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孤独の棋士  作者: ばんえつP
王棋&棋士編入編ー漢の戦いー
53/81

あの時

ついに王棋戦です。今期はしっかり行われるのでしょうか?

連盟に新しい棋士が3名入った。棋士番号314の高谷類、棋士番号315の十六夜将之(いざよいまさゆき)、棋士番号316の吉池時雨(よしいけしぐれ)である。

「新たな棋士の門出を祝い、乾杯!!」

会長の喜ばしい言葉で、3人はプロの道を歩み出した。


「アイツが、神童を瞬殺した高谷か!」

「すげぇよな。組織で腐らず綺麗な目で将棋と向き合った結果だな。」

「河津とか村山でも勝てないんじゃね?」

彼への期待の声は大きかった。もう憎き組織の人ではない。連盟の、みんなの仲間だ。

一方で十六夜、吉池は養成機関で何期か在籍していた棋士である。特に十六夜は河津はおろか小野寺が在籍していた頃を知っている。苦労人だ。

「十六夜って珍しい苗字だよな。」

「日本でもそうある苗字じゃないそうだ。」

「なんかナイフ飛ばしてきそうだな」

「ゲームのやり過ぎだぞそれは」

何を言いたいかわからないが、兎に角珍しい苗字なのは変わりない。


この祝い事が終われば次は王棋戦である。既に両対局者は研究の日々を過ごしている。


「…あんなに、なんで…」


第一局は新潟県で行われる。朱鷺メッセというイベント施設を使って対局する。

新潟県、佐渡島では朱鷺が有名であり、上越新幹線の新潟行列車やかつて上野と新潟を結んだ列車にも「とき」と使われるほど新潟と朱鷺は深い仲にある。


第一局の開催に伴い会長と立会人の藤井、そして対局者は東京駅9時12分発、とき311号で新潟へ向かった。途中停車駅は大宮のみの最速達である。かつては大宮駅すら通過したノンストップ便だったが、現在は大宮停車と変更されている。

「長岡の通過線使うのはこれだけらしいですね。」

と言っているが、基本的に長岡は停車が普通なので、通過列車であるこのとき311号は珍しい体験が出来るのは間違いない。少なくとも一番停車駅が少ない列車ではある。


新潟に着いた一同はすぐに朱鷺メッセへと向かった。折角新潟に着いたのだから蕎麦なり色んな名産品を食べるべきなのだが。


「あはは…」


朱鷺メッセはかなり大きい。村山は驚きを隠せない。

「こんな施設があったのか…」

一方無言の河津、ただ対局場を見て最善を尽くすだけである。

「相変わらずだな。まぁ、仲良しこよしは俺もゴメンだが。」


夜は日本海の幸を堪能する。米はコシヒカリ。そして会長と立会人は日本酒も戴く。

「米が良いから日本酒も良い。」

「自分達は対局者じゃないからこんだけ満喫出来てますが、あの二人は新潟を楽しむ余裕なんてないんでしょうね。」

「だからこそ今日ぐらいは日本海の幸なんだろうな。」

「これとか、味谷さん喜びそうな味してますね。」

「あー、わかる。第一局の立会人自分じゃなくて味谷さんの方が良かったかもね。」

「何言ってるんですか!お土産に買っていけば良いだけの話ですよ」


お土産といえば、最近後藤匠はファンからの贈り物でお茶を貰うことが増えた。どこかの名産品なんだろうが、とても美味しいのでよく飲んでいる。

翌日、ドアを叩く音で目が覚める。何か用がある人がいるのだろう。そう思ってドアを開けようとした。







ドスッ


背後から何者かに襲われた、その姿を彼は見れなかった。


「あーあ。壊れちゃった…」


「俺は一年前『俺を倒した河津が負けるのは不思議と見たくないもんだ。もっとも、北村ごときに負けるようじゃ俺含めてメンタルブレイクだがな』と発言した。去年はメンヘラ野郎が殺されて変な終わり方をした結果、お前が一応は勝った。あの日負けてから俺はどうせ頂点に立つだろう河津稜と言う男にどうやって勝つか研究をしてきた。やらかしの村山なんて言われた頃から、今の俺を生み出すキッカケにもなった。お前は二冠、俺は虎王の一冠。ただこの戦いでそれは逆転する。」

「知らねえな。」

「まぁ見てろ、このタイトル戦が終わればわかる事だ。」

新潟県で行われる第一局は振り駒の結果先手が村山に決まった。お互いが礼をして第一局が始まった。

立会人と会長は最初の数手を見て控え室へ移動する。


「あれ、着信だ。」

「誰から?」

「連盟の職員です、少し席外しますね。」


「何!?」


その言葉で藤井は驚き外へ出る。そこには深刻そうな顔をした会長の姿があった。


「後藤が何者かに襲われたらしい。幸い命に別状はないそうだが。」

すっかり敬語も忘れて焦っている。

「後藤が襲われた…?」


どうやらドアが少し開いていたこともあり、隣の人がすく救急車を呼んだらしい。今いつもの、というと少し残念だが、将棋関係の事件ではいつも出てくる松岡が捜査に当たっている。村山の件が終わったばかりと言うのになんとも不憫だ。


「この件は対局者には知らせないようにしよう。警護はこちらで付ければ問題はないだろう。」

「動揺させない為には、そうですね。指示します。」


しかし一体誰がこんなことをしたのだろうか?

「襲われたのが後藤匠…何故だ?」

一人対局ではなく事件の検討を行う。

「あの男に彼女がいたという話は聞かないし、今いるとも聞いていない。そもそもどうやって襲われたのか。」


松岡が捜査している現場では、鍵穴がこじ開けられた痕があったことが分かっている。しかし、こじ開けた所で家主にバレないように隠れること、可能なのだろうか?

「誰が犯人なんだろうか…?」

後藤匠は連盟対組織には関わっていない。八乙女や羽川はこちらで身柄を確保している。つまり犯人ではない。


羽川に詳しい話を聞こうと拘置所に向かった星野は、そこで誰が犯人かのヒントを聞き出そうとしていた。例の対局後の彼は既に心を入れ替えている。昔の良かった頃を取り戻している。

「連盟棋士が襲われた…ですか。」

こんなこと話していいのかと一瞬思ったが、犯人逮捕のために聞くのは良いと独断で決めた。

「現場での話だと、鍵穴がこじ開けられていたようで。ただ本人にバレないようにどうすれば…。」

「うーむ、自分だったら睡眠薬か何か仕込みますね。自分がやったように。お茶なんかありませんでしたか?」

的確な答えである。ここにいなければ犯人として線に上がっていただろう。


東京では事件捜査組とタイトル戦検討組に分かれていた。萩原と味谷はタイトル戦検討組である。

「そういえば、一年前は年下には、慈聖くんみたいな呼び方をしていたのを思い出しましたね。なんだか変な個性はやめようって気になっていつのまにか普通の呼び方に変わったのですが。」

「そういう話なら、俺も一年前は酷かった。色々とな。まぁみんなおかしかった。北村のマインドコントロールにやられてたと説明した方が良いレベルだ。」

「一年であっという間のようで、意外と長いんですね。」

一年前、味谷一二三はこれぞ老害のようなムーブをしていたのを思い出す。検討室では観戦記者に対しての圧掛けをしていた。それが今はどうだろうか。一部にはまだその対応をしているが、割と常識人に変わっているように見える。特に先の事件の際は率先して助けに向かった。年を重ねるのは大事な事なのだろう。そういえば、皆の口調もいつのまにか変わっていく。影響というのを実感しているのだろう。

最もその観戦記者は一年で毒入りお茶を入れる女へと変貌するし、会長は谷本から木村に変わるし、その谷本という男は妻と離婚、北村は殺害され、組織というものが消滅。多くの棋士は成長を遂げた。文章も代名詞を増やすように心掛けてきた。

ただ将棋そのものは何年も、何十年も、何百年も変わらない。その先に見える答えを追い求め、男たちは戦い続ける。


「変な戦法も最近はメッキリだな。」

「そうですね…まぁそういう奇をてらうようなやり方を辞めたのは、一歩ステップアップした。そう考えても良いのかもしれませんね。」


若手棋士は若手棋士で集まりがあったようだ。東京都内のマンションでは太地主催の研究会があり、赤島、白河、平泉研二、城ヶ崎、杉浦が集まっていた。壁には米永の画像が飾られているという点を除けば普通のマンションだが、中は異様な光景である。太地研は、プロ棋士たちの養成機関なのかもしれない。


対局は互角のまま続く。どちらもまだ牙を見せない。


「去年は筋違い角ってのをやったんだったな。」

「あれは当時衝撃が走りましたね。タイトル戦という檜舞台でそれをやるのですから。」

「俺的には今年も角頭歩とかやって欲しかったものだがな。」

「あのような戦法は相手を狂わすためにやるものですし、番外戦術が効かない相手には意味がないのでしょう。北村駿はメンヘラ故、精神が不安定、つまりは心が弱いから戦法が効く。それに対して今相手にしている男は毒薬を入れられても復帰するぐらい強い。メンタルが折れないからこそ、意味がないんですよ。」

「昔、僕が勝ったんでしたっけなんてほざいた奴とは思えないな。強くなるには鬼になるしかないのだろうか。」

正直な話、味谷は、あのメンヘラ男にこの対局を解説して欲しかったと心の中で考えていた。あれだけ煙たがっていた人を恋しくなるのは何故なのだろうか。

「変な対局を観られるとワクワクした男ももういないんですね。」

「ん?あぁ。」

村山のことである。もうあの男は鬼と化した。


太地研では、人のアドバイスは将棋に良い影響を与えるという自論を証明する場と考えていた。河津は将棋の研究は一人でできる、睡眠時間さえ取れば後は研究を続けるだけ。という考えであり、実際そのようにして強くなってきた。一方の挑戦者は、恋人こそ必要ないが、同じプロの将棋仲間の研究会などを通じて将棋をした方が強くなるという考えである。この前の連盟対組織では連盟存続のためにアドバイスを受け、それが花開いたのだが、まだ心の中では一人で研究で良いという気持ちだそうで、対局前の会見でもそのように話していた。ただお互い会見は無駄という考えであり、かなり悪態ついたものだったが。

「ただまぁ、小野寺や味谷さんに彼女さんや奥さんがいることを考えると、どちらの自論も間違っているように見えて仕方ないんですけど。」

「白河、そういうのは言わないお約束だぞ。」

太地先生からの忠告だ。

「まぁ谷本前会長は、妻という存在で狂わされた人だし…わかるけど、彼女居なくて良いってのはただの嫉みに聞こえるんだよね。」

城ヶ崎よ、それはオーバーキルだ。

「河津はともかく村山さんは女性の告白断ってるから、嫉みではないんだろうね。」

最後に爆弾を置いていくな赤島。


平和な研究会と異なり、連盟は事件の対応に追われ、新潟は対局を続ける。

昼食も終わり、暫くすると河津優勢の道は開かれた。まぐれのタイトルホルダーではないことを龍棋戦で証明したが、この棋戦でもそれを裏付けするのだろう。


「流石だ、一歩づつ進化している。ただな、俺は一門で研究を練っている。一門弟子には太地研にいる東浜がいるんだ。そこからの情報も貰えるってわけだ。」

当の本人は今日は来ていない。兄弟子の戦いは一人で見たいのだろう。

「それがどうした。今のコンピュータは深い手を読んでいる。終盤は詰将棋で、序盤はパソコンで強くなる。それがプロの最適解だ。確かにアドバイスというのも役には立つのだろうが、それを得るために使う無駄な時間が勿体ない。」

「じゃあ教えてやろう。これが研究の嵌め手だ。」


その手はコンピュータには出てこない一手だった。そして詰将棋を解く者に取って陥りやすい罠を仕込まれた。まさしく挑戦者渾身の一撃であった。

「教えてやる。仲間内で研究することの大切さを。孤独のお前に。」

「教育か?あのメンヘラクソ野郎と同じことをするつもりか?」

「あんな馬鹿と一緒にするな。アレは教育じゃなくて操りだ。お前は効かないが、効いた奴もいた。これは勉強だ。」

「都合の良いように物事を考えるのは自分勝手だ。」

「それはお前だ。」


その嵌め手の対策を考えるのに大きく時間を消費した。ここからの転落は呆気ないものだった。

「俺はお前を倒して二冠になる。頂点に立つ。」


第一局勝者、村山。孤独男にとって大きな壁がそこに現れた。


対局が終わると立会人の藤井が現れた。

「お二人に忠告だ。東京で所属の将棋棋士が襲われた。お前らも気をつけるように。」

それに対して素直にわかりましたと言う村山と人と関わることがないから襲われることもないと言う河津。

「特にお前は嫌われている。ファンからの贈り物など無いだろうが、背後から恨みたっぷりに殺される可能性もあるぞ。」

北村駿の件もある。何故そんな無駄なことをしないといけないのかと若干の苛立ちを覚えた。


不穏な空気の中、第一局の地から、戻ることになった。


「気をつけろ、誰かが将棋界を陥れようとしている。」

久しぶりの四段昇段者です。


十六夜将之 元ネタは某ゲームの時を止めるメイドの苗字、十六夜と豊島将之九段の将之です。

豊島九段モチーフのキャラはプロトタイプ版でも出ており、九段棋士として出す予定でしたが、連盟対組織編をやったので、九段棋士として出せず、結果として新入り棋士の名前へ変わりました。十六夜は、元ネタのキャラにだいぶ苦しめられているので(元々弾幕ゲームは苦手)強い人のイメージとして入れています。マジで時を止めるのは反則。


吉池時雨

元ネタは現実世界の吉池四段と戦艦時雨です。時雨という名前は、北村駿の父親でも使わせて貰いましたが、この名前結構気に入っているので、流用しました。吉池四段は個人的にお気に入りなので今回新規採用です。(そもそもこの前の昇段者ですし)


対局の方は村山が先勝しましたが、何やら連盟は、不穏な空気感です。果たして後藤を襲った犯人は誰なのか…

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