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孤独の棋士  作者: ばんえつP
王棋&棋士編入編ー漢の戦いー
54/81

サヨナラ

王棋戦と並行して犯人探しも続きます。

「三橋!!」

太地はその男を数年ぶりに目撃した。三橋肇、北村駿によって人生を狂わされメンヘラと化した男である。

太地はこの男をよく知っている。太地研の会員ナンバー一番といったところだ。今日久々に彼に出会えた。

三橋はメンヘラとなってから暫くは将棋界にいたが、程なくして自殺未遂を起こし、結果的に将棋界から去っていた。北村殺害事件の後の採択には出ていたが、その事件が連日報道されるのが精神的に参るのだろう。例の未遂もその後、直後ぐらいの話である。従って今はもう元プロ棋士なのだ。

「久しぶりだな、三橋。俺だ。覚えているだろう?」


すっかりやつれた顔になっていた。その男に近づこうとすれば

「来ないでください!刺しますよ…」

と返される。

「もうアイツのこと、話す奴なんていない。トラウマなのはわかるが、戻ってきてほしいんだ。」

せめてスタッフとして戻ってきてほしい。

「ダメですよ、こんなのが将棋と携われば、棋士を襲うことになる。」

「でも、」

「でもじゃないですよ、それに、貴方のことも忘れたいんですよ。」

「何故…?」


「貴方は、北村姓じゃないですか。」


仲の良かった棋士は自分を狂わせた棋士と同じ苗字。血の繋がりはなく完全に偶然だが、トラウマのトリガーになるのは容易いことだった。

その言葉に太地、北村太地は返すことができない。

「サヨナラ…」

追いかける足虚しく、三橋は走り去った。


(もしかして、後藤を襲ったのは…)

嫌な想像は精神を擦り減らしてくる。


「後藤が襲われた後、特に被害は出ていない。被害者本人はファンからの贈り物に睡眠薬が仕込まれていたのではと推理…」

「星野、これメンヘラによる犯行じゃねぇか?」

「唐突ですね、どうしてそう思うのですか?」

「今王棋戦が開催しているのを思い出してな、被害者が高谷の棋士編入の時の試験管として出ていたから、どこかのメンヘラが不甲斐ない結果を出した人に制裁を加えていると…」

「メンヘラである必要はないですよ松岡さん…確かに将棋界では北村駿殺害事件や八乙女らによる村山殺人未遂事件など起きていて、メンヘラが関わる事件が多いですが、これもそうと決めつけるのは…」

思い込んで捜査するのは危険である。しかし、メンヘラが今までこの将棋界に与えた影響は大きい。

「まぁとりあえず、同じように負けた棋士に連絡を取ってみます。」


星野は三人へ電話を掛けてみたが、全員普通に出た。音信不通は無かった。


「少し調査してきますね。」

星野はこの事件を調べるため、足で稼ぐことにした。


タイトル戦が終わり師匠森井の家に行く村山。次の研究を聞くためである。

「まずは一勝!おめでとうございます!!」

そう素直に喜ぶのは梶谷だけだ。他はプロ、自分はライバルだ。

「…おめでとうございます。」

東浜も一応は祝った。


(第一局はなんとか逆転した。第二局は当然対策される。ここは…)

研究部屋へ入ると澤本らと共に検討を始める。

「この前育成機関に来た時に良い戦法を思いついたと聞いて、子供たちにアンケートを取ってみたんですよ。その結果がこちらです。」

「…なるほど。これは良いデータとなりそうだ。」


一方負けた方、河津は、兎に角部屋に篭ってパソコンと睨めっこである。どこが敗因か、逆転の原因は何か徹底的に探る。睡眠以外は基本取らず朝起きてすぐに研究結果を調べ、次の研究を行い、待ち時間に詰将棋で終盤を鍛える。食事も栄養補給剤のようなものが部屋の至る所に転がっている。ここ数日、ゴミも出していないようだ。ここ最近の彼は、対局の日以外まともな生活を送っていないというのがよくわかる。


そんな日々が第二局直前まで続いた。


「あーあ。もう動かないね。」


幸い、連盟側の対応もあり、後藤以降の被害者は出ていない。当の本人も無事回復した。

「全く顔は見えなかったんですよ。背後から襲われるって怖いものです。」

連盟で行われた聴取は、被害者へ行うこともあり、穏やかに進めるよう心掛けた。担当は藤井と警視庁の松岡だ。

「そのお茶の贈り物っていつぐらいからなんだ?」

「そうですね…確か2週間とかそこいらだったと思います。やっとファンが増えてきたんだなと思ったんですけど、罠だったとはって感じで。」

「確かにお茶からは睡眠薬が検出されている。何回も飲ませて確認していた…ということか。カーテンとかは開けて寝る?」

「うーん、そうですねぇ。カーテンは確かに開けてますね、月が綺麗なのでよく観るんで。」

「うーむ、そうか。」


少なくとも犯人は二人組以上。玄関のインターホンを鳴らした者と、背後から襲った者に分かれる。

「まぁこれはあくまで憶測ですけど、俺この前高谷の棋士編入のやつの試験官やって負けたので、刑事さん、会長や東浜、小野寺辺りには注意した方が良いですよ。同じように負けてるので。」

「あぁ、星野も同じように言ってたよ。何処かのメンヘラが制裁を加えているのではって。一応全員音信不通では無かったから引き続き留意しておくよ。」


第二局は山梨県で行われる。山梨県の身延町では湯葉が名物だという。前に日光で湯波が名物だと記したが、それと同じである。こちらは名前が湯の葉っぱだ。他には山梨県が誇る落語家の存在が挙げられる。イケメンを自称する落語家は大人気番組に40年ほど出演しており、山梨県は大月市の顔となっている。その番組がきっかけで埼玉県秩父市とよく地元競争のようなものをしていたりする。

今回は、甲府市での開催である。県庁所在地であり、大きな街である。中央本線特別急行かいじ号で向かうのが良いだろう。

「富士山に巨大遊園地。本当に山梨はなんでもあるな。」

今回の立会人は味谷。仕事しつつも満喫する気だ。

対局者はすぐに対局場となるホテルへ向かった。検分終了後は立会人一人抜け出し、甲府城跡へ向かう。この街は城下町だったのだ。

夜は各自名物を嗜む時間だが、二人は部屋に篭って第二局の準備をするため、結局味谷一人で行くことになった。ここの名物はほうとうだ。恐らく明日の昼食でも出てくるだろう。

「身延線もあるから、湯葉も出そうだな。」


対局日となった。甲府の駅前には王棋戦開催を告げるポスターが貼られている。あの神童じゃないのは残念だがタイトル戦が行われるだけで良いという声もあった。

今日の先手は河津。飛車先の歩を突いた。対する村山は角道を開けた。


一方東京では一本の無線が入った。

「はい、こちら警視庁。はい。」


「え?」

三橋肇、覚えていた方。流石です。

彼の再登場は何か意味があるのでしょうか…?


王棋戦第二局、勝つのはどちらか。

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