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孤独の棋士  作者: ばんえつP
連盟VS組織編-生き残りを懸け-
45/81

連盟VS組織 第二局

孤独の棋士、出陣…

第二局、お互いが対局室に入る。


「初めまして、ではありませんね。河津さん。」

「早速始めよう。今回は俺の先手なんだろ?」

「そうですねぇ…」


その時、対局室に人が入ってきた。3人組、どう見ても記録係のようなものでもない。ホテルの人でもない。

「なんだ?部外者以外立ち入り禁止じゃねぇのか?」

「いえ、関係者ですよ。立派な。」


「え!?yuiにkanade!?なんでここに!」

新庄が驚いていた。

「誰だ?それ」

村山はよく解っていない様子。

「有名人ですよ!ビックな!そういや、この前藤井さんも生で見てたらしいですね。」

あの日、藤井からそんな話を聞いていた。しかしなぜここに居るのかという答えにはなっていない。

「アイツら、向こうのスポンサーとかなんじゃねぇの?」

「可能性は高いですね。」


「yuiさんにkanadeさん。そして徹也(てつや)さんてす。」

「知らねぇな。スポンサーか何かか?」

「いえ、この対局にスポンサーなんていませんよ。」

「じゃ、なんでここに居る?」

「簡単ですよ。彼らは…


貴方の血の繋がった()()なんですから。」


家族。血の繋がった家族。施設育ちの河津にとって全くピンとこない。

「考えたことないですか?いくら施設育ちだからと言っても、貴方にもお父さんとお母さんがいる。誰かの子供なんですから。貴方は施設育ちで親の顔なんて知らないでしょうけど、貴方にもちゃんと居るんですよ。親が。」

「つまりコイツらは俺を捨てた…家族…なのか…」

段々と様子がおかしくなる。現実を理解してきたようだ。

「えぇ、本人から捨てた理由、聞いてみましょう。」

kanade、もとい河津奏(かわづかなで)が口を開く

「単純ですわ、女の子が欲しかった。ただそれだけ。」

yuiもとい娘の河津結衣(ゆい)が続けて

「今更戻ろうって言っても、見窄らしい格好の貴方は我が家の門を潜ることすら出来ませんわ。」

そして徹也、河津徹也が最後に

「河津家は高貴な家、教育もなってない者が、家族になれるはずがない。」

とダメ押しした。後悔するどころか、その選択を正しいと信じて疑わない顔だった。


「さぁ、始めましょうか。」

さっきまでの戦う男の姿はなかった。その言葉に返事をせず呆然としてただ盤の前に座るだけ。突然目の前に自分を捨てた家族が現れ、いい気味と言わんばかりの笑顔でこちらを見ていた。それは番外戦術に耐性のある男のメンタルを壊すのに充分だった。


「エグいことしやがるな、アイツの親見つけてこんなことすんのかよ。」

番外戦術の鬼も流石に引くレベルと言えば、これがどれだけ恐ろしいことかわかるだろう。

「…実の親からそんなこと言われて無事なわけねぇ。多分、アイツ負ける。」

村山は負けると発言した。流石にいつもの河津じゃない。あの時の、一時期弱くなっていた頃のあの面影が見える。


対局は角換わりに進んでいた。しかしいつもの勢いがない。攻めの姿勢が全く見られない。守りに入っていた。

「流石にアレじゃ、俺に勝った時の、タイトルを奪った時の対局とは程遠い…あんなに楽しみにしていた人が、こんなことに。」


「おい、会長。次は誰が出るんだ?」

「次は…君だ。村山。」

その言葉にも覇気はない。

「そうか、準備する。多分、アイツはエグい番外戦術仕掛けてくる。いや不正の可能性も。」


対局は終始羽川の思惑通りに進む。この対局に光はない。


「村山…平常心、いつもの心が大事だ。例え相手が番外戦術を仕掛けようと、いや、不正しようと、お前はいつも通りにやればいい。河津の姿見て、少しは心構え、変わっただろう。」

「あぁ、任せろ。俺は、アイツとは違うからな。」


68手で河津が投了、これで一勝一敗。家族は満面の笑みで羽川の勝利を喜んでいた。孤独の男に、仲間などいない。

「存在意義、無いんでしたよね?負けた人は。」

よくプロ棋士は勝つことが存在意義と言うが、ここでこのセリフはとどめを刺すものだ。


控え室に戻ってきた彼の姿は、絶望の顔も相まって悲惨だった。


「次は渡部、君が行きなさい。」

「わかりました。」


「会長?次は何用意してるんですか?」

「とっておき、かな?」


「次戦は渡部…中学生棋士か。」

「この人が、僕の前の中学生棋士…」

「そうだ、俺から始まった中学生棋士の系譜は、ここに繋がる。」

「連盟に三人、組織に二人。見事にバラけたな。」

味谷、谷本、小野寺。ここにいる三人は中学生デビューの棋士。そして先程の羽川、そして今回の彼も中学生デビュー。歴史上五人しかいない、神の領域。

「まぁ自分は神の領域という言葉は嫌いですけど。達人の領域にしていただいて。」

味谷はそう発言した。


「村山なら何でくる…?」

警戒は続く。

「恐らく、彼の兄、聡さんを使ってくると予想します。」


「本当に…無慈悲だな…」

河津は独り言を続けている。

「何故気が付かなかったんだろう。俺にも親がいたってこと。施設育ちだろうと、生みの親はいるってこと…。そして、そんなことで気をおかしくされて、俺は不甲斐ない出来の棋譜を残した。存在意義、無いじゃねぇか。俺に。」

家族、そう。孤独の男にも親がいる。誰かの子供だった。

親からの言葉は想像以上に深く刺さるのです。


次回 第三局 村山と渡部の戦いです。

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