羅刹・峡に改名
光牙が廬山達と合流してからおよそ一ヶ月が過ぎた頃…。
新惑星のとある訓練場で鬼面をつけた黒いZWが正拳突き、掌底突き、跳び膝蹴りをした後に後方転回や側面転回、反復横跳びや逆立ち、果てはコサックダンスをしたりしている。
20m近い人型機動兵器が人間以上に俊敏な動きをしているので、轟音とともに掘削される地面と盛り上がっていく土、強烈な土煙による大気汚染で近所迷惑も甚だしく、周辺の景観も損ねまくりである。
見かねた一二三の部下達が散水して土煙や土砂災害を緩和していたが、近所からのクレームは容赦なくつけられる。
しかし、光牙は機体の調子が良いのに気をよくしたのか、機体の態勢を短距離走の構えに持っていき、近所の荒くれが投げつけた火炎瓶をかわして割れたのを合図に走り出した。
僅か3秒で500mを走破し、帰りは超電磁蹴加速装置を作動させて僅か1.2秒で500m地点からスタート地点に戻ってきた。
それを見た荒くれ達は唖然としていたり、何が起きたのかわからないといった反応ばかりであったが、半分くらいは機体の強奪と売却を企んでいる様な反応を示していた。
「鬼の調子はどうだ?」
「悪くない、調子が良くて少々悪ふざけが過ぎたがな」
光牙は新しく改装されたクラネオンⅣを器用に操縦しながら応え、廬山は鼻で笑い、同時に二人は文句と殺気を隠さない荒くれ達に向かって威圧感を出した。
流石に廬山は「灰の怨鬼」というあだ名が知られており、荒くれ達は手を出そうにも躊躇して二の足を踏んでばかりである。
廬山と光牙を見て一二三はため息をつき、近所の荒くれのボスに会いに行き、説得して暴動を起こさない様に袖の下を渡した。
「疾風迅雷、まさしく鬼よ」
「…鬼は鬼でもコイツは多くの血肉を喰らった悪鬼の羅刹だ、ついでに山間の狭間の地で生まれ変わったから峡と名付けた」
「ふん、羅刹の峡か、ならばそれは今日から羅刹峡と登録しておけ」
光牙はとってつけた様に名付けたが、廬山は羅刹峡の名づけが受けた様子で、真っ先に光牙のクラネオンⅣを羅刹峡と登録していた。
光牙は廬山に突っ込む気も起きず、別の名前にするのも面倒なのでクラネオンⅣを羅刹・峡と改名・登録しておいた。
一二三はクラネオンⅣの改名が羅刹峡と知って飲んでいたコーヒーを吹き出し、荒くれ達のボスを汚してしまった為、近所の荒くれ達と拳と拳で話し合いをする事になったとか…。
ちなみに一二三は怪我こそ負ったものの、見事に荒くれ達を打ちまかし、話をつける事に成功したという。
光牙と廬山と一二三、そして苦労人の部下達は新惑星の開拓住人達にとって治安を守る顔役であったが、同時に複数の艦隊を持ち多くのZWを運用しているので、軍に匹敵する軍事力を持っている。
それ故に警察すらも手が出せない存在で、役人及び警察や開拓住人達にとっても迷惑な奴らでもあったという…。