虎王戦開幕 会長から降りた男と闘魂溢れる男
いよいよ第二章開幕!虎王戦も開幕です!
虎王戦開幕。会長から降り、妻だった花子と離婚して新しいスタートを決めた谷本浩司虎王と、村山慈聖八段の対局である。
第一局は、東京都渋谷区渋谷で行われる。虎王戦の第一局はここ最近ずっと渋谷で行われている。
「村山八段、お騒がせ、大変失礼しました。私はこれから失った信頼を取り戻す旅を始めます。まずはタイトルを防衛、タイトルホルダーとして相応しい所、見せていきます。」
谷本は村山に話をしていた。
「例の件はもうお前が会長を辞めたことで終わった。河津の奴も望まれないとはいえ、結局はタイトルホルダーだ。次は俺だ、俺がタイトル奪ってやる。」
闘争心というのは人を元気づける。
立会人は藤井が務める。他に会長の木村、記録係の中尾、渋谷区長が見守る中、振り駒が行われる。
「谷本虎王の振り歩先です。」
「歩が3枚で、谷本虎王の先手番です。」
記録係中尾の振り駒の結果、谷本が先手となる。
立会人の藤井が時間を確認する。午前9時。
「それでは谷本虎王の先手番で始めてください。」
藤井の一声で対局が始まった。
控え室には新庄、味谷のいつメンに、河津も来ていた。
「河津がいるとは珍しい検討室だ。」
味谷が話すと
「いつもはここのポジション、村山八段ですからね。」
と新庄が話す。その言葉を横目に河津はゆっくり腰掛ける。
「わざわざ来ているんだ。良い対局見せてくれよ。」
河津は下を向きながら呟いた。
谷本虎王、2六歩。村山八段、3四歩。以下7八銀、4四歩と続く。
「谷本は居飛車宣言したな。」
味谷は立会人が振り飛車党藤井であることを思いながら発言した。
先手、7九角。
「引き角か。」
河津が呟く。引き角とは、引き角戦法のことであり、7九に飛車を持ってくることである。
後手3二銀、以下4八銀、8四歩、2五歩、3三角、5六歩、8五歩、5八金、8六歩、同歩、同飛、8八歩、5六飛、2四歩、同歩、同角と続く。
「引き角によって2四の地点に角がいる。角換わりではあるが、7七の歩が動いていないのがポイントだ。」
味谷が解説する。
「7七の違いがどう出てくるか」
河津は下を向きながら呟く。
同角、同飛、3三角、2八飛。村山は角を元の位置に配置する。
「筋違い角にはしないのですね。」
新庄が話す。河津がこの前実践した筋違い角を目の前で見ている村山だが、今回は採用しない。
2三歩、8三角。
「あ、飛車が8筋にいない。これは馬作られるな。」
味谷が口を抑える。
「作戦失敗ですか?」
新庄がすかさず訊ねる。
「いや、どうだろう。」
迷っていると
「まだ序盤だろ、村山は角2枚を選んだ。それだけのことだ。」
と河津が割って入ってきた。
(しかし、角を捨てるなら金は取られるわけだ。終盤では金銀のような駒が大事になる。それを渡して大丈夫なのか?金角交換は正解なのか?)
河津の心の中では味谷同様迷っていた。
7四歩
「なるほど、引かせないと。」
「では金角交換ですね。」
味谷、新庄は金角交換が正しかったか考えていく。
「虎王戦は2日制のタイトル戦。持ち時間はたっぷりある。」
味谷の言う通り、この虎王戦は持ち時間8時間の2日制。1日目には封じ手という作業があり、2日に通して行われる長時間のタイトル戦である。
6一角成、同玉。
ここで谷本が長考に入る。
「金をどこに打つかですね。」
控え室、検討室では金を打つ場所について考えている。
「例えば、空いている8七の地点におけば、飛車は8筋に戻れませんね。ただこれは空いている時に8筋に戻さなかった村山なので、意味はないですかね。」
「そうだな、8筋にさっさと戻していればさっきの金角交換は無かった。それを無視したということは金角交換を村山は望んでいたということだ。」
味谷がそう言った所で
「そういえばお前クラシックネタないのかよ」
と疑問を投げつけた。
「え?まぁ本当はやりたいんですけど、村山八段の対局ですし、多分河津王棋から罵倒くると思うので…」
と新庄が答えた。
河津はその間も1人で金の打ち場所を考えている。
昼食休憩となる。渋谷のホテルの一流料理人が作る。谷本は海鮮、村山はステーキを選んだ。
ここら辺で控え室に藤井と木村が入ってくる。
「とりあえずみんな金の打ち場所を考えている感じかな?」
藤井が訊く。
「そうですね。皆さんどの地点が良いか考えています。」
と新庄が答える。
「例えば6五金だとどうだろう?」
と木村が発言した。それをきっかけに味谷らは考える。
「飛車は取れねぇぞ。8筋に戻るか?」
味谷が飛車が取れないことを指摘する。
「戻すということは、村山にとって予定を外されるということですよ。8筋に戻りたくないのに戻される。それはやりたい将棋ではないということです。やりたければ金角交換などしていないでしょう?」
木村の言葉、さっきのタイミングで戻そうとしなかった時点で河津は5筋に飛車を置いておきたいと考えている。6五金とされた場合、放置すると5七金とされ、取れば金飛交換となる。逃げるにしても8筋以外逃げ道はないのだ。
昼食明けすぐに谷本は6五金と指した。今度は村山の長考である。
「こりゃ今日は進まないかもな。」
味谷が言った通り、午後6時まで進まず、封じ手となる。
村山が封じたのは意外にもすぐ、午後6時3分であった。
「翌日、期待ですな。」
味谷が呟き1日目が終了した。
お互いの対局者はそれぞれ渋谷区内のホテルに宿泊する。ただし電子機器などを使うことは許されず、テレビもなんもない部屋でお互いが長考をするのである。
検討組はそんなことないので、普通に家に帰る。河津は直帰したが、味谷は新庄とさいたまチャンという居酒屋で呑むことになった。なお木村と藤井はタイトル戦の関係者ということでホテルで宿泊。呑みにいくことはできない。
「新庄すまねぇな、付き合わせてしまって」
「いえいえ、それより小春夫人は大丈夫なんですか?」
「あぁ、新婚の頃なら兎も角、今は呑みに行っても問題ないさ。」
2人はどでかい盛り盛りポテトを目の前に、ビールを片手に検討の続きを行う。
途中味谷と新庄に気がついたファンの客がサインを求め、2人はすぐにサインをした。そして客に「村山の一手どうだと思う?」と聞いた。封じ手なので村山が指す手は決まっているが、我々はそれを知らない。
「確か6五金の後ですよね、多分取られたくないから仕方なく8筋に戻るのでは?」
客の予想は8筋に戻すであった。
河津は家に帰ると「ヘボ将棋、王より飛車を可愛がり」と呟いた。初心者は強い駒を取られたくないという思いからついつい飛車など強い駒を守り、結果として王を取られてしまうという例えである。小野寺はよく飛車切り、飛車特攻と言われる清々しい飛車切りをするが、これはプロの将棋ならある意味当たり前なのである。当然河津も飛車切りの経験はある。
「さて、2日目。どうでるかな?」
というわけで1日目終了です。2日制は初めてですね。
王棋戦と龍棋戦は1日制でした。名人格と虎王戦が2日制となります。
さいたまチャンの元ネタの居酒屋、渋谷にもあるのですが、あそこのカクテル美味しかったです。自分は居酒屋とかであまりお酒を呑まないのですが、あそこのカクテルは美味しかったのでついつい何杯も行きそうで怖かったです。お酒はほどほどにしましょう。間違ってもハイボール10杯とかやってトイレで吐かないように。




