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1話

 戦場の母から最初の便りが届くまで、一月かかった。


『リデルへ。この手紙が届く頃には、あんたは六歳になってるね。おめでとう! リデルのことだから、少し落ち込んでもどうにかやってるだろ? レオナルドもエイラも側にいるし、大して心配しちゃいないよ。まあ、大賢者の方は少し心配か……息子に何かしたら、アタシが帰った時にボコるって、釘を刺しておいたんだけどね。ああ、アタシの方は心配いらないよ。徴兵って言っても、国境護るだけだし、魔族との戦闘も小競り合い程度のもんだしね。また手紙書くよ。でも、アタシ筆無精だから、たまにね。気を長くして待ってな』


 そんな内容の手紙だった。ここから伝わって来るのは、母ライカは母ライカだってことだ。少し安心した。

「むっ、ライカちゃん、私のことをどう思ってるわけ。ねえ、リデルちゃん。えへっ」

 大賢者エイラはその手紙を盗み見ると、俺の背中をサワってした。変わり者エルフの手から伝わる悪寒が俺の背筋を這い上った。

「お師匠、めっ」

 アディがすかさず指差して叱ってくれた。エイラは悪びれもせず「てへっ」なんて舌出しながら笑ってた。この師弟コンビ、上下関係があってないようなもんだ。

 母が戦場へ行ってから、俺は村長レオナルドの家でお世話になってる。中身思春期でも、外見はまだ六歳の幼児だ。体裁として保護者が必要なんだ。

 母ライカとの生活も賑やかだったけど、村長宅での生活も賑やかだった。まあ、全ての賑やかの原因は大賢者エイラなんだけど。一緒に暮らして更にこの人の天真爛漫さを痛感している。お陰で母への心配も幾分か和らいでいた。

 が、しかし、魔族達の侵攻は奇妙な形で辺境の村へ影響を与えていた。

 廻冥の森がざわめいていた。

 魔物の活発化らしい。村へは昼夜問わず魔物の鳴き声が聞こえていた。ただ、エイラの施した障壁のお陰で魔物の村への侵入は完全に防がれていた。

 大賢者云く、魔族が近くで活発化すると、魔物も活発化するのだそうだ。何故そうなるか、その体組成の共通項に鍵があるらしい。それは端的に言うと、「魔徨まこう」ってやつだ。

 この世界では、魔力は必ず何らかの情報、指令を帯びて行き交っている。光と闇はその指令を受け取り空の中の無へ固定化、風火水土のどれかの属性へと変化する。しかし、稀に光と闇は魔力を受け取らないことがある。その理由は諸説あるらしいけど、一番有力なのは万物には意識が宿っていて、その意識の揺らぎが魔力の授受を妨げているのではないか、なんて説だ。とにかく、光と闇に拒絶された魔力は、空の中を彷徨う。それを「魔徨まこう」って呼ぶ。

 魔徨同士はくっ付き合う性質を持っている。で、様々な情報を持つ魔力がくっ付き合えばそれは純度を失い濁る。濁った魔徨は、場が広大だったり、通常の生物が寄り付きたがらない場所へ引き寄せられる。具体的には、深い山や森や湖や海、洞窟や遺跡等のダンジョン、街でも不衛生な路地裏なんかだ。そんな場所では光と闇の循環が遅く、魔力の澱みが起きやすい。澱みと魔徨は性質が近いから引き寄せられるらしい。

 魔徨は集まると意識や感情のようなものを形成する。拒絶されたことの恨み悔やみ、存在するものへの嫉妬と羨望。理由ははっきりと解明されていないが、人のそれにとてもよく似ているのだそうだ。そんな想いのようなものは動植物達と岩や石像などにも宿り、何世代にも渡り引き継がれ、或いは気の遠くなるような時間を経て、遂には種を別つほどに変異させてしまった。それが俗に言う魔物、正式名称、魔徨変異生物まこうへんいせいぶつだ。

 魔族も理屈は一緒。ただ、魔徨がくっ付き変化を与えるものが違う。

 人類はこの世に強い遺恨を残すとあの世に逝かず、その魂は彷徨い続けるのだそうだ。そんな魂に性質の近い魔徨がくっ付かないはずがない。魔徨がくっ付いた魂は、「はく」と呼び名を変え更に魔徨を引き寄せ巨大化、可視化、高密度化し物質として事物へ影響を与える存在となる。その姿が人型であり、知能を持って言語を喋るのも、その中核が人類の魂だからだ。ヒト科魔徨組成型ヒト族。古代の生物学者はそう生物として人類として分類したらしい。でも、今じゃ人類どころか生物として認められてないから、短縮形の魔族と言う呼称だけが残った。

 魔族は高密度の魔徨とも言っていい。で、魔物はその組成上から魔徨を好む性質も持つ。魔族が魔物に近付けば活発化するのはこれが理由だ。

 この知識をエイラとアディから講義してもらった。村長からしばらくは森へ近付くの禁止って言われてるから、座学が多くなった。俺は小難しいことを覚えるのは割と好きだから、長い講義も苦じゃない。でも、森へ出かけて魔物を相手にしないと、実戦の勘も鈍ってしまう。

 そんな俺の憂慮も奇妙な形で終わることになった。

 今度は廻冥の森が静まり返ったんだ。

 ある日突然、魔物の鳴き声も小鳥の囀りすらも、深い森は発しなくなった。

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