表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/40

月と踊る攻略【ワンガル】#12[前編]

 翌日になると、星もだいぶ回復していた。レディの看病に感謝しつつ家を出て、電車ではいつも通りに攻略の資料を見る。今日はまだ少女たちには会っていないが、きっとすぐにでも出撃できるのだろう。


 星が部署に入って行くと、なんとなく少しざわついた。レディが欠勤の電話を入れたことで、まだ何かと噂をする社員がいるのだろう。興味本位で星の配信を見た者もいるかもしれない。しかし、星の頭は攻略のことで占めている。それすら些末なことに感じられた。


「おはよう、鷹野くん」


 明るい声に振り向けば、凛子が軽く手を振っている。


「回復したようでよかったわ」

「若林さん、差し入れをありがとう」

「いいえ~。でも……これからも配信を続けるの?」


 凛子は神妙な面持ちになる。よほど星のことが心配らしい。


「攻略が終わるまでは続けるかな」

「前回みたいなことがないといいんだけど」

「対策はするし、同じことにはならない……と思いたいところだね」

「心配だけど、いま攻略を投げ出すわけにはいかないものね」

「そうだね……」


 朝食のあいだ、レディとも話し合った。また同じようなことがあったら。だが、そう考えたところで、星には司令官の任を放り出すわけにはいかない。とは言っても、どう対策したらいいかを星はわからない。その点はレディに任せるしかなかった。


「ま、私は鷹野くんの無事を祈っているわ」

「ありがとう」


 向こうの攻撃がこちらにも届くことは、レディにとっても想定外だった。この先も同じことが起こらないとは限らない。この先の攻略はより慎重になる必要があるだろう。


 昼休みになると、いつも通りラウンジで資料と睨めっこが始まる。レディの資料はいつも完璧だった。


「鷹野」


 声をかけられて顔を上げると、惣田と青山が歩み寄って来る。空いたのはたった一日だけだと言うのに、なんだか昼休み会議が久々のように感じられた。


「もう体調は万全なのか?」

「ああ。お陰様で」

「それはよかった。今日は配信をするの?」

「たぶん。少女たちを待たせるのも悪いですから」


 次のダンジョンについて、レディと少女たちの作戦会議はとうに終わっているだろう。あとは司令官が戻るだけだ。


「鷹野くんは、怖いと思わないの?」


 真剣な表情で青山が問うので、うーん、と星は首を捻る。


「怖いとは思わなかったです。レディさんがいればなんとかなるんじゃないかと思うし、何より、俺は司令官ですから」

「……そう。鷹野くんは強いんだね」


 向こうの攻撃がレディの加護を通してこちらに届いた。この先も同じようなことが起こるだろう。しかし、星のそばにはレディがいる。星はレディを信用している。きっと、レディがいれば大丈夫。そう確信していた。






[月と踊る攻略【ワンガル】#12]






「はい、お時間となったので始めていきましょう。こんばんは、実況の月輔です。解説はお馴染み、案内女神レディさんでーす」

『こんばんは〜』



***

[こんばんは〜!]

[月輔が復活してよかった]

[今日も「決まったァー!!」を聞かせてくれよ]

***



「前回の攻略ではご心配をおかけいたしました。ご覧の通り、すっかり回復しております。お見舞いのコメント、ありがとうございました」

『また張り切って攻略して参りましょう』


 今回も画面外に惣田と青山が控えている。いざというときは手助けしてくれるだろう。


「はい。さて、今回、攻略に向かうのは『月影の魔宮』です。レディさん、どのようなダンジョンでしょうか」

『はい。月影の魔宮は、常に月に照らされる迷宮です。月は満ち欠けし、月の明かりがなくなると魔獣が動き出します。ですので、月が欠けきる前に隠れ場所を見つけなければなりません』

「倒すことはできないのでしょうか」

『戦闘少女たちなら問題なく倒せますが、とにかく数が多いのです。いちいち相手にしていては、主戦の前に消耗してしまう可能性があります』


 レディが液晶にダンジョンのマップを表示する。これまでのダンジョンに比べると広いマップで、内部も複雑化している。難易度としては低級に分類されているが、決して簡単とは言えないダンジョンだ。


『隠れ場所はアリシアちゃんの感知能力で見つけることができます。隠れ場所に身を潜めることで、体力回復をする時間を取ることもできるでしょう』

「はい。今回の主はヒュドラ。物理攻撃が有効な魔物です」


 画面にヒュドラが映し出される。複数の頭を有する下級の竜だ。


『ヒュドラはすべての首を同時に落とさないと倒すことができません。これまで以上に連携が必要な戦闘になります』

「はい。では、今回の編成はこちら。前衛左前をエーミィ、前衛右後ろをモニカ。中盤をアリシア。後衛後ろ前をポニー、後衛右後ろをリト、となりました」

『アリシアちゃんは感知魔法を使う頻度が高いと考えると、戦闘の参加は最小限に抑えたいところです』



***

[今回はアリシアちゃん活躍回か]

[斥候の特性が活きるな]

[同時に首を落とすって、難易度が高そうだな]

[ポニーちゃんはどうするんだろ]

[頭がいくつあるかによるよな]

***



「では始めていきましょう。アリシア、進んでくれ」



《 はい! 司令官! 》



***

[アリシアちゃーん!]

[安心する~]

[ほっこり]

***



 アリシアのドット絵が1マス目に進む。最後の低級ダンジョンだが、マップには6マスある。低級ダンジョンでも中級寄りになっているだろう。


「さて、今回はどういったところに注意したいですか?」

『いかに戦闘の回数を減らすか、という点は注意したいですね。一度の攻略で遭遇する魔物は多くて百体になるとされています。可能な限りで回避したいです』

「隠れ場所はマップには表示されていないですね」

『隠れ場所の出現は毎回、ランダムになっています。アリシアちゃんには魔力の回復薬を多めに持たせていますので、出し惜しみせず感知魔法を使いましょう』

「はい。では、アリシアが最初のマスに到達したようです」



 ――【 敵影アリ 】

 ――【 索敵開始 】



 ダンジョンは煌々と月明かりに照らされている。まだ魔物は活性化していないはずだ。



《 索敵完了! 前方に二体! 戦闘開始します! 》



「さあ、始まりました、第一戦。同時に地を蹴るエーミィ、モニカ! ポケットラットがふたりに敵うはずもなく、実況の暇すらないあっという間の戦闘終了であります」



《 準備運動にもならないわね! 》



***

[エーミィ! エーミィ!]

[そもそもポケットラットを一対一で倒す必要はないのでは]

[モニカちゃんなら一撃よな]

[体力温存できそうだな]

***



 戦闘が終了すると同時に、月が欠け始める。これから進むごとに影になっていくだろう。


「アリシア、慎重に進んでくれ」



《 はい、司令官 》



 月の満ち欠けはマップでも確認できる。今回の内部構造は1マスずつの間隔が広めで、移動するごとに月が欠けていくだろう。


「月はどれくらいの速度で満ち欠けするのでしょうか」

『1マス進むごとに欠けると考えても問題ありません。欠ける速度に比べ、満ちる速度のほうが早いですが、少なくとも1マスごとに一度、隠れ場所に身を潜める必要があるでしょう』

「新月の状態になったら魔物が活性化するということでしたね」

『はい。新月の状態から少しでも明かりが出るようになれば、魔物の活性化は減少していきます。満月になるまで待てば安全に進めますが、それでは攻略に時間がかかりすぎます。新月が解除されてすぐ隠れ場所を出るといいでしょう』

「いまも月は欠けていっているということですね」

『はい。月が欠ける速度もランダムになっています。月の満ち欠けの速度もポニーちゃんのスキル“直感”で計測することができます』

「はい。では発動してもらいましょう」


 少女たちが次のマスを目指す中、星はマイクのスイッチを入れる。


「ポニー、スキル“直感”で新月になるまでの時間を計測してくれ」



《 はい! 司令官! 》


 ――【 直感:計測開始 】



 ポニーがスキルを発動しているあいだも少女たちは足を止めない。移動しながらでもスキルを使用できるらしい。



《 計測完了しました! 新月になるまであと三十五秒です! 》



『次のマスに到達するまで、あと二分半ほどかかります。アリシアちゃんに隠れ場所を感知してもらいましょう』

「アリシア、隠れ場所を感知してくれ」



《 はい、司令官! 》



 ――【 地点感知 開始 】



『このダンジョンではこれの繰り返しになります。この先は彼女たちの意思で進めてもらいましょう』

「はい」


 戦闘少女たちが進む中、マップがだんだんと暗くなっていく。それを眺めていると、画面が切り替わり、戦闘少女たちの姿が映し出された。月明かりが失われていく中、リトが光の魔法を頭上で発動する。仄かな明かりが少女たちを照らした。



《 みんな! そこよ! 》



 アリシアが前方を指差す。その先に、瓦礫の積み重なった地点があった。少女たちがその陰に身を潜め、息を殺す。そうしているあいだに月は完全な陰になり、地面から暗いものが立ち上がった。スケルトンやグール、アンデッドが出現した。その数は七体ほど確認できる。確かに、この数の魔物との戦闘を毎度、行っていては、消耗が重いものとなるだろう。


「確かに、一度に戦闘するには数が多いですね」

『主のヒュドラは同時に頭を落とすという難易度の高い戦闘になります。充分な余力を残したいところです』



***

[魔物の強さに関しては少女たちにはなんてことないんだろうな]

[数の暴力ってやつだな]

[低級の魔物との戦闘で入る経験値は少ないと考えると、いちいち戦闘する意味もないよなー]

[楽っちゃ楽だな]

***


 十秒ほど待ったところで、月明かりが照らし始める。それに合わせ、魔物たちも溶けるようにして再び影に戻り、姿を消した。アリシアの合図で、五人は再びふたつ目のマスを目指して駆け出した。


「今回は攻略としては単純のようですね」

『月が出ているうちに出現する魔物はほとんど低級です。アリシアちゃんの感知でしたら隠れ場所を見つけられないということもないでしょうし、苦戦することはないでしょう』



***

[隠れ場所がなかったとしても、魔物と戦うこと自体は問題ないんだろうなあ]

[数は多いが、ぜんぶ低級みたいだしな]

[数が多けりゃそれだけ体力も魔力も消費するからな]

[回復薬があったとしても温存したいよな]

***






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ