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6話

 翌日、パチリと目が覚めた。

 夢を思い出す。闇神が伝えたかった真意。それがなんとなく理解出来てしまった気がして、頭が重くなった。気のせいだと、俺の勘違いだと思うことにしよう。

 起き上がると、大賢者エイラが朝食の準備をしていた。そっか、この人の魔法で眠らされたんだっけ。俺は念の為、何かされてないか自分の体を触って確かめた。そんな姿を見たお散歩大変態に、

「なにもしてないよ。なーんにもね。キシシッ」

 って含んだ笑顔を向けられて、また頭が重くなった。何かされたよな、これ。

 アディはどうなんだろう? 様子を見ていると、いつもと変わらない。挨拶も普通にしてくれたし、朝食にモロウ茶を啜ってビスケットをかじったり、旅支度する仕草もいつも通りだった。少なくとも、俺にはそう見えた。やっぱり、アディを外観から察するのって難しい。


 

 廻冥の森を進む。思えば、これほどこの森の深くへ来るのは初めてだった。木々が太く高い。同じ森のはずなのに、俺が見知った森の姿ではなくなっていた。デカい自然に対する恐怖のようなものが過った。これが畏敬ってやつかもしれない。

 エイラは鼻歌混じりで木々の合間を歩いていた。大賢者ともなると、廻冥の主にみんな食べられるかもしれないって一大事でも余裕でいられるらしい。三百年も生きているんだ。これに並ぶ修羅場なんていくつも超えて来ているのだろう。経験則からの麻痺にも似た余裕かもしれない。でも、魔法使いなのに隊列の先頭を歩くのはいいのかな? 一応、俺戦士なんだけど。

「お師匠、教えて欲しい」

 突然アディが大賢者の背へ向けて言葉を投げた。

「なんじゃ? 我が弟子よ。なんつって」

「廻冥の主を呼んだ者の解析結果、お師匠ならとっくに出してるはず」

 そんな魔法、大賢者は一体いつ行使してたんだ。全く気付かなかった。

「すごいね、アディちゃん。呼んだ者って言ってるってことは、人為的だってことは掴んだんだよね」

 エイラは歩調を緩め、弟子へ振り返った。アディはそんな師へゆっくり頷いた。俺、完全に置いてけぼりにされてる。

「魔法で人の心へ潜り込めるように、森の心へ潜り込めるんじゃないかって。昨日の夜やってみた。でも、見えたのは人の姿だけ。細かい特徴とか分からない」

 そう言えば、やってみたいことがあるって、昨日アディ言ってたよな。

「うっそ! その方法で? 言語を持たない意識体の心読むって難しいんだよ。しかも、森みたいな集合意識体なら尚更だよ。私も何人も魔法使い育ててきたけど、アディちゃんみたいな子は初めてだよ。いやぁ、まいったまいった」

「えっと、ごめん。つまり、廻冥の主を呼び出したのは誰かの意図で、アディはやっぱり天才児だってこと?」

「うん、そゆこと」

「何者が画を描いてる?」

 どう言うことだろう? 俺にはアディが口にした言葉の意味が理解出来なかった。

「うん。どしてそう思ったの?」

「なんとなく。魔王もどき、アヴェリアとヴァルノスの陥落、廻冥の主。アディの精神障壁と呪いの記憶。何か、出来過ぎてる。誰かが糸引いてる」

 そうか。アディは、ここ最近起きている異変が何者かが仕組んだことじゃないかって、そして、それが自らに施された呪いと繋がっているんじゃないかとも考えているんだ。でも、それって一種の認知の歪みなんじゃないか。人は世界をドラマチックに捉えがちだ。ものごとに少しでも共通項や類似点があれば、あれとこれが繋がって、これとそれが繋がって、最終的に何か巨大な力に辿り着く、なんて考えてしまう。陰謀論にハマる人の思考パターンだ。

「んじゃ、二人に問題。仮に一連の出来事が繋がっているとしたら、どんな人物がなんの為にこんなことしてると思う?」

 来た。エイラ唐突の問題だ。どうするか。認知の歪みとか、陰謀論とか言うべきだろうか?前世の知識で、こっちの世界ではない概念だろうし。

「目的は分からない。でも、それが人だとしたら、巨大な力と知恵の持ち主。お師匠と同じ大賢者か、ルドウィクさんみたいな強い戦士」

「うん。リデルちゃんはどう思う?」

「えっと、多分個人じゃなくて、集団じゃないかな。国とかも裏で操っちゃうような超巨大秘密結社みたいな。目的はこの世界のシステムを一度リセットして、新たに作り変えるとか」

 なんて、前世の陰謀論の基礎知識を言ってみた。愛想笑いと照れ笑いの混合を最後に付け足した。そんな訳ないよねって。でも、エイラは突然脚を止め、そんな俺の顔をまじまじと見た。

「リデルちゃん……君、その知識……そっか、そうだよね」

「秘密結社って?」

 アディが首を傾げていた。彼女が知らないってことは、この世界で秘密結社は存在しないか本当に秘密なのか。どちらにせよ、少しまずいこと言っちゃったかもしれない。

「どしよっかな……まあ、とりあえず、リデルちゃん正解ってことで」

「えっ、正解しちゃった……」

「リデル、すごい」

 感嘆しているアディに向けて、俺は必死に首を横へ振った。違う。違うんだよ。なんて弁明すればいいんだ。

「二人ならいずれ必ずぶつかるだろうし、早めに知っておくのがいいかな。この世界には、自分達の理想実現の為にこそこそ裏に隠れて活動してる奴らがいてね。そんな奴らは、メンバーも目的も秘密だから秘密結社なんて呼ばれてるの」

「じゃあ、暗殺団や義賊団も秘密結社?」

「まあ、広義ではね。でも、それらじゃアディちゃんが疑っているようなことは巻き起こせないよ。もっと王族や貴族や大商人、なんなら、光を成す者みたいな強い個、魔族すら動かせなきゃ」

「……アディの考え、間違ってた。そんな集団いるわけない」

「それがね、アディちゃん。この世界には一つだけ存在するんだ。極星を旗印とし、大いなるものが座す最高天を意味するその名。『エンペリオン』彼らならアディちゃんの言うような画が描けるよ。エレスティア共和国とカリブリア商業連邦の建国の際だって、裏で暗躍したような奴らだからね」

「エンペリオン……」

 この世界にもそんな組織がいるのか。

「エレスティア、カリブリア。共通するのは、過去の王制が打ち倒されたこと。民衆と貴族が手を組んだこと」

「そうだね。エンペリオンの目的は私も詳しくは掴んでないけど、旧権力の打破ってことだけは確かだね」

「エイラさんは、魔王もどきの出現やヴァルノスの陥落なんかは、そのエンペリオンの仕業だと思うの?」

「そだね……アディちゃんの言う通りよく出来てはいるよ。ルドウィクがおかしな動きしてるって情報もいくつか聞いたしね。彼を思い通りに動かせる可能性があるのはエンペリオンだけだから。でも、一連を奴らの仕業だって断定するには、パズルのピースがいくつも足りないよ。まっ、断定させないから秘密結社なんだけど」

「大賢者のエイラさんにも無理なんだね……」

「断定は出来なくても、疑ってはいるよ。廻冥の主の出現だって奴らには可能かもしれない。でも、その場合……」

 エイラは言葉を飲み込んだようだった。一瞬、奥歯を噛み締めたのは何を思ったからだろう?

「お師匠、もう一度聞く。廻冥の主呼んだの誰?」

「やっぱ、知りたいよね。しょうがないかぁ。んと、この森にかけられた廻冥の主の呪いを発動させたのは、確かに人為的だったよ。人物像は、女性であることは確かだね。華奢な肢体に長い黒髪に陶器のような肌が見えたよ。あと、ここからは私の洞察だけど、卓越した魔法使いであることは確か。魔物だらけの廻冥の森を突き進み、私に気付かれず呪いを発動している。もしかしたら、強い戦士も一緒だったかもしれないね。それから、最も重要なこと。アディちゃん分かる?」

「……呪いを発動出来たということは、その魔法式を知っているということ。そして、法理も理解しているということ」

「そう、その通り。でも、古代の大賢者の魔法式をどうやって知り得たかって問題が出て来ちゃう。そんなの私でも、他の大賢者でも分からなかったのに」

「ってことは、やっぱりエンペリオンって奴らの仕業なのかな? それってものすごい情報網を持ってるってことでしょ?」

「そうなんだよねぇ。でも、そう断定しちゃうと他にも面倒臭いこと考えなきゃいけないから、そう思わないようにしてたんだけど……やっぱ考えなきゃだよね」

 おそらく、エイラは廻冥の主を呼んだのがエンペリオンの仕業だと断定している。でも、かつて国を滅ぼしかけた魔物と、かつて国の王族を滅ぼして新たな体制を打ち立てた巨大秘密結社。この両方の対策なんて、大賢者であっても考えたくないのは理解出来る。

「エンペリオンについては、可能性が高いって話だからさ、私が考えておく。リデルちゃんとアディちゃんは確実な脅威の廻冥の主のことだけ考えておいてよ」

 俺とアディは頷いた。でも、少なくとも俺はエイラの言う通りには出来ないかもしれない。昨日の夢の中で闇神に言われたこと。大きな困難。廻冥の主と戦うのは確かに困難だ。だけど、闇神がわざわざ言うってことは……やっぱり今は考えるのをやめておこう。

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