月と踊る攻略【ワンガル】#12[中編]
ドット絵のアリシアがふたつ目のコマに到達する。そのあいだにも、月は満月に向けて満ちていった。
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「はい。索敵開始となりました。新月のときに出現する魔物と、月が出ていても出現する魔物は違うようですね?」
『はい。新月の際に出現する魔物は主に亡霊系で、通常時に出現する魔物よりランクが少しだけ上の個体になります。数の多さもありますし、積極的に回避したいところです』
《 索敵完了! 前方に三体! 戦闘開始します! 》
「さあ、始まりました、第二戦。切り込み隊長、エーミィが先陣を切ります。続いたモニカ・ソードマン! ギミックバットは一撃では倒せないという常識は彼女たちには適応されないようです。仕上げはリトの雷槍! ポケットラットにはオーバーキルだ!」
『お見事! 非の打ち所がない完全勝利ですね!』
《 戦闘終了、ですね。お疲れ様でした 》
***
[いいぞー! もっとやれー!]
[次の新月はあと何秒だ!?]
[まだ満月になってないから余裕ありそう]
***
「アリシア、みんなの消耗と武器の耐久度はどうだ?」
《 特に問題ありません 》
「よし。じゃあ、次に進んでくれ」
《 はい! 司令官! 》
***
[これだけ余裕の戦闘なのに消耗と武器の耐久度を確認する辺り、月輔もちゃんと司令官やってるな]
[確認は大事だからな]
[今回はスキルも多用してるしなー]
***
アリシアのドット絵が次のマスへ向かう。満ちた月はすでに欠け始めていた。
――【 直感:計測開始 】
「さあ、流れるようにポニーの計測が始まります。進みながらスキルを発動できるのは、さすが熟練度の高さが伺えますね」
『はい。厳しい訓練を乗り越えてきた彼女たちだからできることです』
ここまでの攻略は順調だ。今回、新月という条件で確実に魔物が出現するため、探査機での調査には入れなかった。魔物に破壊されてしまう可能性があるからだ。いまのところ、これまでの情報との差異は生じていなかった。
《 計測完了しました! 新月になるまであと四十五秒です! 》
――【 地点感知 開始 】
「次のマスまで四分ほどかかります。次の新月が終わったあと、もう一度、感知する必要がありそうですね」
『はい。魔力の消費によっては、回復薬を積極的に使用しましょう』
今回はスキルを多用するため、アリシアとポニーのポーチには魔力の回復薬を多めに入れている。
以前、レディから「冒険者はあまり回復薬を使用しない」と聞いた。回復薬は体に負担がかかるため、回復薬を必要とするほどの消費は避ける傾向にあるらしい。鍛え抜かれた戦闘少女たちだからこそ、回復薬を使用する前提で迷宮に入れるのだとか。
四十五秒後、アリシアの指示で少女たちは瓦礫の裏に身を隠す。湧いて出たアンデッド、グール、スケルトンは合計で十体。一度の戦闘でこなすには数が多かった。
「経験値稼ぎの攻略だとしても、一度の戦闘の負担が大きくなりそうですね」
『はい。経験値稼ぎに入るとすれば、2マス目までで終えたいところです』
月明かりが漏れ始めると、十体の魔物は溶けていく。それを確認して、アリシアは瓦礫から外へ踏み出した。
――【 直感:計測開始 】
「さあ、まだ次のコマへの到達には時間があります。今回の攻略は時間をかける必要がありそうですね」
『仕組みとしては簡単ですが、戦闘の回数が増えるごとに戦闘少女たちは消耗します。時間がかかったとしても安全に進みたいところです』
「今回の配信は時間がかかることを、視聴者のみなさんもご承知ください」
***
[眠気を覚ますドリンクを常備してるから平気]
[最後まで見届けてこそ司令官だろ!]
[明日の仕事中に居眠りすればいいよ]
[自分でゲームしてるときも夜更かししてるから余裕~]
***
《 計測完了しました! 新月になるまで、あと三十五秒です! 》
――【 地点感知 開始 】
前回までの攻略と違い、今回はドット絵ではなく少女たちが先へ進む姿が映し出されている。ドット絵でない少女たちの映像に喜ぶ視聴者の声もあった。
《 司令官、この地点に隠れ場所はありません 》
アリシアの声に、星とレディは顔を見合わせた。隠れ場所がないということは、新月の際に戦闘が生じることになる。
《 余力は充分です。戦闘のご許可をください 》
「わかった。戦闘を許可する。きみたちに任せるよ」
《 はい、司令官! 》
ほどなくして月は姿を隠し、戦闘少女たちはそれぞれ武器を構える。陰から現れたのは、アンデッドが二体、グールが三体、スケルトンが四体だった。
《 戦闘開始します! 》
「できれば避けたかった戦闘ですが、少女たちは自信を湛えています。切り込み隊長エーミィ・ポンドに続くモニカ・ソードマン! アンデッドは一撃ずつで撃破だ! 光を放つはポニーの固有スキル『流星弾』! グール三体は呆気なく光に掻き消された! アリシアの散弾にスケルトンが弾ける! 続けざまにリトの雷槍が残りの三体を貫いた! 数の暴力にも戦闘少女たちは屈しない! 文句なしの完全勝利です!」
『花丸です!』
《 戦闘しゅうりょ~。お疲れ~》
***
[もはや美しいな]
[毎回これだと確かに消耗が激しくなるな~]
[余裕ではあるが、体力も魔力も消費するからなー]
[戦闘シーンが見られるのは嬉しいが、隠れ場所がないのはキツいな]
[この先はちゃんと隠れ場所があるといいんだけど]
***
トントン、と青山がテーブルを叩く。彼はステータスボードを指差していた。アリシアとポニーの魔力値は半分ほど消費している。
「アリシアとポニーは魔力値の回復薬を使用してくれ」
《 承知いたしました 》
アリシアとポニーが回復薬を使用すると、画面はマップに切り替わる。アリシアのドット絵がふたつ目のマスに到達した。
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「さて、新月の際の戦闘も含めると、少女たちの消耗が油断できなくなりますね」
『はい。今回のようなことがこの先もあると考えて、ステータスボードを慎重に確認しましょう』
《 索敵完了! 前方に四体! 戦闘開始します! 》
「開始と同時に駆け出すエーミィ! 自慢のルーンアックスがギミックバットを真っ二つだ! 負けじと地を蹴るモニカ・ソードマン! ポケットラット、二匹を一撃で下す! 狙いすましたポニーの一矢がグリーンウォンバットを貫く! 連続の戦闘とは思えない素晴らしい完全勝利です」
『戦闘少女たちの能力値の高さが伺えますね!』
《 討伐完了。お疲れ様でした 》
***
[今日は全員の活躍回かな]
[文句なしだな]
[しかしハードだなあ~]
[通常の戦闘でも四体だと少し多く感じるな]
***
「アリシア、みんなの消耗と武器の耐久度はどうだ?」
《 リトの体力値が少しだけ減っています。回復薬使用のご許可をください 》
ステータスボードを見ると、リトの体力は四分の一ほど消費している。再び次のマスまで隠れ場所がない場合を考えれば、回復したほうが賢明だ。
「わかった。リト、回復薬を使用してくれ」
《 ありがとうございま~す 》
他の戦闘少女はまだほんの少しの消費で済んでいる。魔法使いという特性上、リトの体力値の消耗が早いのは致し方ないことだろう。
「アリシア、慎重に次へ進んでくれ」
《 はい、司令官! 》
――【 直感:計測開始 】
「さて、分類としては初級ダンジョンに分類される『月影の魔宮』ですが、最後の初級ダンジョンとあって、かなりハードな攻略になっていますね」
『はい。この先、これ以上の戦闘をこなすようになることを考えると、次の作戦までに強化素材での能力値の底上げをしておきたいですね』
「今回の攻略が完了し次第、調整しましょう」
***
[これだけ強いのに、まだ強化素材で上げる余地があるのか]
[一撃では倒せない魔物が出現するってことだよな]
[この先もダンジョンが変化してると考えると、能力値は上げるに越したことはないな]
[あとは装備品の充実も必要になるんだろうな]
***
《 計測完了しました! 新月になるまで、残り一分半です! 》
――【 地点感知 開始 】
「新月になる時間は毎回、違うようですね」
『月の満ち欠けの時間も、隠れ場所の出現も毎回ランダムになっています』
「今回は戦闘を避けられるといいんですが……」
月が四分の三ほど隠れた頃、アリシアが前方を指差す。戦闘少女たちが瓦礫の陰に身を滑り込ませると、ほどなくして月は完全に光を消した。出現した魔物は十二体。戦闘になっていれば、少女たちの消耗は大きなものとなっただろう。
「無事に戦闘を回避できましたね」
『はい。この調子で最後まで行きたいですね』
そのとき、ピー、と甲高い音が響いた。不穏な音に、星とレディは画面を見上げる。
――【 緊急感知:敵影アリ 】
「レディさん、これは……?」
『リトの接近感知です。近くに魔物が出現しています。通常、この迷宮の新月による出現の魔物はルート上にしか出現しません。これは異例の出現です』
アリシアが少女たちの背後に向けて発砲する。瓦礫の内側に出現したアンデッドが崩れ落ちる。その音に、新月で出現した魔物が戦闘少女たちの存在を嗅ぎ付けた。
《 司令官、緊急作戦のご許可を! 》
アリシアの張り詰めた声に、星はマイクのスイッチを押す手が小さく震える。しかし、躊躇している暇はない。
「わかった。殲滅行動を開始してくれ」
《 はい! 緊急作戦を実行します! 》
戦闘少女たちは瓦礫から駆け出し、陣形を整える。新月による出現の魔物は十二体。一度の戦闘で殲滅するには多かった。
「さて、緊急作戦の実行となりました。魔物の数は十二。少女たちの消耗を留意しなければなりませんね」
『はい。今回の迷宮の変異は特例の出現だったようですね』
「さあ、そうこうしているうちに魔物はすでに半分が討伐されている。切り込み隊長エーミィに続くアリシアに容赦はない。負けじと地を蹴るモニカ・ソードマン! この速力から逃れる術は魔物にはない! 光の雨を降らせるはリト・ワイズマン! ポニーも黙っていないぞ!」
***
[だいぶ余裕だけど、エーミィちゃんとモニカちゃんは動き回るから体力値が心配だ]
[リトちゃんも魔力をかなり消耗するな]
[弾の備蓄は充分か!?]
***
「アリシアの魔弾が炸裂! エーミィ・ポンドの重い一撃がアンデッドを下した! 数の暴力も戦闘少女の前では無力! 完全勝利であります」
『圧倒的な戦力差を見せつけられましたね!』
《 ふい~。ちょ~っと頑張っちゃったな~ 》
入った経験値は魔物の数が多かっただけこれまでより増えているが、それも戦闘少女たちにとっては微々たるものである。ステータスとしても消費は大きくなく、回復は次のマスの戦闘を終えてからでも充分だろう。
「アリシア、次に進んでくれ」
《 はい、司令官! 》
アリシアのドット絵は三箇所目のマスへ向かう。月は満月に向かっていた。
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「さあ、休む間もなく次の戦闘となります。少女たちの能力値の高さが伺えますね」
『はい。冒険者であれば、この辺りで引き返すのではないでしょうか』
「あの数の戦闘をこなすだけで体力も魔力も消費することになりますからね」
《 索敵完了! 前方に三体、後方に二体! 戦闘開始します! 》
「さあ、始まりました、第四戦。少女たちの初動は、先ほどの戦闘の消耗を感じさせません」
『慎重に見守りましょう』
「目にも留まらぬ速攻で前方三体を下すエーミィ、モニカ! 後方二体もアリシアの散弾とリトの火球に抵抗する術はない! 戦闘少女たちの完全勝利です!」
『惚れ惚れしてしまいますね! 花丸です』
《 戦闘終了、ですね。お疲れ様でした 》
***
[戦闘少女が普通の人間ではないと実感するな]
[どれくらい鍛錬を積んでるんだろうな]
[戦闘を見るとどれだけ努力してるかよくわかる]
[司令官の責任も重いな]
***
星はステータスボードを確認する。三回目と四回目の戦闘を短時間でこなしたため、ステータスは多少なりとも消耗していた。
「エーミィとモニカは体力、リトは魔力、アリシアとポニーは両方、回復薬を使用してくれ」
《 かしこまりました 》
戦闘少女だからこそ、回復薬を使用して何度も戦闘をこなせる。余裕の戦闘に見えるが、先ほどのような異例の戦闘が起こらないことを祈るばかりだ。




