闇夜に迸る雷光
ヤタガラスの最高幹部・神威花梨との再会と叱責から数日後、ヤタガラスの高位幹部にして胴体と中の足を賜り、黒鬼のコードネームを与えられた浅野光牙は、4割方完成したとされる羅刹・峡に搭乗して、ある任務を遂行する事になった。
花梨曰く「腕慣らしと愛機の試運転には良い相手がいる」との事で任務内容は単純。「あるZW傭兵達を襲撃して目標が搭乗するZWを全機撃墜すること」である。
標的のZW傭兵達は新惑星でも最強と名高い「栄光の旗手」であり、栄光の旗手は目障りなヤタガラスを軽く捻り潰すつもりで進撃中のところだという。
光牙は栄光の旗手の噂を耳にしても、さして気にも留めていなかったが、身も機体も回収され、治療や大改造にかかった費用を盾に花梨に与えられた任務に対してそこそこやる気にはなっていた。
栄光の旗手の戦力はカスタムチューンが施された量産型ラーヴェスⅡが3機、飛行艦艇が1隻、小型の多用途可変機が20機ほどらしい。
フルステルス機能も使わずに進撃している時点で相手の自信のほどがわかるが、これは囮にして主力。
俺の思念波動探知には数以上の思念波を発する個体があり、微弱な思念波動を辿ると、限界まで存在感を隠していた狙撃型と思われる量産型ラーヴェスⅡを捉えた。
そして、もう一機…思念波動能力者への対応に高レベルの思念波動能力者が搭乗する近接戦闘型の量産型ラーヴェスⅡが潜んでいる。
遊撃の二機を加えると展開しているZWは計7機。戦力だけなら劣勢。相手はなかなかの手練れが揃っているが、量産型ガイツレイや擬似量産型ラーヴェスの虚像兵ほどの脅威は感じない。
むしろ、噂になるほどの最強とはどれほどのものかと楽しみに思ってしまう辺り、俺も廬山達と同類か。
光牙の武者震いが羅刹峡にも伝播し、羅刹峡の全身が細かく震えだす。
「小細工無しだ、正面から挑む」
光牙は敵ZWの反応が出るや否や、羅刹峡の両脚にある超電磁蹴加速装置を作動させて瞬時のうちに天高く跳躍し、背部増設ブースターを作動させて最大戦速で敵ZWに向かう。
強力な思念波障壁を展開し、一定間隔で思念波障壁を追加展開して超電磁蹴加速装置を利用できる足場がわりにしていたので、羅刹峡は闇夜に迸る雷の如く、光と共に敵ZWに肉迫する。
栄光の旗手の量産型ラーヴェスⅡは咄嗟に反応して光波シールドを緊急展開したが、羅刹峡のNEXOブレイドⅡ改による初撃は量産型ラーヴェスⅡの光波シールドごと左腕部を両断し、左腕部を失った量産型ラーヴェスⅡは即座に態勢を整えて武器を構え、襲撃に反応した他の量産型ラーヴェスⅡ3機と共に反撃に移るが、羅刹峡は電の様な不規則多角跳躍で量産型ラーヴェスⅡの攻撃を悉く回避。
羅刹峡のNEXOブレイドⅡ改の一閃がもう一機の量産型ラーヴェスⅡの右半身をDHBライフルごと両断し、蹴り飛ばすと同時に再び超電磁蹴加速装置を作動させて跳躍する。
蹴り落とされた量産型ラーヴェスⅡは羅刹峡の超電磁蹴加速装置による強烈な雷爆波を受けて爆散する。
「この鬼面野郎が!…ぐっ!?」
栄光の旗手のリーダーは量産型ラーヴェスⅡのXOブレイドで羅刹峡のNEXOブレイドⅡ改を受け止めて更に斬り結ぶも、羅刹峡の左手甲部から伸びてきた追撃の四連装ワイヤード・レーザー・クローへの対処が遅れて右腕部が溶断された直後に羅刹峡のNEXOブレイドⅡ改がXOブレイドを分解しながら綺麗に両断。
「させるかぁ!」
「…甘いな」
量産型ラーヴェスⅡは左手のレーザー・ブレードで羅刹峡の斬撃を受け止めると同時に腰部VSLKを放とうとするが、羅刹峡の両腰部隠し腕がレーザー・ブレードを展開して量産型ラーヴェスⅡの腰部VSLKごと腰部を切り裂く。
「散れ」
NEXOブレイドⅡ改の刃がレーザー・ブレードをものともせずに量産型ラーヴェスⅡを唐竹割りにするかの如く真っ二つに叩き斬った。
「■□□■□!!」
「む…!?」
栄光の旗手のリーダーはNEXOブレイドの刃に施されているTL-Dコーティングに触れた為に分解され、言葉にならない断末魔を出した後に消滅し、真っ二つに両断された量産型ラーヴェスⅡは誘爆を繰り返した後に爆砕する。
「よくも団長を!」
「当たれ!当たれ!」
直後に羅刹峡に迫る多数の実体弾が迫っていた為、光牙は咄嗟に回避運動をとって弾丸の雨を回避し、他の量産型ラーヴェスⅡが放ったレーザーや実体弾を回避または思念波障壁やファランクス・ウォールで防ぎながら隙を見て加速する。
「…腕が鈍ったな、この程度を回避しきれんとは」
「ぐああ!?」
光牙はぼやきながら次の標的を定め、次の瞬間には動き回る量産型ラーヴェスⅡを下方から逆袈裟斬りにして両断。
「団長の仇!」
「黙れ」
接近戦を挑んできた思念波動能力者搭乗の量産型ラーヴェスⅡに対し、光牙は相手の思念波動を圧倒しつつ、羅刹峡の右肩部にあるTL-D干渉振動波を作動させて打撃を受け止め、機体とパイロットの両方を行動不能にする。
「うおおお……!?」
思念波動の圧迫を受けた敵パイロットは操縦を封じられ、動きを止めた量産型ラーヴェスⅡの胴体部に羅刹峡の右肩部から発生したTL-D粒子の三連装レーザー・スパイクが伸びて貫き、レーザー・スパイクで貫かれた量産型ラーヴェスⅡが溶解。TL-Dレーザーが量産型ラーヴェスⅡのコクピットブロックにまで到達したのでパイロットは一瞬で蒸発した。
直後には長射程DHBSライフルのレーザーが連射されるが、光牙は羅刹峡を操縦して僅かな動きだけで回避し、狙撃位置を割り出した光牙は次の狙いを定めた。
「次はお前だ」
「なんでだ!?なんで当たらないんだ!?くそぉ!」
光牙はしつこく狙撃してくる量産型ラーヴェスⅡに羅刹峡の背部に搭載されている長射程VSLKを二発放ち、両側方に腰部のトライ・ストライク・リッパーを投げた後に電の様に跳躍して死角から狙撃位置にいる量産型ラーヴェスⅡに肉迫する。
「ひっ!?」
羅刹峡のVSLKの弾が量産型ラーヴェスⅡの長射程DHBSライフルを貫き破砕し、直後には羅刹峡が量産型ラーヴェスⅡのすぐ後ろにまで迫る。
「遅い」
「ちくしょお!ぎぁあ!?」
量産型ラーヴェスⅡは羅刹峡のNEXOブレイドⅡ改の一閃を警戒してサブ・レーザー・ガンと側頭部22㎜レーザー砲を連射しながら退避するも瞬時に追い付かれ、防御しようとするが次の瞬間には羅刹峡の左手甲部のワイヤード・レーザー・クローが量産型ラーヴェスⅡの胴体に四本線の切り裂き傷がつく。
「がぁ!?…ぎゃぁ…」
遅れて戻ってきたトライ・ストライク・リッパーが獲物を発見した猛獣の如く喰らい付き、高速回転する鋸のような特殊装甲の刃が量産型ラーヴェスⅡに何度もしつこくぶつかって両腕部と脚部関節部を削り裂き、切り裂いてから変形し羅刹峡の腰部にフィットする。
「逃げるな」
「ひっ!?うわぁぁぁ…!?電源が!勘弁してくれぇぇ!」
切り裂かれて行動不能になった量産型ラーヴェスⅡの背部からコクピットを兼ねた脱出ブロックが射出されたが、羅刹峡の右手部マニピュレーターが瞬時に量産型ラーヴェスⅡの脱出ブロックを掴み取り、TL-D粒子による干渉波で電源を落としてから初撃の手負で片腕の欠けた量産型ラーヴェスⅡに向かって量産型ラーヴェスⅡのコクピットブロックを放り投げる。
「隙を見せると…こうなるぞ」
量産型ラーヴェスⅡの注意が逸れ、艦艇の援護射撃が緩んだ一瞬のうちに光牙は羅刹峡を操縦して最大加速をかけ、雷光が迸った直後には敵母艦のブリッジにとりついていた。
「…相手が悪かったな」
動揺して慌てふためく栄光の旗手の母艦のクルー達を冷たい眼差しで眺めた後に光牙が呟くと、直後には羅刹峡のNEXOブレイドⅡ改が艦艇のブリッジを両断し、続いて甲板にNEXOブレイドⅡ改の刃を突き刺し、羅刹峡の超電磁蹴加速装置を作動させて雷の様に加速し、電の様に多角跳躍を繰り返すと、艦艇は細切れになって制御を失い、分解しながら墜落し…やがて爆散した。
「目障りなエース三人と忌々しい母艦を始末しましたか、流石は元極阿の雷光、このくらいは当然の様ですね」
「ふん、準備運動にはなった、羅刹峡も完成が楽しみだ」
「十分な戦果です、帰還してください」
花梨との淡々としたやり取りの後に光牙は手負の量産型ラーヴェスⅡなど目にもくれずに闇夜の彼方へと瞬時に去っていった。味方機のコクピットブロックを回収した量産型ラーヴェスⅡは羅刹峡を追撃しようとしていたが、地表に墜落して爆散した母艦の周辺の惨状を見て思いとどまり、救助の為に降下していった。