進展しない捜査
男は警察から任意で事情聴取を受けていた。
「まったく…私はなぜ呼ばれたのでしょうか。監視カメラもあるのでしょう?」
刑事はため息交じりに答えた。
「ええ、ありますよ。けど――全然“役に立ってくれない”こともあるんです」
「は?」
「防犯カメラってのは、案外…死角も多いんです。で――映っていたのは、住人ばかりだった」
「……つまり?」
「そこから先は、言えませんよ。ここは取り調べ室じゃなくて、あくまで“任意”ですから」
刑事は言葉を切りながらも、男の表情の微細な変化を見逃さなかった。
「まあ、監視カメラさえあれば全部解決するってんなら、俺ら、もうとっくに失業してますよ」
―――――――――――
教授は悩んでいた。
逃げるか告白するかだ。
彼は問題を整理してみる事にした。
証拠が残らないように
最新の注意を払う。
コピー用紙を一枚取り出し
下敷きをのせ
シャーペンで文字を書いていく。
もしメモ帳の上に文字を書けば
その下にうつる可能性がある。
ノートも同様だ。
途中で1枚紙が抜けていれば怪しい。
そして下にうつる可能性がある。
だからコピー用紙
状況を整理する。
A=×
Aの部屋カメラ 目撃
犯人に部屋カメラバレる
「誰かわかっている+次はお前」
カメラ言う⇒社会的×
言わない⇒リアル×
but誰かわかっている=本当か?
教授は何度も何度もコピー用紙をみた。
最大の焦点は
but誰かわかっている=本当か?
教授は一通りコピー用紙を見たあと
おもむろに消しゴムで消しだした。
そしてコピー用紙をシュレッダーで処分する。
普段から慎重な男だったが
慎重さはピークに達していた。
―――――――――――
翌日
教授は
今までやってきた研究をまとめていた。
「これとこれはクリアできたな。
では当初の目的は達成できたってことか…。
ただこれは進んでいない。
しかしこちらはK氏がしているから
私が研究しなくてもいいだろう」
教授はいままで手つかずで
ゼミ生から通称魔窟と呼ばれる場所を
丹念に整理していた。
ずっと借りたままだったものも
持ち主に返却する。
重層的にホコリが積みあがっていた部屋は
明るく空気が通るようになる。
「わー先生。どうしたんですか?急に片付けだして…」
「いやね。A子の件があっただろう…。私は生前A子に、先生いい加減部屋を片付けないとダメですよと言われていだんだよ。それを思い出してね…」
「そうですか…先生もお辛いですよね。ずいぶん目をかけていらっしゃったから」
「そうなんだよ…」
と教授は唇をかむ。
それを見たゼミ生は
「では。私は予定がありますので…失礼」
と足早に去っていった。
「すまんな。A子…君のおもいやりをダシに使ってしまった」
教授は段ボール箱に
伝票を張りつけ
資料や蔵書を入れていく。