連盟VS組織 第一局
ついに始まる、存続を懸けた戦い。
「では、その日に。楽しい一日にしましょう。」
「俺たちは負けない。全力で行かせてもらう。」
運命の日、連盟と組織の戦い。負けた方が解散するという条件で勝負が行われる。
「正直小野寺は負けた直後だから心配だが、味谷さんにカバーに入ってもらおう。」
連盟側は五人の選抜に会長木村、二冠河津、虎王村山、そして前龍棋で天才棋士と称される小野寺と、その彼が慕うベテラン棋士味谷で行くことになった。また万が一のことを考え、新庄と谷本にも来てもらっている。
対する組織側は会長羽川、刹那、小牛田、渡部、高谷の五人。いずれも強敵である。
「本当にやるんですか?会長…万が一バレたら…」
「組織を潰す戦犯になりたいのならどうぞご勝手に。」
対局者には手紙が送られた。連盟を守るために戦おうと決意した者、悩みに悩んで参加を表明した者、別の世界のトップ棋士と戦うことに期待を膨らませる者。様々である。
「ついに来たか。誰だろうと俺は勝つ。頂点に立つだけだ。」
二冠となり、その夢に近づいている彼にとって、この戦いは力試しのようなものだ。向こうのトップとの戦でどちらが上か勝負する。勿論連盟が無くなれば自分の生きる場所も無くなる。それは当然避ける必要がある。
対局場は都内のホテルだった。タイトル戦ならば華々しい雰囲気が漂うが、今日は異様な空気に包まれている。
なお対局の中継は行われない。他の棋士は控え室のモニターで見ることができるが、外の者が知ることはできない。
「第一局は俺と刹那…って棋士のようだな。」
連盟会長木村が先陣を切る。
振り駒はホテルの人が実施した。養成機関の人に任せるなどは不正の可能性があると組織側が指摘した為である。
結果は刹那の先手となった。
「対局が始まったな。」
連盟側と組織側で控え室は別である。つまり作戦を練ることは容易である。
お互いが飛車先の歩を突き、居飛車の戦いが始まった。
持ち時間はそれぞれ1時間。早指しの部類である。
「刹那って奴はデジタル時計なんだな。こっちにも後藤とかデジタル時計でやってるやつはいるが、向こうにもいるんだな。」
時間を知るために時計を用意するのだが、デジタル時計の棋士は珍しい。味谷はアナログなのでそこが珍しいと感じる点となる。
対局中盤、流石にトップ棋士。コンピュータと同じ手を連発する。
「正確ですね、これは強いですよ。」
小野寺が警告する。AI超えの手もあるかも知れない。
「向こうのレベルというのを感じるな。完璧な、クラシックの演奏のようだ。」
「たださっきから完璧すぎねぇか?」
村山が疑問に感じていた。あまりに完璧だと。
「気持ち悪いほどに完璧。」
河津がボソッと続く。この二人から見て刹那という男の指し方は違和感を覚えるものだった。
「まぁでも、不正かどうかなんてわからんよ。実際コンピュータと正確に一致してるから完全な不正とか言ってもそれを証明はできないだろう?実際小野寺だってそういうことはある。強い棋士だからこそと言えるだろう。」
味谷は不正説に否定的である。自分が可愛がっている彼が不正していると言われかねないのもある。
「まぁクラシックでも聴いて落ち着きましょう。私も最近不調ですし…」
「流石にこの状況でそれは呑気にも程があるぞ。」
谷本が注意をする。今日は和やかなムードには絶対にならない。
「血だまりって知ってるか?」
村山が唐突に発言した。河津以外は知っていると答えた。
「対局中に横から口を挟んだ奴の首を切り、そこに置いたと言われているから血だまりなんだ。不正しているならAIの首をそこに載せることになるんだろうか」
「血だまりだ?アレは音受けと言われる、将棋盤を作るために必要なものだ。アレがねぇと歪んでしまうからな。」
河津が指摘した通り、血だまりというのはあくまで通説。実際はこちらの理由により作られている。
「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな。」
嫌味を言われたが、そんなこと気にする方がおかしいという考えだ。
一方組織側の控え室は言葉を呟くのを躊躇うほど静寂に包まれていた。ただモニターを睨みつけそこから微動だにしない。観戦記者がいるのなら、どのように記載していたのだろうか。
「完璧ですね、ただ私は負けません。連盟を守るためにも。」
木村はAI超えの手を連発していった。正直な話、普段以上の実力である。
「会長…連盟を守るために…」
「俺たちに見せているようだ。本気を。」
新庄も味谷もまじまじと見ていた。皆の仕事を無くさない為に戦う男の姿は輝いて見えた。
(まずい、勝てない…なんなんだよ!)
刹那の心の中は焦っていた。その様子は控え室のメンバーにもバレている。恐らく相手にもバレているだろう。
(会長が、会長がこれなら行けるって言うから!俺はやってるのに!)
114手までで刹那が投了。まず初戦を木村が制した。
「お疲れ様です。流石でしたよ。」
新庄が早速労いの言葉をかける。
「いやぁ、不正してる奴に負けたら笑い者だからなぁ。」
「ん?不正してるって気が付いてたのか?」
村山が驚いた顔で見ていた。
「あぁ、でもそれ言っても何にもならんだろう?」
「解ってて正攻法で勝ったわけか…」
「刹那…わざわざデジタル時計を使いAIの手を教えていたというのに、残念ですよ。」
「そんな…会長が…」
「何ですか?」
「…いえ。」
「まぁ私はいざという時の為に用意するタイプですから。そうですね、次は私が出ましょう。連盟に地獄を見せ、組織に栄光を。」
「河津、次はお前が行け。」
「相手も強いんだろうな?」
「相手は…羽川だ。レベルとしては小野寺ぐらいだ。なんせ連盟時代には顔だった男だからな。」
ただ相手が不正している可能性もある。第一局でいきなり不正をしてきた人たちである。
「まぁ不正していたら、俺は徹底的に追い詰める。ただそれだけだ。」
「さてと、準備良し。楽しみだ。」
ホテルには謎の人物が現れていた。
連盟VS組織編は毎日投稿します。午後8時予定です。
第二局は河津VS羽川です。




