連盟VS組織 第二局
孤独の棋士、出陣…
第二局、お互いが対局室に入る。
「初めまして、ではありませんね。河津さん。」
「早速始めよう。今回は俺の先手なんだろ?」
「そうですねぇ…」
その時、対局室に人が入ってきた。3人組、どう見ても記録係のようなものでもない。ホテルの人でもない。
「なんだ?部外者以外立ち入り禁止じゃねぇのか?」
「いえ、関係者ですよ。立派な。」
「え!?yuiにkanade!?なんでここに!」
新庄が驚いていた。
「誰だ?それ」
村山はよく解っていない様子。
「有名人ですよ!ビックな!そういや、この前藤井さんも生で見てたらしいですね。」
あの日、藤井からそんな話を聞いていた。しかしなぜここに居るのかという答えにはなっていない。
「アイツら、向こうのスポンサーとかなんじゃねぇの?」
「可能性は高いですね。」
「yuiさんにkanadeさん。そして徹也さんてす。」
「知らねぇな。スポンサーか何かか?」
「いえ、この対局にスポンサーなんていませんよ。」
「じゃ、なんでここに居る?」
「簡単ですよ。彼らは…
貴方の血の繋がった家族なんですから。」
家族。血の繋がった家族。施設育ちの河津にとって全くピンとこない。
「考えたことないですか?いくら施設育ちだからと言っても、貴方にもお父さんとお母さんがいる。誰かの子供なんですから。貴方は施設育ちで親の顔なんて知らないでしょうけど、貴方にもちゃんと居るんですよ。親が。」
「つまりコイツらは俺を捨てた…家族…なのか…」
段々と様子がおかしくなる。現実を理解してきたようだ。
「えぇ、本人から捨てた理由、聞いてみましょう。」
kanade、もとい河津奏が口を開く
「単純ですわ、女の子が欲しかった。ただそれだけ。」
yuiもとい娘の河津結衣が続けて
「今更戻ろうって言っても、見窄らしい格好の貴方は我が家の門を潜ることすら出来ませんわ。」
そして徹也、河津徹也が最後に
「河津家は高貴な家、教育もなってない者が、家族になれるはずがない。」
とダメ押しした。後悔するどころか、その選択を正しいと信じて疑わない顔だった。
「さぁ、始めましょうか。」
さっきまでの戦う男の姿はなかった。その言葉に返事をせず呆然としてただ盤の前に座るだけ。突然目の前に自分を捨てた家族が現れ、いい気味と言わんばかりの笑顔でこちらを見ていた。それは番外戦術に耐性のある男のメンタルを壊すのに充分だった。
「エグいことしやがるな、アイツの親見つけてこんなことすんのかよ。」
番外戦術の鬼も流石に引くレベルと言えば、これがどれだけ恐ろしいことかわかるだろう。
「…実の親からそんなこと言われて無事なわけねぇ。多分、アイツ負ける。」
村山は負けると発言した。流石にいつもの河津じゃない。あの時の、一時期弱くなっていた頃のあの面影が見える。
対局は角換わりに進んでいた。しかしいつもの勢いがない。攻めの姿勢が全く見られない。守りに入っていた。
「流石にアレじゃ、俺に勝った時の、タイトルを奪った時の対局とは程遠い…あんなに楽しみにしていた人が、こんなことに。」
「おい、会長。次は誰が出るんだ?」
「次は…君だ。村山。」
その言葉にも覇気はない。
「そうか、準備する。多分、アイツはエグい番外戦術仕掛けてくる。いや不正の可能性も。」
対局は終始羽川の思惑通りに進む。この対局に光はない。
「村山…平常心、いつもの心が大事だ。例え相手が番外戦術を仕掛けようと、いや、不正しようと、お前はいつも通りにやればいい。河津の姿見て、少しは心構え、変わっただろう。」
「あぁ、任せろ。俺は、アイツとは違うからな。」
68手で河津が投了、これで一勝一敗。家族は満面の笑みで羽川の勝利を喜んでいた。孤独の男に、仲間などいない。
「存在意義、無いんでしたよね?負けた人は。」
よくプロ棋士は勝つことが存在意義と言うが、ここでこのセリフはとどめを刺すものだ。
控え室に戻ってきた彼の姿は、絶望の顔も相まって悲惨だった。
「次は渡部、君が行きなさい。」
「わかりました。」
「会長?次は何用意してるんですか?」
「とっておき、かな?」
「次戦は渡部…中学生棋士か。」
「この人が、僕の前の中学生棋士…」
「そうだ、俺から始まった中学生棋士の系譜は、ここに繋がる。」
「連盟に三人、組織に二人。見事にバラけたな。」
味谷、谷本、小野寺。ここにいる三人は中学生デビューの棋士。そして先程の羽川、そして今回の彼も中学生デビュー。歴史上五人しかいない、神の領域。
「まぁ自分は神の領域という言葉は嫌いですけど。達人の領域にしていただいて。」
味谷はそう発言した。
「村山なら何でくる…?」
警戒は続く。
「恐らく、彼の兄、聡さんを使ってくると予想します。」
「本当に…無慈悲だな…」
河津は独り言を続けている。
「何故気が付かなかったんだろう。俺にも親がいたってこと。施設育ちだろうと、生みの親はいるってこと…。そして、そんなことで気をおかしくされて、俺は不甲斐ない出来の棋譜を残した。存在意義、無いじゃねぇか。俺に。」
家族、そう。孤独の男にも親がいる。誰かの子供だった。
親からの言葉は想像以上に深く刺さるのです。
次回 第三局 村山と渡部の戦いです。




