【番外編】会長選&子供の狂気
番外編です。完全に第二章へ進むための番外編です。
会長選挙の立候補は、味谷、木村、萩原の3名であった。ガタガタな将棋界を立て直すため、それぞれの棋士が改善案を出していく。
会長選挙は、棋士がそれぞれ思い思いの会長候補を選んでいく。
河津は誰でもよかった。誰とも関わりはないので、適当に一番上にあった木村に丸をしておく。
村山は、味谷以外で考えていた。木村と萩原、将棋一辺倒は木村なので、木村を選ぶ。
結果として木村は次期会長となった。名人格にいる棋士の会長である。
谷本会長の任期は、虎王戦第一局の2週間前だった。その日までに木村会長に引き継ぎを行う。
「色々迷惑をかけてすまなかった。花子とは離婚した。木村…お前はまともな会長で頼む。」
「わかりました。将棋界は私が守ります。」
梶谷は学校で花田と話していた。陰キャがヒロインと話すなど本来無いことなのだが、花田は何故か梶谷を呼び出していた。
「ねぇ、私、将棋やってるでしょ?梶谷くんも将棋やってみない?」
既にやっている梶谷だが、学校では公言していない。
「まぁ、楽しそう…だけど、いいの?」
「勿論!私だって将棋指す仲間欲しいのよ?」
そう言うと花田は学校のクラブ活動で使う将棋盤を持ってきた。
「大丈夫よ、私が手取り足取り教えてあげるから」
「まぁ、最近、小野寺さんが凄い人気だから、駒の動かし方ぐらいはテレビで見たけど…」
そう言って対局が始まった。
梶谷はこの前村山から教わった矢倉を目指していく。この辺で気がつきそうなものだが、昨日小野寺も矢倉を指しており、指し方をテレビでやっていたこともあって花田は気が付かない。
花田は穴熊である。こればかり指すのでまぁ当然だが、新庄からもこれを極めろと言われていた。
対局は花田が勝利。梶谷が手を抜いたわけではない。穴熊攻略が苦手なだけだった。
「うふふ、ねぇ梶谷くん。矢倉知ってるって凄い才能だと思うの。でも穴熊攻略も覚えたら私を倒せるかもしれないよ?」
花田が提案する。
「私に、お金を貢いでくれたら、穴熊攻略、教えてあげる」
ようするに金を寄越せということである。
「え?お金…無いよそんなの」
「でも私は育成機関で戦う才能の塊なのよ?そんな私から聞けるのだから、お金ぐらい貢いで欲しいな。あ、そうだ。お母さんから貰ったお小遣いでいいわ。格安だよ?」
「えっと、その…」
梶谷は返す言葉が無くなってしまった。
翌日言われるがままにお小遣いを持ってきた梶谷は、花田から穴熊攻略の秘訣を教わった。
「穴熊にはね、角頭歩がいいのよ。これは師匠からも教わったことだから間違いないわ!」
「角頭歩?」
「そう、角の上の歩を出すのよ。そうすれば穴熊攻略できるの。どう?驚いた?」
「そ、そうなんだ…」
梶谷は半信半疑である。養成機関において角頭歩なんてまず指されない。穴熊攻略なんて出来るのか不安ではあったが、できないと言い切ることもまたできなかった。それにプロ棋士新庄伊織が言ったといえば新しい研究ではないかと考えることもできる。直近で河津が味谷相手に角頭歩を使い、それが原因で角頭歩をプロ棋士が研究していたとしたら…
最終的に梶谷は花田の言うことを信じてみた。
「これからあなただけに特別な技教えてあげるから、お金、よろしくね?」
この時、梶谷は花田に貢ぐことを決められた。
梶谷が部屋を出ると、花田は笑った。
休日、梶谷は森井家へ行く。今日は将棋の勉強である。村山も森井家に来ていた。
「師匠!学校の知り合いで将棋をやっている子が、穴熊には角頭歩が良いらしいと言ってました!本当ですか?」
森井は頭にはてなを浮かばせた。すると横から
「そんなわけねぇだろ梶谷」
と村山が割ってきた。
「いいか?角頭歩が穴熊攻略なんてできない。もしも出来ていたらまず萩原が角頭歩をやってる。アイツは穴熊攻略のプロだからな。」
もっともな意見が飛んできてしまった。
「そんな…その子にお小遣い払ってしまいました…」
その言葉を聞き村山がキレる。梶谷に対して、というよりもその子に対してである。
「おい、そいつの名前はなんだ?」
「えっと、花田希空です。」
「花田、新庄の所の奴か。俺が文句言ってきてやる。」
「え、そんな自分の為に兄さんが出て行くなんて…」
「俺はお前が立派なプロになって欲しいと思っている。だからこそこういう奴は叩き直さなければならない。梶谷、その時の状況教えてくれ。」
教えた後、村山は飛び出した。
「そんな、自分が悪いんだ、なのになぜ」
と自分を責めていた所、師匠がやってくる。
「アイツは、新庄に対しても苛立ちを覚えているんだ。今回の件だけじゃなく、色紙の件もあってね。」
「色紙?」
「あぁ、村山は自分のお兄さんのことがきっかけで色紙はまじめに書くものっていう信念があるんだ。それを新庄君は横文字でオシャレに書いてファンを喜ばせていた。それが気に食わないんだってね。」
「生きる」と書いた兄の為に色紙はふざけてはいけない。そう考えている村山だからこそ、今回の一件で飛び出す真似をしたのである。
育成機関に飛び込んだ村山は、新庄を見つけるとすぐに控え室へ呼ぶ。
「おい、お前弟子の管理どうしてんだ?」
「いや、普通に放任主義ですよ。わからない時に助けて行くのが師匠ってものですよ。」
「将棋においてはそれでも良いのかもしれない。ただ、弟子が金を貢がせている事実、これは違うんじゃないか?親が注意すると言うならそれはごもっともだ。しかし、師匠である新庄も弟子を真っ直ぐ育てる為にそういう躾をすべきではないのか?」
「え?金を貢がせている?全く知らないんですけど…」
「放任主義の悪い所が出たな。とりあえず伝えておく。お前の所の弟子、花田希空が、同じ学校で、森井一門の弟子から金をせしめている。しかも嘘の攻略を教える凶悪ぶりだ。お前からも対局終わり次第、説教しておいてくれ。」
花田が育成機関で対局を終え師匠のところへ行く。
「花田、学校の友達からお金を貰っているって本当かい?」
「え?そんなことないですよ?なんでですか?師匠。」
「え、いや。ちょっと話を聞いてね。将棋の戦法、それも嘘の戦法を友達に教えているって。」
「私の学校、私以外に将棋をやる人なんていないから、嘘ですよ。師匠、騙されないでください。」
花田は否認する。新庄もなかなかキツく出られないようで、戸惑っている。
「おい、お前か。大事な弟弟子から金取ってる女ってのは。」
奥から村山が来る。
「え?なんのことですか?」
とぼける花田に村山は問い詰める。
「梶谷湊って知ってるよな?お前の所の学校にいるやつだ。」
「え、はい。梶谷くんですよね。」
「そいつから金取ってんだろ?穴熊攻略には角頭歩が良いとか嘘を教えて。」
「え?え?」
「だからとぼけるな。梶谷はうちの一門でもかなり期待されてる奴だ。そんな奴の棋力を奪うような行為、そしてお金を取る行為はやめて貰いたい。梶谷から話を聞いている。お前が学校で梶谷と将棋指して、穴熊に負けたから勝つ方法とか言って新庄から教えてもらった戦法という嘘をついてやったことを」
ここまで言われたら仕方ない。花田は認め出した。
「そうよ、私がやったの、何?アイツも普通に将棋知ってるんだ。小野寺がどうのこうの言っててテレビ見ただけの初心者で矢倉とか生意気にやってるから叩いてあげたの。騙されるような弱い奴だから信じきってると思ったのに、あーあ。最悪。梶谷のバックにプロ棋士が、それも強いのがいるなんてビックリだわ。」
こっちがビックリである。ついでに新庄もビックリである。
「花田、え?」
としか言えなくなっているので、豹変ぶりに対応できていない。
「新庄と結婚して玉の輿狙ってたのに。」
子供がなんてこと言ってるんだ。恐ろしいものである。
この日、花田は破門された。京極先生もすぐその話は聞き、学校でも叱ることになった。
「ったく、最近のガキはわかんねぇな。」
村山はボソッと呟いた。
「虎王戦の準備、しておかないと」
というわけで、会長は木村一也に決まりました。これも初期案から決まっていたことですが…
花田が破門されてしまいました。最近の子供って怖いと言う話を聞きますが、どうなのでしょうか。穴熊ばかり指すというのは昔触れた話ですね。色紙の件や萩原の穴熊攻略の件、昔の話をもう一度触れる機会となりました。




