後始末と次のステップ
連盟VS組織編はこれでラストです。
「こんな俺が、棋士編入なんて良いのだろうか…?」
高谷は一人自宅で悩んでいた。確かに自分は正々堂々と戦った。他の人のように不正はしていない。ただそれだけで自分は将棋を続けて良いのだろうか?
八乙女の後輩で観戦記者を務めている片岡裕寿は高谷に会いに行った。小野寺や味谷が棋士編入の試験を受けさせることに賛成していたことから、当の本人がどう思っているのか気になったのだ。
というのは建前で、本音は先輩の事件を調べたいというものだった。途中河津徹也の元で働いていた服部千尋という男から、河津家の話も聞き出している。なお服部自身は3年前に独立している。
「連盟対組織…先輩が犯罪に手を染めたこの一件、俺が突き詰めてやる。」
「なるほど、逮捕された八乙女という人の後輩だったのですか。」
悩んでいる時は他の話である。意外と薬になる。
「連盟の話を信じるなら、組織は…」
「えぇ、間違いなく人を何人か殺める気でしたよ。まぁ自分は手を染めませんでしたが、その八乙女という女性は羽川会長に唆されてやったみたいですね。」
「会長が指示しても、八乙女先輩はこういうことをやらないはずなんです。何故…」
「それはよくわかりませんが…」
自分の知っている先輩は正義感の強い女性だった。人を殺すような真似、するわけがない。
「その八乙女さんという方がどれ程凄い女性だったか知りませんが、会長の指示を受けて毒を入れたのは本人も認めていることですし…」
取り調べにおいて彼女は既に罪を認めている。
「全く持って読めない。何故あんま真似を…」
自問自答は続く。次は…被害者の村山に話を聞いてみるか。
彼は二日前に退院した。毒を入れられたというのに割とすぐ元気になったもので、師匠森井は兄が追い払ってくれたと話している。
「ほう、あの女の後輩なのか。」
「それで…」
「さぁ俺にも詳しいことはよくわからねぇ。ただあの女、一度俺に告ってきやがった。元観戦記者だろうに俺が女を作ると弱くなるという持論を持っていることを忘れやがったのか。当然俺は拒否した。結果ヤンデレの行動に出たんじゃねぇかな?」
「告白…ですか。」
「あぁ、まぁその時はだいぶ見た目も変わってたし、女って怖ぇなと思ったんだけどな。」
(果たして恋愛がそこまで人を変えるモノなのだろうか…?)
疑心暗鬼はまだまだ続く。
「全く、八乙女と羽川の話は腐るほど報じる癖に、あの河津一家の話は全く出さねぇな。金で揉み消したんだろうか。」
片岡が帰った後、村山はテレビを付け一人ブツブツ文句を垂れ流す。自分は殺されかけたというのに、テレビでは痛みを知らない者がああでもないこうでもないと騒ぎ立てている。
「他人事のように言いやがって…」
連盟は高谷類に対する棋士編入の試験を許可したと発表した。試験は五番勝負で行われ、初戦は会長、二戦目以降は若手棋士4名を選出して行われる。恐らく棋士番号の大きい順だろう。時期的には養成機関から二人の新入りが入ってくる頃、彼の合否が判明する。
生き残った連盟は、次のタイトル戦が控えている。王棋戦だ。村山も退院したことなので、予定通り決定戦が行われる。
「そういや向こうはどうなったのだろうか?」
組織側は解散という答えに対して一部棋士が反発していた。無理もない。勝手に負けて勝手に無職にさせられそうになっていたのだ。こちらは服部の所属する弁護士事務所に依頼して、なんとかして貰おうという考えだそうだ。連盟としては高谷以外の棋士編入試験は現時点では認めていない。例え元所属棋士でも退会した時点でいなかったことにされる。
一部棋士は、将棋全日本プロ棋士組合なる組織、改め組合を立ち上げたという話も入ってきた。
「これで組織は名ばかりの解体になるんだろうか…?」
そのような不安が連盟を支配している。
河津は羽川戦で得られたモノを武器に次のタイトル戦の作戦を練っている。誰かがタイトルホルダーはスーパーシードと言っていたが、全くその通りである。
ただし、相手はまだ決まっていないので今勝ち残っている全棋士のパターンを考えなければならない。
(そういえば、他の棋士が俺にアドバイスをしてきたな。連盟を守るためだってのは分かってる。ただあのアドバイスは今までにない成長だった。俺は友達がいない、ただもしも研究仲間なんていうものができるなら、作った方が本当はもっと強くなれるのか…?)
タイトルホルダーになって周りのマークが厳しくなっている。次のステップへ進むには友達作りという難題も越える必要があるのかもしれない。
王棋戦挑戦者決定戦は、春の陽気に包まれ、幸せな佳き日に行われた。村山と味谷。どちらも強敵である。
これからの連盟は王棋戦と棋士編入が主なイベントだ。
いよいよ王棋&棋士編入編が始まります!
まだ何も構想すら立っていませんが、一応書き上げ明日出します。




