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孤独の棋士  作者: ばんえつP
光と闇編ー明るい未来の為にー
59/81

証明

闇に立ち向かえ

…菜緒?

…何?

…菜緒は僕のこと、裏切らないよね?

…うん。


(アイツの表情。今まで見たことないぐらい疲弊していた。あのレベルの男があんな顔をするとは、一体…何を…)

村山はあの日の河津の言葉が離れなかった。

タイトル戦では、悪魔と評した神童と戦う。自分はさしずめ勇者と言った所だろうか。

(まぁいい、折角二冠になったんだ。また一冠に戻ってたまるか。俺が二冠を辞める時、それは三冠になる時だ。)


「…やはり、…の言葉は素晴らしいです。ありがとうございます。」

「…そうだろう?小野寺君。君は出来る、最強なのに、今の将棋界は君を置いて他の者が争っている。それは良くないだろう?」

「…その通りです。」


星野の墓参りに来た松岡は、先日の中継切断の話をしていた。

「まだ、お前が追いかけていた犯人は、全員は捕まっていない…小野寺も東浜も、誰か黒幕によって操り人形と化している。俺はその大元を叩いてやる。待ってろ。」

「…その通りだ。松岡。」

小笠原も来ていた。背後から話しかける。

「この事件、まだ終わっていない。犠牲者はまだ居る。星野の為にも、必ず星を捕まえろ。」


「…君達は、刑事か。」

偶然にも村山も来ていた。兄の墓はここにあるのだ。

「…君は、村山だったな。今度あの男と、操り人形となった天才と戦う。」

「あぁ、そうだ。タイトル戦前だし、兄と話をしていた所だ。星野って刑事もここで眠っているのだな。」

「そうだ。俺たちはアイツの墓参りに来ている。」

「…二日制タイトル戦ということもあり、俺はアイツと長く接する。君達にもその黒幕ってやつの情報を得たら流してやる。」

「助かる。」


村山が帰った後、将棋界で起きた事件について語り合っていた。

「…さっきの彼も、殺されそうになったのに、それをなんとも思っていないのは、やはり精神が安定しているということなのでしょうか。」

「まぁマインドコントロールは心が弱い者ほど受けやすいと言われる。あの男や孤独の男みたいに自分が自分がというタイプはダメだろうな。」

「…忠誠心も、操りの一種…」


翌朝、後藤は背後に気をつけながら街を歩いていた。東浜は逮捕された。ただその後も起こる不可解な行動は一度被害に遭った者を恐怖の底に叩き落とす。

(全く、嫌になっちまうぜ。背後から襲うような輩はもうシャバにはいないって言うのにな。)

いくらそう言い聞かせても似たような人がいるとなれば、再度狙われる可能性がある。相手が投了するその時まで、忘れることはできない。


「味谷一二三が立会人に立候補か。」

「まぁ師弟でもないから別に問題は無いんだがな…ここ最近の挑戦者の言動を見るや、変に愛情を注ぎそうで怖いな。」

連盟本部では虎王戦の運営についての話し合いが行われていた。ここ最近の動向から、棋士を守ることを前提に考えていく。


「もしもし。」

「村山か。俺だ。木村だ。」

「会長がわざわざどうした?」

「虎王戦について話がある。」

呼び出しを受けたタイトルホルダーは、連盟のある千駄ヶ谷へ向かった。


「わざわざすまないな。」

「まぁ俺の命を守る為にお前らが色々考えたってことでこれぐらいの労力どうでもいいさ。」


「では、早速だが、今回の虎王戦はまず記録係を二人配置とした。」

記録係というのは基本的に一人である。それを今回二人配置へと変えた。名人格では既に二人で交互に行っているが、今回は二人を常に同じ部屋に置くという形を取った。

「これは前回買い出しを頼まれて部屋から追い出された件があったからだな?」

「その通りだ。」

「休憩の際は立会人が入ることで常に二人はその場にいるようにする。」

「次に味谷一二三が各対局同行する。」

「何故だ?」

「それは言えないが、決して小野寺への助言はしないことを誓ってもらった。」

警視庁からの要請で監視をしていたというのはトップシークレットのはずだが、何故知っているのか。答えは簡単である。会長には流石に伝えておかねば連盟自体がスムーズに進まない為である。当然他言無用だ。

「あんまり信用ならんな。控え室貼り付けで他の棋士の監視下に置けばまだ良いが。」


「…仕方ない。」

間は長く感じたが、実際はそこまででも無かったようだ。会長は味谷同伴を諦める代わりに自らが監視役となることを決意した。

「それなら文句はないか?」

「…まぁ溺愛の二人と違って会長ならタイトル戦を円滑に進める為にも妥協はできる。」


第一局の舞台は名古屋だった。何度も何度も何度も繰り返し行われている名古屋対局だが、今日は初めてのような緊張感に包まれている。


「珍しいな、グリーン車なんて。」

「…虎王戦主催がお金を出してくれてな。対局者と記録係、立会人、そして会長である俺に席を確保してくれたようだ。」

東海道新幹線のグリーン車は8号車から10号車である。今回は最上位種別のぞみ号である。

「そういえば、グリーン車にはワゴン販売の代わりのサービスがあるんだったな。」

スマホで読み込み、座席を入力するとそのようなサービスが受けられる列車がある。

「アイスとかも食べたらどうだ?詰将棋が"とける"と言うだろう?」

「それよりはあの男のマインドコントロールが"とける"方が良いんじゃねぇか?」

「…上手いじゃねぇか。」

「…俺だって良い対局が出来るなら良いさ。ただ相手が不健康な状況で戦うのは気が引ける部分もある。新幹線の中では俺は研究に勤しむから、話しかけないように。軽食等は適宜取ることにするよ。」

少し優しい口調が、この対局の不穏さを物語っていた。


少しして会長がホームを見渡すと不自然なオーラを発見した。神童である。不気味に笑っている

「…あんな軽口叩いた直後だが、不安しかないな。」

その直後目があったような気がした。にやりと笑う顔が見えた…気がした。


結局グリーン車のサービスを使ったのは記録係ぐらいであった。普段乗れない特別車両ということもあり、興奮冷めやらぬといった様相だ。アイスもしっかり頼んでいた。


名古屋駅からは貸切バスである。

「二台停まっているが、どっちに乗れば良いんだ?」

「村山は、記録係、立会人やスポンサーと共に1号車に。」

2号車は小野寺と会長が乗ることになった。表向きは天才棋士故、スポンサーから想定外の行動が出ることを防ぐ為の対応だが、当然ながら本当の理由は監視目的である。


「あの…村山さん。対局前って何を考えているのですか?」

記録係の一人が声を掛けた。集中している時に話しかける行為、言語道断だが、

「…プロになりたいなら教えてやる。プロ棋士と言うのは常に自分が勝つことを考える。その為に検討をする。対局前…というよりは常に勝つことを考えている。」

珍しく優しい回答が返ってきた。

「だから強くなる為に仲間を作るのは良いことだ。まぁ研究仲間だな。但し恋愛は弱らせる。勝つこと以外を考える必要が出てくるからだ。」


(あの孤独男が俺に頼るぐらい、向こうは悍ましいんだろう。俺も毒盛られたりしたが、気を引き締めなければ、恐らく死神の鎌に魂を刈り取られるだろう。)

ただ前に進む。後退など俺はしない。


「この地で俺は証明してやる。」

いよいよ第一局が始まります。

一寸先は闇、それは将棋と変わらない。

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