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孤独の棋士  作者: ばんえつP
王棋&棋士編入編ー漢の戦いー
56/81

風評被害

事件解決…なるか。

「さて、次は貴方ですよ。」

玄関前で佇む人物。不気味としか言いようがない。邸宅には「小野寺」と記している。

「…まだ道は始まったばかり。」


「そこまでだ!!」

背後から声がした。銃を突きつけその者の身柄を抑えようとする。


「見つけたぞ、連盟棋士、東浜真寛!!」

松岡は部下の無念を想いつつも、今目の前の男を取り押さえることに全力を注ぐ。


「星野が、お前が殺した刑事が!お前が犯人だと言ったんだ!!」


CF→CA8000の意味は何だったのか。


「俺の名前でも書いてたのかな…?」

「あぁ、お前の名前がしっかり書いてあったよ。」


時は遡り…


「…!?

そういうことか、CAやCF、8000はそれを意味していたのか、ならば導き出される答えは…」

松岡は事件の真相に辿り着くことができた。早速周りの刑事を集める。


「これはある将棋棋士を指していたんだ!まずCF、これは中央本線の路線記号、まさか本当にテレビからヒントを得るとは思わなかったよ。次にCA、これは東海道本線だ。最後に8000はある車両の8000番台を指す。中央本線から東海道本線に8000番台が移籍したと言えば、これは313系8000番台のことしか考えられない。そしてこの313が大事なんだ。この番号、ある将棋棋士の棋士番号になるんだ。そう。東浜真寛、犯人はコイツだ!!」

星野が一時期東海地区に住んでいたという話を思い出した松岡はこの推理に辿り着いた。


「へぇ、そんなダイイングメッセージがあったんだ、消せば良かったかな?」

東浜の目には光がない。完全に闇堕ちしている。

「動機は…」

「そうだねぇ、高谷類五番勝負、自分含めて4人負けたでしょう?だからあんな組織から人を入れてしまった者を全員この世から消そうと思ってね。勿論自分もだよ。」

「…その対局の後、お前は闇堕ちしたのか。」

「さぁ、どうだろうね。」


その直後ドアが開いた。小野寺渚が外に出てきたのだ。玄関前で騒いでいたら観てしまうのも無理はない。


「…!?」


なんとか周りの刑事が身柄を拘束。東浜は逮捕された。


「浮かない顔ですね、松岡さん。」

「あぁ、まぁ…な。」

「…部下のこと、考えてるんですか?」

「…あぁ。」


「そうか…アイツが…なんでそんなことをしたのか、正直俺が問い詰めたい。」

村山は森井から東浜逮捕の一報を聞いた。澤本も怒りが込み上げているようだ。

「また連盟は記者会見だろう。木村も大変だな。」

「連盟、被害者ですね…」

梶谷も話を聞いていた。自分を可愛がってくれたお兄ちゃんが逮捕されたのだから表情は当然暗い。

「一番の被害者は、殺された刑事だ。二番目の被害者は後藤。これだけは忘れるな。」

村山はこの言葉をまだ子供な彼に伝えた。一番の被害者は、捜査中に無念の殉職となった星野であることを。

「勿論、後藤匠も殺されかけたのだから当然被害者だ。あの野郎に対して思うことはいくらでもいるだろう。」


その後の捜査で共犯の男も逮捕された。その男は東浜とは仲が良かったが、森井一門は誰も知らない人だった。


太地研ではメンバーの一人が逮捕されたことを受け、緊急の会議を始めていた。

「正直、うちの研究仲間から逮捕者が出たのは残念だ。ただ、一番残念…いや無念という想いを持っていたのは被害者であることを忘れないでくれ。」

太地の口から三橋が犯人じゃなくて良かったという言葉は出なかった。誰も犯人であって欲しくない。つまり事件が起きないで欲しかったからだ。


「星野…事件は…解決だろう。お前が命懸けで捜査したから、俺たちは捕まえられた…献杯。」

松岡は彼の遺影の前で、彼の好きだった飲み物を開けた。

「二人で盛り上がってる所悪いな、俺も混ぜてくれ。」

小笠原が同じ飲み物を持って現れた。いや彼だけじゃない、尾崎や北條など多くの捜査員が同じように献杯した。

「そうですね、皆さんで事件解決、そして星野を讃えましょう。」


数日後、後藤が警視庁にやってきた。星野にお礼が言いたいとのことだった。

「やはり、被害者として、星野さんには犯人逮捕のお礼が言いたくて…」

正直な話、自分が犯人の顔を覚えていれば、彼は犠牲にならず済んだかもしれない。その後悔の念は大きかった。

「貴方は何も悪くない。悪いのは犯人だ。だから、自分のせいなんて考えるのは彼にも失礼ですよ。」

松岡はそっと慰めた。


「しかし、なんで闇堕ちとも取れる行動へ走ったのか、そこがわからないんですよね…」

「負けたぐらいでそんなこと普通、考えないよな。」

外では刑事たちが今回の事件について振り返っている。確かに変な話だ。高谷に負けたからと言ってそんな考えに至るだろうか?

「実際東浜は対局、ずっと勝ってた訳ではないでしょう。今回の話、簡単に言えば負けたから自殺するって言ってるようなもんですよ。」

「やっぱり妙だよな…」


後藤帰宅後、小笠原に呼び出された松岡。

「今回の事件、これで終わったように見えるか…?」

「いえ、自分は思いません。」

「だよな…やっぱり変だよな。」

「自分が変だと思っているのは次の三点です。一つ目は、第一の事件ではわざわざファンの贈り物を装って入念に準備をしているのに対して、第三の事件は普通にインターホンを鳴らしていた点。第二の事件は想定外だったから外で起こしたとしても、第三の事件は想定内のはずです。」

「そうだな、そこは確かにおかしい。」

「次に第二の点は犯行動機です。高谷類に負けたから周りを巻き込み事件を起こすっていうのは変です。負けたから犯行というのはどう考えてもおかしいです。」

「まぁ組織の人に負けたからということもできるが、それだと村山とかも殺されることになる。」

「そして第三の点は…」


話が終わり、刑事を集めて今回の事件を振り返る。

「東浜は、木村、後藤、小野寺を殺して自分も後を追うと言っていた。実際後藤は襲われた。ただ彼は生きている。妙だと思うだろう?」

「なんか一貫性がないですよね。」


「木村、後藤、東浜、小野寺…」


「なんか、操られているような気がしませんか?東浜は誰かに。この前八乙女が羽川の指示で村山を殺そうとしましたよね。それと同じで…」

「…マインドコントロールか。そういうのはゲームや漫画の世界だけではないからな。確かに操り易いのは自我が弱い人。特に落ち込んでいる人は簡単だと言う。木村は組織行きを断っているし、被害者の後藤も自我が強い人だと言われている。まぁここは微妙なラインだが。」

「そうなると東浜を操った犯人がいると…?」


「…」


操り、よくゲームなどでは目を赤くして誰かの言いなりになっているとわかるように描いたりする。ただ現実世界では操られているからと言って目が赤くなるということはない。目が赤いのはただ充血しているからと言われる。

「…なぁ、俺は操っている奴がいるとすれば、そいつはゲーム感覚で遊んでいるように見えるんだよ。」

「えっ…?」

「木村や後藤は操れないと判断したから消そうとした。」

「確かにもう一度言いますが、組織行きを断っている木村会長は、ゲーム感覚で操るには難敵…明確な理由もなく人を弄ぶには不向きですからね…小野寺を殺した後、会長も殺すつもりだったのでしょうね…」

「…」

「…あれ?小野寺は?」


小野寺家では、もう少しで殺されるかも知れなかった渚が菜緒と話をしている。

「菜緒…どうしたの?」

「…渚くん、変だよ。何か。」

「…どこが?」

「…わからないけど、なんとなく…」

「そう…」


「東浜以外で操れるとしたら、味谷の言いなりになっているように見える小野寺しかない。」

「と言っても、彼は襲われそうになったんですよ。」

「あぁ、だからゲーム感覚と言ったんだ。それに、あの時ドアから出てきた彼は…








東浜と同じ目をしていた。」

「それって操った人で他の操った人を殺そうとしたってことですか?」

「むしろ東浜を用済みとして消そうとした可能性もある。ただ小野寺は誰かの言いなりだとしても、犯罪を犯していないから逮捕はできない。」

松岡はそのように推理した。いまいち信憑性に欠けるが、確かに今回の彼の行動は不可解な点が多いわけで、自分が東浜と小野寺が同じ目をしていると感じたのだから、そう捉えるのも無理はない。もう次の犠牲者を出さない為にも、警視庁は小野寺を監視することになった。


「操った張本人は逮捕できますよね。」

「勿論だ。」

「恐らく定期的に接触するでしょう。自分達は悪玉を消しに行きます。」


味谷の元に電話が入る。内容は小野寺の監視だった。内密にとの願いも入れられていた。

「俺は信じたくはないがな。」


「でも…確かに最近落ち込んでたな…」


森井一門では澤本が懸念点を伝えていた。

「自分が幹事をしている育成機関には苗字が東浜の子や下の名前が真寛の子がいます。彼らが精神的に参らないか心配です。」

実際北村駿によって精神を病まされた三橋は、仲の良かった、駿とは無関係の北村太地をトラウマが蘇るとして突き放している。このように偶然同じ名前になったということで風評被害を受ける人は多くいる。八乙女という名前もそうだ。澤本の所にはいないが、別の育成機関では同じ苗字の人がおり、虐めの標的になっていたという連絡が入っている。勿論当該幹事が、その虐めを辞めさせたのだが、このように全く無関係の人まで影響を与えると言うのは覚えていてほしい。


そして養成機関で戦っている男もまた、風評被害…否、親の勝手な行動により苦しめられていた。


(さとし)…大丈夫か?」

「大丈夫です。俺は俺。父親とは違う。」

羽川聖。羽川善晴の子供である。親が組織を作っても自分は連盟に入ることを目指していた。父は間違っていると信じていた。

養成機関生、村田康光(むらたやすみつ)はその男の覚悟を見て、化けると感じていた。

養成機関や育成機関は若い人が多いこともあり、犯罪者と同じ名前の人に対する虐めが起きる場合がある。このような施設だけではない。学校などでも同じことが起きうる。犯罪者と同じ名前というのは自分でどうにかできることではない。そこは覚えていてほしい。


羽川聖は、父親が捕まってもなお、養成機関で日々鍛えている。プロになる日も近いかもしれない。

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