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二日休む

ここから三話分が愛堂光のファン、廿浦白亜のエピソード。

まだ話は固まってないけどキリが良いし最近投稿できてないので久しぶりに投稿したかった

 愛堂光のファン。


「え~なんで愛堂光のファンなの?」


 ワンストライク。


「泉可憐の方が歌も上手いし可愛いよ」


 ツーストライク。


「バラエティでの活躍など、活動は多岐にわたるでしょう。そういう器用なところが好きなんです」

「それアイドルじゃないじゃん。ゲーノー人って感じ」

「文句があるのならもう話しかけないでくれますか? 私が誰が好きでも貴方には関係ないですよね」

 

 泉可憐以外のアイドルのファンであることは、こういうことをよく言われる。根気強く話そうと思うにも、強火のファンである廿浦(じゅら)白亜(はくあ)は三度と我慢できない。

 熱心なファンである彼女は同じ年でありながら握手会に行くこともあるしライブにも行った。テレビ番組の出演には観客として参加しようとしたし、聖地巡礼と称してロケ地に後追いで行ったこともある。CDだって買うのは一枚では済まない。ダウンロード版とCDを買いながら動画サイトで再生数の貢献だってする。

 

「廿浦さんって凄い丁寧で愛が深いからさ、どうしてそんなに愛堂光が好きなのか気になっちゃって」

「……愛に浅いも深いもあるもんですか。貴女と喋るのは正直不快です」

「深いと不快でダジャレ言ってる?」

「二度と話しかけないで」


 しかし、白亜は清子を振り切れず、なんだかんだと奇妙な付き合いが始まるのであった。


―――――――――――――――――――


「えっ」


 全身が硬直すると同時に、目が倍ほど大きく見開かれる。


『「普通の女子高生になります」、愛堂光芸能界引退。サンアップ所属の愛堂光さんが本日正式に芸能界引退を表明しました。現在レギュラーで出演している――』


「何してるの。早くしないと学校に……あら、この愛堂って……」


 娘が好きなアイドルということくらいは知っている。学業をおろそかにしない条件付きで、お小遣いも出しながらバイトもしているし、たびたび旅行に行ったり学校を休むことさえ認めている。

 それが全部この人が理由、ということもなんとなく知っていてテレビに出ていると娘を茶化したりしたものだ。

 頬を一筋の涙が流れた。粒が次から次へと溢れて呼吸が乱れだす。


「は、白亜……」

「う、あ、あ…………あぁぁぁぁぁぁぁああーっ!!」


 雄叫びをあげて天を仰ぎ。

 そして涙を拭くで拭った後。


「二日休む」

「ちょっと……あ、明日土曜日だけど……」

「二日休む」

「わ、わかった……」


 白亜は自分の部屋に戻った。

 そして、二日間、食事もとらず風呂も入らず、ただ布団に入って声を挙げた。

 心配した父親が部屋に入った時、にらみつける目が、泣いたせいで枯れた声が、昔話の山姥のようだった。心配して部屋から出そうとしたのに『二日休むって言ったのなら、まだいいだろう』と日よってすぐに出た。


 そして日曜日。

 涙の筋が残った、涙で目が真っ赤になった白亜が枯れた声でリビングに出る。


「もう大丈夫」

「……だ、大丈夫?」


 水を飲んで、白亜はまた部屋に戻った。

 その後、白亜は初めて自分の白髪を見つけた。

―――――――――――――――――――――――――――


「ねえ廿浦さん。愛堂光が……」

「大枝さん。何も言わないで。ニュースについてのことは、言われたら、私は、もう、学校に来れなくなる」

「……わ、わかった」


 元々廿浦白亜は物静かで、成績が良くて、けれどアイドルが好きなのを隠そうともしないどこか頼れる人だった。独特の空気感ながら明らかに気持ちが強い女子ゆえに誰も深く親しくもせず、かといって邪見にもしなかった。

 それが、引退の報道が出てから、普段以上に教室に馴染んだのに、どうしてかすぐにでも折れてしまいそうな弱々しさが感じられるようになった。

 そして誰もが、彼女を支えることができないと知っていた。

 愛堂光、でなければできないことだった。


――――――――――――――――――――――――――――


「――え?」

「あ、あれ。愛堂……え、え」


 すれ違った。すれ違うはずのない存在に。

 それを凝視する白亜と、白亜とそれを交互に見て困惑する清子に、愛堂光は笑顔を振りまいた。


「おっ、私のファン? これからよろしくねっ」


 愛堂光の転入。

 軽く言って隣の教室に入る姿を見終わった後に。


「え、え、え、え」

「大丈夫!? 白亜さん……」


 心臓を抑えて苦し気にしながら、普段絶対しないのに清子の肩に腕を回して支えてもらいながら、ぐずぐず、ずずずと鼻を鳴らす。


「あ、休む。今日は帰る」

「わかった。わかった、付きそうね」


 一日だけ、白亜は休んだ。

 そして次の日から、ただ影のように、黒子のように、ただの生徒に徹した。

 クラスでの行動も変わらない。交友関係も変わらない。

 会話の内容は最初少し変わったが、もう誰も愛堂光がどうこうと軽口を叩くことはなくなった。

 廿浦白亜が、既に誰かの支えを必要とするような弱い顔をしなくなっていたからである。

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