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孤独の棋士  作者: ばんえつP
虎王編-意地と意地-
26/81

ヒフミの仕事

重要な対局の前の、一休み

河津は気分転換に名古屋の育成機関へ顔を出していた。澤本が幹事を務める育成機関である。そしてその男とは龍棋戦の次戦で対局する。

プロ棋士は時に子供の柔軟な発想からヒントを得ることがある。澤本はここで彼らから様々な刺激を受け、それを対局に活かしてくる棋士である。


「何しに来た」

幹事の圧は通じない

「プロ棋士が将棋を見に来て何が悪い」


河津は子供たちが対局する部屋の隅で静かに盤面を見る。まだ小さな子供もいるので、小学校のように見えるが、ここで行われているのは決闘となんら変わりない。

「対人研究の基本は、相手の研究手段を知ること」

河津のこの言葉は、虎王戦を受けて感じたものを具現化したものである。


「それでは、始めてください」

澤本の一声が合図となり一斉に対局が始まった。


河津にとって育成機関は苦い思い出がある場所。当時対人戦に慣れていなかった彼はなかなかこの育成機関から養成機関へ上がることができなかった。師匠のスパルタ教育の原因にもなったのであまり良い思い出はない。自分は笑顔で対局などできていなかった。それがどうだろうか。今の子供たち、目の前にいるあの子たちは笑顔を見せながら、それでも真剣に盤面に向き合っていた。


それぞれ対局が終わり、休憩時間になると、子供たちは澤本へ質問していく。

「ここってどう指せば良いんですか?」

「振り飛車相手に有利に立つ方法って?」

質問の内容はこのようなものばかり。今度の澤本河津戦どうですか?なんて誰も訊くことはない。


わざわざ中京まで来て感じたこと、それは澤本康晃という男が、柔軟な発想から戦法を見つけているということだった。実際に肌で触れることでより具体的に理解した。


萩原伊吹が八段昇段を決めた。小野寺との対局に勝利し、勝ち星が一定数貯まったからである。

最近、天才棋士小野寺渚が不調のように感じる。勝って負けてを繰り返している。スランプだろうか?


中原は自身の病がきっかけで電撃引退をしたが、引退後も将棋を見守っていた。絶対王者大山を知り、現在は小野寺を見守るお爺ちゃんは、自身が十六世名人という名を持つように、伝説の棋士なのだ。

そんな中原の所に電話がかかる。

「中原さん、お久しぶりです。味谷です。」

電話の主は味谷、当然現役時代には何度も対局している。棋士番号は味谷の方が上だが、実績や年齢は中原の方が上である。

「味谷か、何のようだい?」

「実は」

中原に立会人を務めて貰いたいということだった。次の第三局は立会人を務められる棋士が他におらず、大御所を引っ張り出す事態となっていた。

「まぁ体と相談してみるよ、誰か補佐でついてくれるなら問題はない、かな」

「補佐なら自分がつきます。」

ここで疑問に思った人もいるだろう。味谷がまた立会人をすれば良いのではないかと。しかし続けて立会人をするというのは基本あり得ないことである。


このような経緯で第三局は中原十六世名人が立会人となった。


電話終了後味谷はこう呟く。

「九段が少ないのが悪い」

九段にはなかなかなれない。タイトルホルダーがある程度固定されてしまうと九段になる棋士が非常に少なくなる。更にベテランは次々引退した結果、九段の棋士は数えるほどとなっていた。引退の九段棋士も数えるほどなのだ。現在の将棋界は七段が一番多い歪な形である。


以下は将棋棋士の段位、タイトル等を示したものである。


河津稜   棋士番号310 王棋 七段

小野寺渚  棋士番号307 龍棋 七段

谷本浩司  棋士番号131 十七世 虎王 九段

味谷一二三 棋士番号64 九段

木村一也  棋士番号222 名人格 九段

村山慈聖  棋士番号249 八段

新庄伊織  棋士番号263 九段 名人格3期

萩原伊吹  棋士番号213 八段

赤島未来  棋士番号300 六段

森井信昇  棋士番号90 七段 引退

藤井健   棋士番号198 九段

白河明   棋士番号302 七段

中野海   棋士番号312 四段

東浜真寛  棋士番号313 四段

米永文雄  棋士番号85 永世王棋 九段 没

北小路劔  棋士番号11 九段 没

羽島誠   棋士番号112 八段 没

北村駿   棋士番号215 九段 没

澤本康晃  棋士番号274 七段

中原真一  棋士番号92 十六世 九段 引退


棋士番号は順につけられるが、この表にない棋士の多くが七段以下、もしくは既に没した人である。新庄がいるじゃないかという声が聞こえてきそうだが、新庄は第三局、第四局どちらも対局が組まれている。その為立会人は不可である。なお第五局は行けるとのことだった為、第五局の立会人として選ばれた。


「立会人問題はどうにかしないと。第四局の立会人、決まらないぞこれは」

味谷は引退棋士で九段の棋士に電話を掛けてみることにした。

「そういや、棋士番号120の桐谷圭(きりたにけい)って棋士がいたな。九段だし、ちょっと電話してみるか」

桐谷圭、九段の引退棋士であるが、第三局に出られないのにはわけがあった。桐谷は引退後、株の人として有名になり、現在は将棋よりも株主優待の人というイメージが強くなっていた。虎王戦第三局の日も、株主優待のいろはというイベントがあり、ここへの登壇が既に決まっていたのだった。


桐谷は株主優待制度を活かして生活する人である。総資産もかなりのものであるが、それらを自身の弟子である棋士番号243大平洋介(おおひらようすけ)六段と、棋士番号299の平泉研二(ひらいずみけんじ)五段に使っている。そんな桐谷の元に電話が来た。味谷からである。

「その日は確かに予定はないですね。まぁ、私もプロ棋士ですから、わかりました。」

しっかりプロ棋士の血が流れていた。いくら株の人で有名になっても、この男は立派なプロ棋士なのだ。


「ふぅ。とりあえず第四局まではなんとかなるな。」

木村から頼まれた立会人集め、なかなか大変なものである。なお第五局まで決まっているが、第五局は味谷が決めたわけじゃないので忘れている。


河津王棋と澤本七段の龍棋戦予選トーナメントは、千駄ヶ谷の対局場で行われた。この対局もそこまで注目されたわけではない。やはり棋士の関心は虎王戦にあり、こちらへ興味を示すことはない。

河津の先手で対局は矢倉模様となり、131手で河津が勝利した。特に見どころもない、普通の対局である。大体逆転劇や意表を突いた将棋なんてそうそう見られるものではない。

対局場の外に出て携帯の電源を入れると、澤本の方には子供たちから励ましのメールが届いていた。普段の育成機関では自分第一だが、こういう時は人の心配をする。子供だけど妙に大人な対応である。


河津はその後、赤島にも勝ち、見事決勝トーナメントへ駒を進めた。

決勝トーナメントは16名で争われる。各棋士勝ち上がり、ベスト8は以下の通りとなった。

河津王棋

萩原八段

木村名人格

味谷九段

新庄九段

谷本虎王

藤井九段

村山八段

河津は次戦で萩原と対局。村山は藤井と対局する。虎王戦の期間が多少空いた間に龍棋戦はかなり駒を進めていたのだ。対局は規則正しく行われるわけではない。ピースを埋めるように入れていく。


ベスト8を見て小野寺はインタビューを受けていた。龍棋のタイトルホルダーとしてこの中の誰かと対局する。彼自身は最近不調ではあるが、なんとかここ数局は立て直した所である。世間では天才復調と持て囃している。

「この時期になると、自分はタイトルホルダーなんだという気持ちになりますね。」

待ち受ける立場というのは妙にソワソワするものだ。今までは俺がその場所に行くという気持ちだったが、今回は誰かが俺のところに来るという身分。勝ち上がってほしい棋士を聞かれた神童は

「やはり、味谷先生ですかね。一番お世話になってますし、タイトル戦でぶつかりたいですね。」

と答えた。その男は次戦で木村と対局する。


今後の対局予定は、虎王戦第三局と名人格リーグ戦新庄萩原戦、龍棋戦木村味谷戦、虎王戦第四局と名人格リーグ新庄藤井戦、龍棋戦河津萩原戦である。


「ここから怒涛の重要対局ラッシュだ」

そろそろ龍棋戦の挑戦者も決まりそうですね。その前に名人格ですかね。

一番格の高い棋戦ゆえ、かなりの戦いになるでしょう。

現在リーグトップを村山が、後に続くように新庄と谷本が追いかけています。

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