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第七話 授業って眠くなること多いですわよね

もうちょいペースを上げたいなぁと思いつつ結局毎回これくらいに……(汗)


「Cランクの必修が魔法史、基礎魔導概論、初級属性変換学、初級魔導決闘学、教養学Ⅰですか。面倒な。少しくらい負けてくださってもいいのではないかしらね?」


 ロウグエナ魔導学園の講義形式は選択式です。提示された授業の中から自身で受けたい授業を選択し、受講します。無論全ての授業が受けられるわけではなく、ランクを指標とした制限であったり、何等かの試験が課せられたりします。またいくつかの必修授業も存在します。


 取り巻きというものは基本的にはある程度同じ授業を受けるものではありますが、(わたくし)は皆に自分が取りたい授業を取るように言いました。これだけ人数がいれば調整すれば誰かしらとは一緒になるでしょうし、それに私のレベルに合わせさせてしまうと足を引っ張ってしまうでしょう。……Cランク合格は私しかいませんでしたし。敵ならばいざ知らず、自分を頼ってきた方々の足を引く趣味など私にはありませんわ。


 とはいえいきなり授業を選べと言われても困ってしまうのもまた事実です。ですから入学からの1か月間は体験授業が設けられ、それを受けたりしながら授業の選択を決めるのですが……どの体験授業を受けたものでしょうか。




「あの~……ヒルベリュカ様って魔法史を受けられます、よね?」

「あら、モミジさんにミュエルさん?え、えぇ。必修ですので受けますけれど……」


 私が空間投影された今の私でも受けられる授業の一覧を夜輝館の広間で紅茶を片手に確認していますと、こちらを伺うように私の取り巻きの方々―――モミジ・ウルメ・トクミネ・シジョウさんとミュエル・ソドア・ニ・プルポイマさんがこちらを伺うように声を掛けてきました。


 ミュエルさんはお隣のソルドア国の、モミジさんは遠く離れたサコラ国の貴族の出身の方で、どちらも我がデビライズ家といくらかの交流があり、留学の支援を我が家で行うことになったのです。


「あ、あの私達も魔法史を受けようと思うんです。それで……も、もしよろしければご一緒できないかと。」

「……お、お願いします。」


 おどおどという様子でこちらを伺ってくる二人。……髪や目の色に惑わされて気づきませんでしたが、こうしてみるとお二人はよく似ていますわね。すらっとして小柄な身体つき、丸みを帯び肩にぎりぎり掛からない髪型に、少し自信なさげな表情と仕草。ただ水色と黒ではやはり与える印象が違うのとモミジさんは前髪を左右に開いているのに対しミュエルさんは目が隠れるように前髪を垂らしています。


「魔法史?けれどお二人は――――」


 今朝メモ帖で確認した記憶が正しければ、確かミュエルさんがBランク合格、モミジさんがAランク合格。Bランク以上であれば基礎的な魔導の内容は履修済みと判断され魔法史は受講する必要はないはずです。仮に魔法史に関する授業を受けるとしても他の―――もう少し専門的な授業になるのではないかしら?


「そ、その私達はこの国から見た魔法史を学びたいのです。自分の国とどのような違いがあるのか、それはどうした理由なのか。……ご迷惑でしょうか?」

「いえ、そんなことはありませんわ。むしろ素晴らしい志でしょう。喜んでご一緒させていただきますわ。」


 ズキリと劣等感が胸を締め付けました。彼女たちは異国の地へと訪れて、学びの機会を最大限生かそうとしています。対して私はどうでしょうか?そこまで深く授業のことを考えていたでしょうか?いいえ、そうではありません。自分の出した試験の結果に不満を抱き、ただ「受けたくない」なんてことを考えていただけです。


 内側に溜息を堪えながら指で投影パネルを操作して細分化されていない魔法史の授業を確認します。ふむ、七件ですか。


「モミジさん、ミュエルさん、お二人はどの講座がいいかの希望はございますか?」


 魔導学園は世界最高峰の魔導の教育機関と言われ、国内外を問わずに多くの受験者が訪れます。それゆに人数も膨れ上がり、必修指定の授業などいくつかの授業においては同じ授業を複数人の教諭の方が行われます。


 無論同じ授業と言っても教える人が異なれば授業の内容は異なりますし、そこで得られるコネなんかを考えるとその差はさらに広がるでしょう。ですので同じ内容の授業であってもどれを受けるのかというのは重要な項目になりますが――――


「えと、ヒルベリュカ様は?」

「私は特にこれと言った希望はありませんわ。ですからお二人の希望があればそちらを、と思いまして。」


 正確にはまだ魔法史を教えている教諭の方々が誰なのかも確認していないのです。……こ、これから確認しようと思ってたんですのよ?


「ええっと……」


 そこでモミジさんがミュエルさんを見る。ミュエルさんが躊躇いがちに少し頷く。モミジさんの黒髪が揺れ、向けられていた横顔が正面へと変わる。


「その、メラロリス先生の授業を……」

「メラロリス先生ですか、いいと思います。早速次の体験授業を受講いたしましょうか。」

「「ありがとうございます!」」


 メラロリス・グーエ・メラテリウス・ロイエンコルセ先生は、我が国の中流に位置する貴族の方で確か記憶が正しければ魔法史学における権威のお一人であったと思います。齢は70歳を越え、それなりに高齢な方なのですが柔らかい笑みを浮かべる温和そうなご老人であったと記憶しています。学術的にも家柄的にも特に反対をするような人材ではありません。













「(と、考えていた私が愚かでしたわー!!??)」


 朗らかな笑顔を向けてこちらに授業を行ってくださるメラロリス先生。魔導黒板に板書が行われ、周囲からはそれを書きとるためのシャーペンがノートと擦れ合う音が微かに響いています。


 専用のチョークは粉が零れることもなく無限に色を付け続け、また黒板消しなどなくても軽く魔力を通すだけで消したいところだけを消せるのだとか。けれどそんな授業の最中、私の前にはこの授業を受講するに当たって最強の壁が立ちふさがっていました。




「世界三大始祖と言えば学園のロウグエナ、ソドオンの蒼き龍、夢の丘のアクライス……この辺りは義務教育でも習うことでしょう。」




 ――――その名は睡魔。私に舟を漕がそうとする恐ろしきモンスターです。起きていよう、起きていよう、と思っていますのに気が付けば眠りに落ちかけているのです。幸いノートに関しては私のデバイスにはコーアに勧められて搭載した自動筆記機能がありますからなんとかなっておりますが、授業内容は全然入ってきておりません。


 眠い、それはもうとてもとても眠いです。どうしてこんな真昼間から死ぬほどの眠気に襲われているのでしょうと思うものの眠いのですからどうしようもありません。今も時折シャーペンの芯を左手に突き刺してなんとか意識を保っていますが、これ以上はそれも厳しいかもしれませんわ。


「しかしですね、ここはテストには出ない範囲なのですが、魔法の始祖であったかもしれない存在というのはこれら三名の他にも存在します。」


 この先生はきっと良い先生なのでしょう、先ほどから丁寧に歴史上の出来事について、その経緯を交えながら教えてくださっています。ただ暗記をするのではなくどうしてそうなったかを説明し、また主流の学説以外の学説があればそれも教えてくださっています。


「例えば学園の十三貴族、ヴァルペリアの初代はロウグエナと出会う前から吸血鬼として魔法を使えたとする説がありますし、サコラ国のイザギミコなどは大陸からの魔法伝来よりも登場が早かったのではないかと言われてもいます。」


 けれど、けれど!!ダメなのです、私にはダメなのです。この抑揚のない声でゆったりと話されながら情報量を増やされると、どうしても眠くなってしまうのですわ!?頭がぼーっとして、瞼が重くなり片目ずつで前を見ることになるのです。どうしてですの!?


「こうした事例は世界の各所に見られます。その理由はですね、原初の魔法とは今の魔法よりも意思の影響を強く受けたからだと言われています。豊富な魔力と強い意思があれば発動させることができたからですね。当時は当然今よりも整備が行われていませんから身近に魔獣が溢れていたのもそれを助長したことでしょう。」


 ただこの睡魔と戦っているのは私だけではありません。私と同じように必死に船を漕がないように耐えている方々もちらほら見受けられます。完全に寝に入っている方を含めて大体全体の2割ほどでしょうか?


 しかしその反面、モミジさんを含め目を輝かせてノートを取っているような方もちらほら見られます。未だ体験授業だと言うのにとても楽しそうです。こちらもおおよそ2割ほど。


 おそらくメラロリス先生の授業というものは興味がある者、魔法史ができる者にとっては知識が広がったり理解が深まる面白い授業なのでしょう。その前提であれば抑揚のない平らでゆったりとした静かな声も気にならないのでございましょうね。


 反面、私のようにこういった科目を苦手にするもの―――まあ私は全科目苦手ですけれど―――にとっては非常に眠くなるのでしょう。何せ眠気を誘う声でテスト外の知識が多く話されるのですから眠くなる一方です。


「古代の時代では杖や指輪、現代ではデバイスと、魔法を使用する際に術者をそのまま用いるのではなく一度適切な媒体を通すことにより、我々の魔法は安定し暴発や不発の可能性がなく使用できます。逆に言えば古代の魔導師は暴発というチャンスが多く存在したのですね。」


 この授業が悪いのかと言えば、そんなことはないでしょう。そもそもこの教科は必修とはいえ複数の教諭から選択することができるのですから合わない方は別の講義を受ければいいのですし、興味がある方々へ向けて発展的な授業をするのは何も間違ったことではないのですから。










「っ―――――――!?」


 落ちかけた意識が痛みによって多少引き戻されました。見れば思い切りシャーペンを刺しすぎて出血している左手首。すぐにバレないように机の下に左手を移動させ、持っていたハンカチで素早く結びます。意識が落ちた時に勢いが出てしまったのかもしれませんね。




「で、このオルマなんですが、世間的には確かに万象変換が有名なんですけれど彼女がこれに到達した時の年齢は81歳、不老系統の魔法も修得していませんでしたからね。もう人生も終盤も終盤。ですので当時はむしろ魔力糸遣いとして有名だったんですよ。「オルマの糸に捕まれば、蜘蛛の巣の蝶より末路は確か」なんて言葉も残っているくらいでして。」


 しかしこれは中々に難しい状況です。メラロリス先生の授業が私との相性が悪いと分かったものの、じゃあ受講しないなどと言えるでしょうか?せっかく取り巻きとして一緒の授業を受けようとしてくださったモミジさんやミュエルさんは私がこの授業を受けなければお気になさるでしょうし、場合によっては受講しないという選択を取るかもしれません。そのような足を引っ張るような真似、いくら向いていないと言えども上に立つ者としてしたくはありませんもの。


 けれど正直に私は学習意欲が低いのでメラロリス先生の授業が合わないのです、お二人は気にせず受講為さって、なんて台詞も死ぬほど言いたくはありません。いくらなんでも情けないにもほどがあります。見栄を過度に張ろうとまではしませんが、さすがに無様すぎるでしょう。


 となるともう大人しく授業を受けるしかありません。ありませんが、同時に授業中寝ていたとなれば私の儚い面子などそれはもう見事に崩れさってしまいますし、こちらの方が家柄が良いとはいえ同じ貴族であるメラロリス先生の前でそんなことをすれば、明日の貴族社会の笑い者です。なんとしても居眠りだけは回避しなければならないでしょう。


 とりあえずコーアに頼んで眠気を遠ざけるような魔導薬の類を探してもらうことにして、今日の所は―――――気合いで乗り越えるしかありませんわよねぇ。


「この二人の悲しき恋愛模様はですね、のちに「蜘蛛女オルマと蝶俳優メガルテ」という小説になっているんです。それなりには有名な話ですから図書館に行けば置いてあると思いますよ。気になる方は是非読んでみてください。読み物としても面白いんですけれど、当時の文化や魔導師の生活なんかにも触れることができますからおすすめですよ。」


 シャーペンの芯を左手の甲に突き刺しながら私は必死に瞼を上げて前を見るのでした。



次はそろそろバトル描写を入れたいなと思っています。

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