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孤独の棋士  作者: ばんえつP
龍棋編-頂点の光を掴むのは-
39/81

龍棋戦開幕 天才VS秀才 後編

後編になります!

東京都内でランニングをしている村山は、龍棋戦の検討しながら公園内を走っている。八乙女と別れた後、散歩からペースアップした。

その公園には萩原もいた。10分後、二人はバッタリ出会う。

「どうだ?検討の程は。」

「現時点では互角と見る。ランニングしながらだと、思考が加速するものだ」

「ジムにでも行けば良いものを。」

「それだとお金がかかるだろう?」

「そうか。ところでお前さっき女に絡まれてなかったか?」

「あぁ、八乙女だったか?観戦記者やってた。随分雰囲気変わってて驚いたが」

「地雷服の女には気をつけろよ。」

「電車に飛び込むからか?」

地雷服の女が電車に飛び込むというイメージになったのは間違いなく河津と遭遇した千駄ヶ谷駅の人身事故が原因である。

「まぁそれもそうだが、ヤンデレというんだろうか。女は怖いからな。」

「見た目と中身は比例するってことか」

恋愛は人を弱らせるという考えの持ち主である彼は、八乙女の告白も断ってここにいる。

「まぁ気をつけろ。それだけだ。」

二人の会話が終わり、村山は再度ランニングを始める。


龍棋戦第一局、栃木県日光市で続いている対局は午後3時となり、おやつの時間へ突入した。おやつは原則控え室で食べることになるため、河津はおやつを頼むことはなかった。娯楽よりも目の前の仕事が優先である。一方で龍棋はいちごケーキを頼んでいる。栃木県はとちおとめで有名な県。糖分補給を行い、決戦に備えるのがプロとしての準備と考えた。まだ互角。お互いが間合いを取っている状況故、気が抜けない。隙を見せれば一発で地獄行きだ。


ただ将棋が強くても、精神的にも強くなければ一流にはなれない。重圧、プレッシャー、緊張感、番外戦術も一つ大きな敵だろう。ただ勝つ将棋を指すだけではない。目の前にいる相手の生活を奪う覚悟で挑まなければならない。自分の生活をする為に。「みんななかよく」など無理難題なのだ。自分以外全員敗北、これこそ理想なのだ。

現在53手目、7七角打。手番は河津。

(ここは7五角が一番良いように見えるが…この後向こうは同歩と来るだろう。同飛、6六角打、7六歩打として、その後は…)

棋士は孤独の戦いと誰かが言った。野球やサッカーはチームワークを求められる所があるが、将棋は一対一の個人戦。己の引き出し勝負である。河津という男は生まれてから常に孤独のまま、今日まで育ってきた。いわばこれが平常運転なのだ。一方の小野寺、彼は幼い頃から天才と言われ周りからチヤホヤされてきた。当然将棋は個人戦だが、応援する者も多かったのである。今では地元は常に彼の応援をし、彼女までいるのだから、対局中は孤独でも全く辛くは無い。むしろ帰ればそこには仲間がいる。万が一辛いという感情が出てきても、みんなが支え慰めてくれるのだ。


菜緒は自宅でこの対局を見ていた。自分は将棋なんて全然わからない。ただ目の前で戦っているのは大好きな彼なのだ。最近は評価値がわかるようになり、どちらが優勢とかすぐに素人でもわかる世界になった。全力で戦う彼氏の姿はとても輝いて見える。全力で勝ちというプレゼントを手に入れようとしているのだ。


(誰かに支えられて生きているようじゃ、プロとは言えない。自立をしろ…)

54手目7五角を指した河津は内心こんなことを思っていた。ただ自分に友達や家族がいないからと言って、他人に強要するのは間違っている。ただそれが誤りであるということを彼は知らない。知る機会が無かった。捻くれた性格は孤独が生み出したものだ。


「機械での研究、まぁAIだな。これでの研究は確かに有効だ。ただ将棋はコンピュータと戦うわけでは無い。当然パソコンでは駆け引きなど存在しない。最善手しか指さないのだから当然だ。そこで対人戦の研究会というものが存在する。」

「木村さん、急にどうしたんですか?」

「いやぁ、この対局を見ていてどちらもタイトルホルダーとして相応しい対局をしていると感じたんだが、小野寺の方がやはり対人戦に慣れているという印象があってな。駆け引きが上手いんだ。まぁ彼女を持っているだけあるな。」

木村はこの対局を通して二人の差というものを実感した。それは人との関わりである。

「心の余裕、ゆとり…彼にはある。好きな人という支えが…僕にとってのクラシックのような。そんな味方が」


「自分の思いを殺された男…彼は、最初から孤独を受け入れていたのでしょうか。私には友達が欲しかったように見えるのです。」

中継のコメントでこんなものが流れてきた。

「まさか、アイツが友達を?あり得ないだろ。」

たまたまそれを見た萩原はこのように答えた。どう考えても友達なんて欲しがる性格では無い。

一方同じようにコメントを見つけた村山はある程度納得していた。

「何故将棋を始めたのか、それぞれ理由はあるはず。あの男がこれに興味を示した理由、それが友達に関係ある可能性もゼロでは無いだろうな。」


村山の行動力は凄まじいものだ。すぐに木村に電話を掛ける。

当の会長は電話相手に驚きつつも、検討室内で電話に出る。無論、新庄に断りは入れている。

「プロになる前の河津について知ってる奴はいるか?」

「ん?いきなり…」

急展開過ぎて着いていけないというのは良くあることだが、とりあえず冷静になって話を続ける。流石組織のトップだ。

「河津の昔を知る奴か…そうだな。アイツのことを良く知るのは師匠の羽島だが、生憎既にいないしなぁ。彼は施設育ちだから、施設長あたりは詳しいかもな。」

「そうか、わかった。」

電話終わり、木村は何故村山があの男を調べたがっているのか、改めて考えた。

(何か、あるのか?)


「会長!動きがありました!小野寺の評価値が上がってます!」

新庄の声が考え込んでいた木村に届く。ふと中継に注目すると小野寺の優勢になっていた。

「やはり、人との関わりは大事なんだよ。相手は機械じゃない。」

そう呟いて検討室を出た。


(間違いなく劣勢だ…何か、挽回の手は…)

挽回の手、それは最善手とは限らない。相手を間違わせる手。

(これでどうだ?)

河津の指した手は3三桂。間違わせる一手と自分は考えていた。

「それで勝負手のつもりですか。自分は貴方の対局、挑戦者に決まってから全部確認しました。勿論今までの勝負手の傾向もです。なのでわかるんですよ。」

虚しく3六桂。非情な一手だった。


121手までで河津王棋の投了。小野寺龍棋の勝ちとなった。


対局室を出るとスマホを起動してすぐに連絡を入れようとする。

「ったく、菜緒はちゃんと観てたんだな。」

そこには彼女からのメッセージが届いていた。

「お疲れ様、渚くん。まずは一勝だね!」


河津は自身の敗北の原因を自問自答する。何がダメなのかと言われればまず劣勢になったことであるが、それ以上に勝負手を読まれていたことにあった。

「俺の考えが…読まれていた…!?」

帰りの特急はとても長く感じた。豪華な座席が返って己の心を抉る。勝てばこの席の座り心地も最高なのだが。

第一局は小野寺が勝ちました。

この話を書いているときに孤独の棋士の第一話を見返していたのですが、酷い文章でした…名前のオンパレード。何回河津と書いたのか…

今でも名前が多いように感じていますが、最初の頃は異常でした…

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