第四局へ向けて
今回は少なめです。第三局が長かったので息抜きでどうぞ。
「名人格リーグは新庄が勝ったそうで」
木村が名人格リーグの結果を確認した。いわき市内の居酒屋、今日は感想戦か。
「そうか、貴族などと揶揄され、自身も薔薇を咥えて現れる奇人も、対局内容は普通にプロ…か」
味谷が少し言葉を詰まらせる。河津に言われたアマチュアという言葉が心の底でしがみついている。
「まさか、あの男に言われた言葉引き摺っているんですか?味谷さんほどのお方が」
「ん?いや、まぁ」
いつもらしくない。いつもの威勢の良さが今日は全く感じられない。
「まぁ、嫌なことは呑んで忘れましょうよ」
よろしくない酒の呑み方ではある。お酒はほどほどに呑むのが一番だが。
「そうだな」
嫌なことがあれば酒に走ってしまうのも性ってものだ。
小野寺は澤本と共に海鮮料理の店へ来ていた。こちらでも今日の感想戦である。
「いわきの海産物を食べながら感想戦とは、贅沢なものだ。」
「そうですね、太平洋の海の幸、沢山食べて貢献しましょう。」
孤独の棋士、河津は早速今日の内容の研究へと入る。瑞希システムを発展、改良させ、進化させれば無限の可能性を見出せる。
「挽回の手をあの時点で見つけていたとすれば、その根拠はどこにあるのか…」
いわきの対局が終わり、各自東京へと戻る。3日後、龍棋戦木村味谷戦が行われ、139手で味谷が勝利。つまり河津にとっては萩原戦勝利後の相手が決まったということになる。
「萩原伊吹は穴熊攻略のプロ。戦法は他のものが良いか」
新庄は第三局で村山が魅せた挽回の手を見ていた。当人は当日対局があり、リアルタイムでは全日程を観られていない。
「ほうほう、80手までは谷本ペースか。」
「この毒饅頭、時間のない中、これを指されると食べたくなってしまうものだ。」
「この手、既に指摘していたやつはいないと中原さんは言ってたが、それは本当か?と尋ねていた。検討室内でこの手を毒饅頭と指摘した人がいるのだろうか?」
森井家では、村山の手をみんなで研究していた。勿論ここは村山全力応援である。なお当人もいる。
「毒饅頭、早い段階で考えてたんだな」
と森井が言えば
「検討室にいた俺ですらわからなかった。流石の一手としか」
と澤本が言う。ここは褒め言葉で溢れている。
梶谷や東浜はこの手をパソコンに入れこの後の変化を読んでいる。
「どうだ?いい感じの手、見つけたか?」
村山が二人に聞いてみる。
「あるにはあるようですが、やっぱり時間のない中、これはキツイですよ。」
と梶谷が話す。彼はまだプロではない。こう考えるのも無理はない。
「そうか、正直なことを言えば時間管理というのは大切なことなんだ。俺は谷本の時間も含めてコントロールしていた。結果として向こうは毒饅頭でお陀仏だ。」
「本当ですか?」
「東浜、俺を信用しろよ」
笑いながら突っ込む村山、あの男ほどではないが、彼も表ではなかなか声の掛けにくい人である。しかし森井家にいる時は、普通の好青年なのだ。
「さて、第四局もそろそろだ。このままストレートで頑張ってくれ。第四局はみんなで観にいこうと思っている。」
「勿論です。師匠やあの子たちの目の前で、俺がタイトル取ってやりますよ。」
「まぁ俺からすりゃ兄弟子に先取られるのは嫌なんですけどね」
澤本や東浜はプロ棋士である。特に澤本はプロになって暫く経っている。このように考えるのも無理はない。
谷本の家は寂しかった。花子と離婚して少し経つ。一人の部屋に静かに座る。
ただこれで良かったのだ。自分も元嫁も味谷や小春、河津など多くの人に迷惑をかけていた。自分が制御できなかった。許されないことだ。子供じゃないのだから。
「これでいいんだ。」
静寂の中か細い声がこだました。
株の人としてテレビに出ている桐谷は、第四局を前に、久々に和服を持ってきていた。
「将棋棋士としてよりも、株の人として有名になったが、俺は今でもプロ棋士だ。第四局は決着の可能性もある。しっかりと努めよう。」
大平と平泉から「師匠、頑張ってください」との声も届いている。
「まかせろ」
新庄と藤井以外は第四局へ注目していた。正確に言えば河津は新庄藤井戦も注目しているが、大体は決着局となり得るこの対局をしっかりと確認することに全力だった。
第四局は兵庫県神戸市で行われる。谷本の地元だ。
「全く、第三局も第四局も名人格リーグと被るとはついてないぜ。」
新庄は第五局の立会人予定者だが、開催されるかなんてわからない。
「村山の勝ちで終わるかもしれないし、意地で1勝かもしれない。わからないね」
藤井であってもこの結果はわからない。
いよいよ第四局です。孤独の棋士、主人公より村山の方が出ている説が浮上していますが、主人公にスポットライトが当たりにくい作品、たまにありますね。
次回の神戸、谷本浩司の地元です。いわきの次は関西となかなか大変です。




