ネット上に公開された全記録
ネット上には教授の今回の出来事に対して記録がアップされた。
すでに教授は被害者としてネットでは有名になっていた。
その教授がその顛末として記録を公開したのだから
注目されるのは当然だった。
あちこちでまとめサイトが作られ独自の考察がなされた。
まず議論になったのは
教授が監視が本当に依頼されたものだったのかについてだ。
まず大半は
「いやーそれはないよ。ぜったい覗いてたに違いない。だって夜の仕事してて、魅力的な女性だったら覗きたくもなるよ。それで最後良い奴の振りしたかっただけ」
という痛烈な覗きに対する批判だった。
これは当然のことだと言える。だからこそ教授は苦悩していたのだ。
教授の告白文にはこうも書かれてあった。
・カメラはリビングに1台だけ置いた。そこで彼女は着替えたりはしない。
これにもツッコミを入れたものが多かった
「いや。普通に一人暮らしならリビングで着替えたりするでしょ。これぜったいウソのやつ」
これらのネットの書き込みを
ロンドンで唇を噛んでみていた一人の女性がいた。
A子の友人であった。この女性もA子にストーカーの相談をされていた。
ただ距離が離れていることから何もできなかった。
A子が教授に監視を依頼したことも彼女は知っていた。
ただメッセージアプリなどではなく、メールでのやりとりだったので、当局は検知できなかったのだ。
――教授は、決して善人ではなかったかもしれない。
でも、A子の言葉に応えたことだけは、私は信じたい。
少なくとも、あの子は、安心して眠る夜を一晩でも手に入れたのだから。
友人は警察に証拠を送り、警察もこれが本物であると認めた。
雑誌のなどでも一部紹介されたが…。
疑惑は消える事はなかった。
この一連の流れを
冷ややかに見ている者たちがいた。
教授の研究者仲間をふくむ
基礎研究にその生涯をささげたものたちだ。
同士が死してもなお理不尽な攻撃を受ける
この世界に嫌気をさしたのだ。
総勢358人
彼らは基礎研究をやめることにした。
その経済損失は累計で36兆円程度だと試算された。
将来的にこの事件がきっかけで日本は5年発展が遅れたとされた。
悪意なのか
正義なのか
よくわからない
ただの自己主張が
世界を狂わした
そうメディアは書き連ねた。
「炎上は正義のコスト」そう呟いた政治評論家は、数日後失言で炎上した。
「教授は可哀想」そう投稿した匿名アカウントは、「逆張り野郎」として晒された。
「真実って何?」と問いかけた高校生は、教師にスマホを没収された。
そして
メディアが悪い
ネット民が悪い
との攻撃の応酬が始まる。
世界は一人の教授を罵り、
一人の女性の言葉を聞かず、
一人の愚者の記録を信じなかった。
それでも今日も誰かは、誰かを監視し――
誰かは誰かに、気づかれぬまま壊れていく。