ハンカチを家に忘れてしまった
ハンカチを家に忘れてしまった。おかげでトイレに行った時、手に付いた水滴を拭くことができなかった。ハンドドライヤーは故障中で使えず、ついていないと思った。
そのため、手を洗った後、パッパッと水滴を周囲に撒き散らすことで手を乾かした。マナーが悪いけど、トイレの手洗い場には、私以外誰もいなかったからセーフだ。
けれど、こっそり見ていた人がいるかもしれない。あー、あの人ハンカチ忘れたんだと心の中で思われていたかもしれない。
ハンカチをカバンに入れ忘れることは誰でもあるだろう。生きている限りミスはある。例えば、友達がハンカチを忘れた場合は、「そんな時あるよね」とフォローするだろう。
だけど自分のことになると、途端に情けなくなってしまう。なんで出かける前に、カバンの中身をしつこく確認しなかったんだろう。
過ぎたことを考えても、何にもならないのはわかっている。ハンカチくらい、今いるショッピングモールで買うこともできる。キャラクターが描かれているものから、レースが付いたデザインのものまで、よりどりみどりだろう。
ハンカチを入れ忘れたことに執着している私には、根本的な解決になるだろうか。物を忘れることは、もしもに備えた対応が取れない恐ろしいことだ。
一つ嫌なことがあったら、気分が落ちてしまう。せっかく地元から離れたショッピングモールに来たのに。電車を乗り継いで2時間。多分、知り合いもいないだろう。
家から離れているからこそ、見知った物が手元にないのは不安だった。
トイレから出て、お店を回ると、不思議と売り物のハンカチに目が行くことが多かった。さっきまでは意識にものぼらなかったのに。
ハンカチを見ると、今日忘れてきた事実を思い出して悲しかった。きっと、財布を忘れたら、売り場の財布に目が行くことが多かっただろう。何かを忘れることは、何かを強く意識するきっかけを作るのかもしれない。
このままではいけない。ネガティブ思考にとらわれないようにするためには、何か別のことを強制的に考えるに越したことはない。
そういえば、もうお昼を過ぎている。何を食べようかな。イタリアン、和食、中華。迷ってしまう。
一人で外食するとなれば、ファーストフードが良いかもしれない。少し豪華な外食は、できるだけ他人と一緒の方が満足度が高い気がする。
あっ。お昼を食べたら、マフラーを買いに行こうかな。数年、同じものを使っているから新調したい。そういえば今日の22時から、気になっている新ドラマが始まるんだった。
なんだ、考えれば楽しいことはたくさんあるじゃん。
浮ついている私。そのまま楽しい気持ちに浸っていれば良かったものの、自分を俯瞰してみたら、ハンカチを忘れた事実と対面することになった。
でも、それは過去のこと。もう思い出しても味はしない。意識して、お昼ご飯の考えに切り返す。
ハンカチのことを考えちゃいけないと決めつけるほど、ハンカチのことばかり考えてしまう。
あるがまま、そのままでいることが大切だ。とりとめない思考は、ハンバーガーを一口食べるまで止まらないだろう。
寝ている時は、考えることをやめられる。だけど、夢を見ている時は、何かを感じて、考えている気がするなぁ。
生きているということは、何かを考えることから、逃れられないことなのかもしれない。逃れられないのなら、優しく受け入れてしまえ。そうすれば、気持ちは楽になるから。
私は2階にあるファーストフード店に向かった。人であまり混雑していないといいな。