戦闘少女とティーブレイク【ワンガル雑談】#2[後編]
「はい。では次の質問にいきましょう」
「はい。ポニーちゃんに質問です」
《 はい! 》
リトに替わり、ポニーが画面外に移動する。今回も意気揚々といった様子だが、前回のように立ったままでいるようなことはなかった。
「武器がなくて自分の靴を投げたこともあるそうですが、どんな物でも武器にできるんですか?」
《 はい! 投げられる物ならなんでも武器になります! 》
《 その辺に落ちてる石ですら武器になるんだもの。投擲は万能だわ 》
感心して言うエーミィに、へへ、とポニーは照れ臭そうに笑う。次いで聞こえてきたのはモニカの声だ。
《 単純な腕力で言えば、エーミィちゃんと良い勝負と言えます。近接武器を扱える特性も備わっていたら、エーミィちゃんと並ぶ切り込み隊長だったでしょう 》
「特性の備わっていない武器は扱えないんですか?」
『扱えないということはありませんが、特性に合わない武器を使用すると、能力値の低下に繋がります。戦闘少女の能力を最大限まで引き出すためには、特性に合う正しい武器を使用することが重要です』
「なるほど。能力値が高いからと言って、どんな武器でも戦えるとは限らないということですね」
***
[ポニーちゃんが近接武器を使えたら戦闘少女の中で最強になるのでは?]
[簡単な魔法も使えるし、万能型になってたのかな]
[でも速力の素養で言えばエーミィちゃんとモニカちゃんには敵わないんじゃ?]
[速力まで備わったら本当に最強だな]
[でも遠距離は遠距離で利点があるからな]
[石どころか靴ですら武器にできる時点でだいぶ優秀だよな]
***
「ポニーちゃんの特性を最大限に引き出せる遠距離武器も検証の余地がありますね」
《 さすがに石や靴では攻撃力は低くなりますが、近接武器でも短剣やナイフなら投擲に利用することができます! 装備欄に空きがあるときに持たせていただければ、弓の耐久度が落ちたときでも対応できますよ! 》
「なるほど。装備欄の拡張も能力値を引き上げる可能性に繋がりそうですね」
『短剣やナイフなどはポーチに入れることで増やすこともできます。ポーチの改良にも取り組んでみるといいかもしれません』
「少女たちの可能性に期待、ですね。では、次の質問です」
「はい。モニカちゃんに質問です」
《 はい 》
モニカは淑やかに画面内に入る。星の感覚では、視聴者にはモニカのファンが多いように思えた。仲間のために気高く戦うモニカの姿に胸を打たれる視聴者が多いようだ。
「圧倒的な速力を誇るモニカちゃんですが、脚はもともと速かったんですか?」
《 いえ、戦闘少女として就任した当初は、アリシアちゃんのほうが速力の素養が高かったです。私はひたすら鍛錬し、いまの速力を身に付けました 》
《 いつの間にか追い越されていたので、私もびっくりしました 》
「意外ですね。現在のステータスを見ると、素養としてはモニカちゃんのほうが速力は上です」
『本人の言う通り、速力の素養が向上したのは後天的な努力の賜物です。素養としては、斥候役のアリシアちゃんより上がりやすかったという点はありますね』
***
[へー! 最初から速かったわけじゃないんだ!]
[それだけ努力したんだなあ]
[アリシアちゃんより素養が低かったのに、いまは「速力のモニカ」と呼ばれてるんだもんなあ]
[さすモニ]
***
《 いまはエーミィちゃんと一緒に速力向上の訓練をしています。もしかしたら、エーミィちゃんに追い越される日も来るかもしれませんね 》
《 その分、あんたも伸びてるんだから、差が縮まることはないわ 》
《 ふふ。どうでしょう 》
「少女たちがともに切磋琢磨する姿は美しいですね」
『この涙ぐましい鍛錬が、民に安心感を与えているのですよ。以前、ケレスタニアに“街角の女王”が出現した際、戦闘少女が駆け付けたことで安堵した民も多かったはずです』
「司令官として、少女たちの努力を見守りたいですね。では、次の質問です」
「はい。レディさんにも質問が来ています」
『あらっ、なんでしょう』
「月輔の部屋の住み心地はどうですか?」
『とっても快適で~す』
***
[快適ならよかった]
[レディさんは寝食を必要としないんだっけ]
[女神だもんなあ]
[俺、自分の部屋にこんな美女がいたら発狂する]
[月輔はなんで平然としてんだ]
[まあ月輔が平然としてるからレディさんも快適でいられるんだろうな]
[女神に下心なんて懐けないよな]
***
「月輔くんにも質問が来てるよ」
「え、俺ですか」
「司令官の最推しはどの子ですか?」
「箱推しでーす」
***
[当然だな]
[これで誰かひとり指名したら他の子がやるせないもんな]
[戦闘少女箱推しじゃない月輔は解釈違い]
[司令官が不平等するわけにいかないしな]
[だから少女たちも安心して戦えるんだろうな]
***
『ちなみに、他の司令官も顔出ししてほしいとのご要望もありましたよ』
「他の司令官を出すと画面が騒がしくなるので、出す予定はありません」
***
[画面が騒がしくww]
[確かに四人が同時に映ってたら少女たちがよく見えなくなりそう]
[他の司令官はチラッと映るだけだからこそエモい]
[もうひとりは声出しもないのかな]
[いつもマイク切ってるもんな]
***
「さて。それではコメントから質問を拾っていきましょう」
「はい。えー……では、ポニーちゃんに質問です」
《 はい! 》
「いままで武器以外の物で攻撃したとき、一番に威力が高かった物はなんですか?」
《 墓石ですね! 》
《 罰当たりだね~ 》
《 でも一撃だったわね 》
《 モニカにしこたま怒られましたけどね~ 》
***
[相当の危機だったんだろうなあ]
[墓石ってけっこう重量あるぞ]
[さすがの腕力だな]
[誰の墓だったんだろ]
***
「本当にどんな物でも武器になるんですね」
『重くなるほど威力が高くなりますが、特性に合った武器ほどではありません。武器以外の物を使用するのは、いざというとき、ということを頭に入れておきましょう』
「そう考えると、やはりポーチの拡大を検討したほうがいいようですね。では、次の質問です」
「はい。アリシアちゃんに質問です」
《 はい! 》
「基地では誰が食事を用意するのですか?」
《 基地には“聖霊”という、私たちの補助をする妖精のような魔法生物が存在しています。聖霊は主に工廠で武具や魔道具を製作するのが任務ですが、私たちの食事の用意もしてくれます。私たちも料理はできますが、聖霊の作ってくれるバランスの良い食事を取っています 》
《 洋食、和食、中国料理……なんでもござれですよ! 》
《 ボクたちは健康第一だからね~ 》
《 好き嫌いも把握した上でそれぞれに用意してくれるんだから、あたしたちより優秀かもしれないわね 》
***
[へ~、そういうのがいるんだ]
[自分たちで作るんじゃないんだね]
[聖霊は画面に映してもらえんのかな]
[見てみたい~]
***
「実はいま、アリシアちゃんの左肩に聖霊が乗っています」
アリシアが悪戯っぽく笑って左肩を指差す。星の目には、ドヤ顔をする聖霊の姿が見えていた。
***
[マジ⁉]
[何もいないんだけど]
[え、怖い話?]
***
『聖霊は臆病な生き物です。安心できる人にしか姿を見せないのですよ』
「この司令部で聖霊が見えているのは僕だけのようです」
***
[ほ~、臆病な生き物が月輔なら安心できると思ってんだ]
[まあ気持ちはわからんでもない]
[この司令部で月輔だけってことは、レディさんにも見えてないってこと?]
[女神と聖霊って同じような存在じゃないんだ]
[聖霊が安心できる人間だから部屋がワンガルと繋がったとかあるんかな]
[俺も月輔の実況、安心して見てるところあるな]
[少女たちのことを第一に考えた作戦は安心して見てられるよな]
***
「何やらお褒めいただいてありがとうございます。聖霊は製作だけでなく修繕や改修も担っているので、基地において重要な存在です。臆病なくらいがちょうどいいのかもしれませんね」
『聖霊は私と同じく寝食を必要としませんが、お菓子をあげると喜びますよ』
《 放っておくと基地中のお菓子を食べ尽くしてしまうんですけどね~ 》
《 量を決めてあげる必要がありますね 》
モニカの言葉に、聖霊は唇を尖らせる。視聴者にも見えていれば人気が出ることだろう。
「はい。では次で最後の質問にしましょう」
「はい。えー……では、モニカちゃんに質問です」
《 はい 》
「僕は将来、野球のプロ選手になりたいです。強くなるにはどうしたらいいですか?」
《 まずはバランスの良い食事をしっかり取ることが基本です。それから、夜更かしをせず、早寝早起きをして規則正しい睡眠を取ること。健康的な生活を心掛け、毎日、弛まぬ鍛錬を積めば、きっと強い選手になることができますよ 》
「モニカちゃんらしい、模範的な回答です」
『強さを得るには理想的な生活が必須です。その重要性は戦闘少女たちが良い証明になっていますね』
「強さはまず健康から。これは何についても言えそうなことですね。ということで、今回はこの辺で。アリシア、最後のご挨拶を」
《 はい! またみなさんとお話ができて嬉しかったです。私たちも楽しい時間を過ごせました。またお会いできることを楽しみにしています。ありがとうございました! 》
アリシアが一礼すると、レディは液晶を消す。基地との通信も一旦、切ることをアリシアたちには伝えてある。
「はい。ということで、雑談回、いかがだったでしょうか」
『とっても楽しかったですね~』
***
[楽しかったー!]
[やっぱ少女たちと話せるの嬉しいな]
[より応援してあげようって気になる]
[またやってほしい]
[てか読み役がイケボすぎた]
[いつか他の司令官とも話してみたい]
***
「はい。それでは、今回はこの辺で。次回の攻略についてはSNSでお知らせいたします。また次回、お会いしましょう。さようなら」
『さようなら~』
***
[おつ!]
[次の攻略も楽しみだ~]
[少女たちがどれだけ強くなるか楽しみだな]
[また雑談回やってほしい]
[次は質問を読まれたいな~]
***
配信を切り、星はひとつ息をついた。ホーム画面を見ると、少女たちはそれぞれの場所に散って行ったようだ。
コメントを見返していたレディが、ふふ、と小さく笑う。
「青山さんの読み役は好評でしたね」
「良いアイデアだったろ?」
「次は惣田がやってみたら?」
「惣田にやらせるとめちゃくちゃになりますよ」
目を細める星に、惣田は顔をしかめる。それでも言い返して来ないのは、その自覚があるのかもしれない。
惣田の不満を流し、それにしても、と青山がつくづくと言う。
「随分と視聴者数が増えたね」
「その分、横槍を入れるようなコメントも増えたな」
「まあ、その辺りはしょうがないんじゃないかな。あまり酷ければ配信をやめるだけだし」
古参の視聴者はそれを理解しているだろうが、新規の視聴者はその限りではない。面白半分で茶化すようなコメントは増加傾向にあり、コメントによる情報提供が拾いづらくなったのは確かだ。だが、星は事態が悪化するなら配信をやめることに躊躇はしない。少女たちの攻略を妨げることを許すわけにはいかないのだ。
「まあとにかく、少女たちのファンが増えるのは良いことだな」
「応援していただくのは嬉しいことですね」
それから、配信の前にレディが用意していた料理を夕食とし、惣田と青山はなんとも言えない表情で帰って行く。感想を言わないのは星と同じだ。レディの料理の熟練度が上がるまでには、まだ時間がかかりそうだった。




