A子の真実と悩む教授
A子は悩んでいた。
最近なにか監視されているような気がしていた。
ストーカーを疑ったが、それらしい形跡はない。
友達に相談しても、警察に相談しても、これという具体的な証拠がないため
保留となった。
唯一の肉親である父親は、酒を飲んでは暴れていた。
母はずいぶん前に亡くなった。
A子は学費も生活費も全て自分で稼いでいた。
母には生命保険がかけられていたが、父親の酒代に消えた。
父を狂わした酒を扱う仕事をしていることに
A子は少し疑問を覚えつつも
一生懸命に仕事をした。
もちまえの明るさと美貌で、
店での成績は上位のほうだった。
A子は勉強熱心でよく教授に質問をしていた。
生徒の間では仲のいい親子みたいと言われていた。
A子も教授がお父さんならどんなによかったかとこぼしていた。
A子は思い切って
教授に相談をした。
そして教授に「私を監視してください」と依頼した。
当然教授は断わった。
「――お願いです。私、今にも壊れそうで…。
でも、教授が見ててくれたら…少しだけ、強くなれる気がするんです」
教授は苦悩した。
女生徒を覗き見るようなことはできない。
誤解を産む。
それにこれは教育者としての一線を越えることになる。
だが、彼女のこの孤独に、私はどう答えればいいのだ――
「それに私は何もできない―」
唇をかみしめながらそう断わった。
すると
A子は
「教授にだったら見られても平気です」
と言った。
その言葉は、覚悟というより――あきらめに近かった。
この子はもう、誰かの温度を知らないまま、大人になってしまったのだ。
そのまっすぐで絶望に近い表情に
教授は断ることができなかった。
A子は以前から教授と仲がよかった。
教授の真面目さもあるのだろうが
なんらしかのなつかしさを感じたようだ。
A子は家電量販店で監視用のカメラを買ってきた。
そして教授に設置を依頼した。
教授は初めて入る女生徒の部屋に緊張していたが
その緊張もすぐに解けたようだった。
その部屋はあまりにも質素だった。
大学の教材や辞書
そして少しの服
小さい備え付けの冷蔵庫
そして大学でとった写真が飾ってあった。
贅沢なんてしたことがない。
そう空気に書いてあった。
教授はA子を守ってやりたいと思った。
――――――――――――――
空港から飛び立った男は
とあるリゾート地に降り立つ。
実は彼の初めての海外旅行だった。
彼は今年で28歳
超天才児と呼ばれ将来を嘱望されていたが
高校在学中にテストのデータを盗み
それを同級生に販売したことがバレ
退学となった。
それからずっとアンダーグラウンドで活動していた。
資産総額は今回の仕事を経て100億を超えていた。
恋人はいない。誰も信用しない――それが男の流儀だった。
男は酒を飲まなかった。
しかし気が緩んだのか
こちらに来てから毎晩のように飲むようになった。
リゾート地とはいえ少し離れると治安の悪い地域もある
はじめはホテルのミニバーでガマンしていた。
しかし徐々に外に出だした。
そしてある満月の晩
外で飲んだ帰りに後ろから少年に殴られ
そのまま息を引き取った。
バーで気前よくチップを配っていたのを
少年たちが見かけていたのだった。
持っていた所持金は100ドルだった。
その100ドルは少年により奪われた。
資産総額100億の男は
たった100ドルで…
その3日後
日本のマスコミ、警察、金融庁にあるデータが届く
男が今回の情報を売った相手とその証拠だった。
違法性を疑われ関係者はすべて連行された。
この罠は彼が万が一殺された時の備えだった。
そしてこの事件はさらに世界を混乱に陥れた。
はたして
愚かにみじめに苦悩したのは誰だったのだろうか。