どんな思考回路でそうなったかわからない昴の提案に凪沙は驚いてしばらく固まった後、思わず大きな声を出して聞き返す。
昴は誰かにメッセージを送信してその返信を見て満足げな表情をする。
「つまりだな...それがそういうことだからあっちがそうなって〜」
「なるほど、あれがこうでそれがこうで〜」
昴と凪沙はしばらくコソコソと会話した後、いきなり放置されて何もできずにいる柳と宇佐美さんの2人の方に向かう。
「宇佐美さん、宇佐美さんのこと下の名前で呼んでもいい?」
「...いいけど...?」
突然の凪沙からの質問に戸惑いながら宇佐美さんは答える。
「じゃあ月麦ちゃん、柳。2人とも、みんなで遊園地に行くわよ!」
「...え!?」
「ええ!?」
腕を組んで仁王立ちした姿でそう言って凪沙に柳と月麦は驚いて口が塞がらない。月麦は思わず手で顔を隠し、柳に至っては箸で口に運ぼうとしていたミートボールがまだ新品同然のズボンに落としてしまっている。
「とにかく、今週の日曜に遊園地に行くわよ!」
2人はまだ固まっている。
「詳細は後で連絡するわ。月麦ちゃんは○INE持ってる?」
「も...持ってるけど...」
月麦さんがそう答えると凪沙は目にも止まらぬスピードで連絡先を交換する。
そうしていきなり数日後の週末に遊園地に行くことが決定したのだった。
第4話を見ていただきありがとうございます。今日は宇佐美月麦のプロフィールを紹介します。
名前: 宇佐美月麦
年齢:15歳
生月日:3月3日
身長:149cm
出席番号:3番
好きなこと:冷たいアイス・読書・愛犬のコユキとの散歩
好きな言葉:「二兎を追う者は一兎も得ず」 理由は昔欲張ったせいでとんでもない目にあったから。
苦手なこと:暑いところ、運動