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構築中の世界で

作者: OITA YUI

はじめまして、Oita Yuiです。

本作は「自分が生きているこの世界は本物なのか?」という疑問から生まれました。


子供のころ、世界の人口が50億人と書かれた本を読んで、衝撃を受けたことがあります。

学校の先生も、街ですれ違う人も、いじめっ子も、みんな両親がいて、それぞれの日常とドラマがある……そんな膨大な情報量がこの世に本当に存在しているのかと、深く考え込みました。


今や人口は80億人を超えています。

それだけの物語が同時に存在する世界に、私たちは本当に“実在”しているのでしょうか?


そんな思いを物語に込めました。

短縮版の本作は「小説家になろう」用に構成を絞っていますが、全貌はKindle完全版でお楽しみいただけます。

第一章 目覚め

 暗くはない。だが光源がどこにあるのか、まるでわからなかった。

 空間全体が、ぼんやりと乳白色に発光している。壁も天井も床も、質感を持たず、触れても温度がない。まるで、触覚という概念そのものが存在しない世界だった。


 立っているはずなのに、足元の感覚が曖昧だ。

 耳を澄ましても、何も聞こえない。鼓動や呼吸音すら、自分の内側に沈み込んで消えていく。


 ——俺は、誰だ?


 その問いだけが、真っ先に浮かんだ。名前はかろうじて思い出せたが、それ以外の記憶は霞がかかったように遠い。

 不安という感情も、ここでは輪郭を持たない。ただ「わからない」という状態だけが、はっきりしていた。


 視界が揺らいだ。

 瞬きの間に、そこは都市の景色へと変わっていた。高層ビル群、整然と並ぶ信号機、歩道を行き交う人々。

 一見すると現実だ。だが、空の色は絵の具を均一に塗ったようで、ビルの窓は同じ反射を延々と繰り返している。

 人々の足取りも奇妙にそろっており、まるで事前に決められた動きをなぞっているかのようだった。


 「ここは……どこだ?」


 口から漏れた声は、自分の耳に届く前に空気へ吸い込まれていった。


第二章 都市の“継ぎ目”

 気づけば、俺は広告代理店のオフィスにいた。

 デスクが整然と並び、パソコンのキーを叩く音やプリンターの稼働音が響く。隣には同僚の佐伯がいて、いつものように世間話をしている。


 「昼、何食べる? あそこのラーメン屋、新しいメニュー出したらしいよ」

 「……ああ、いいかもな」


 自然に答えたが、内心は別のことに引きずられていた。

 窓の外の景色が、一瞬だけ固まって見えたのだ。ビルの一角が微かに揺らぎ、ノイズのような線が走った。

 次の瞬間には元に戻っていたが、その違和感は指先に残る静電気のように消えなかった。


 昼休み、街を歩きながら考える。

 子供のころ、世界は本当にこんなに複雑で、膨大な情報で成り立っているのかと疑問に思ったことがある。

 ——もしかすると今、俺が感じているこの奇妙さは、その問いの答えに近づいているのかもしれない。


 ふらりと立ち寄った喫茶店。カウンターの奥で、眼鏡をかけた男がこちらを見ていた。

 彼は口元だけで笑い、低い声で言った。


 「君も……気づいたか」


 それだけを残し、視線をカップのコーヒーへ落とした。

 意味を問おうとしたが、店内の時計が一瞬だけ止まり、窓の外の景色がまた固まった。


第三章 扉の向こうへ

 数日後、再びあの男と会った。

 場所は無音の空間。色も匂いも温度もなく、ただ白い靄のようなものが広がっている。

 彼の背後に、一枚の木製のドアが浮かんでいた。それは古びていて、デジタルな雰囲気のこの空間にはまったく似合わなかった。


 「開ければ、全てがわかる。ただし、戻れない」

 男の声は冗談ではなかった。


 俺はためらったが、結局ドアノブへ手を伸ばした。

 扉の向こうは、荒廃した研究施設の廃墟だった。壁は剥がれ、床には割れたガラスや金属片が散らばっている。黒く焦げたコンソールや、崩れかけた棚。

 空気には長い年月の埃と錆の匂いが混じっていた。


 足元の破片の中に、小さな記録媒体があった。

 拾い上げ、かろうじて残っていた電源を入れると、映像が浮かび上がる。


 ——そこには、液体で満たされたカプセルの中で眠る俺自身の姿があった。


第四章 崩れる世界

 施設を出ると、街の輪郭がノイズのように崩れ始めていた。

 人々は同じ動作と台詞を繰り返し、やがて動きを止める。空には裂け目のような黒い線が走り、光が漏れ出す。


 男が再び現れた。

 「ここは、試作段階の世界だ。君は作られた存在。そして今、この世界は終わろうとしている」

 その声は淡々としていたが、確信がこもっていた。


 「選べ。外に出るか、最後の住人として残るか」

 男の目は、答えを急かさなかった。ただ、選ばなければならないという事実だけが、重くのしかかった。


第五章 選択

 白い空間に、俺と男だけが残った。

 思考は渦巻き、答えは形にならない。だが、足は自然と扉の方へと向かっていた。

 ドアノブに触れた瞬間、視界が真っ白に塗りつぶされる。


 ——その先に何があるのか、俺はまだ知らない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


本作はフィクションですが、書きながら何度も「現実と虚構の境界」について考えさせられました。

もしあなたが、この世界のどこかに“継ぎ目”を見つけたなら——それは偶然ではないのかもしれません。


短縮版はここで幕を閉じますが、物語はまだ終わっていません。

完全版では、この後の選択と、その先に広がる景色を描いています。

主人公の答えが、あなたの想像と同じなのか、それともまったく違うのか——ぜひ確かめてみてください。


Kindle版『構築中の世界で』完全版は、より深く、広く、この世界を巡る旅路を描いています。

Amazon Kindle Unlimited会員の方は、追加料金なしで全文をお読みいただけます。

興味を持っていただけたなら、あなたの手でその扉を開けてみてください。


また次の物語でお会いしましょう。


── Oita Yui

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― 新着の感想 ―
少し不思議で、それでいて身近な感じがする世界でした 外に出るか、残るか、もし私が問われたら、どうするのか……深いテーマです
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