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第五話 寮に着く


「さて、皆様の中にもご存じの方はいらっしゃいますでしょうが、どうか説明をしばらくお聞きください。」


 コーアとメイが車内で席を立ち、空中へ学園の地図を投影しながらこちら―――バスに乗っている(わたくし)達へと説明を行います。内容はロウグエナ魔導学園の寮とこれからの私たちの生活についてです。


「ロウグエナ魔導学園には全部で7つのエリアが存在します。まず講義や学園行事などを執り行うセントラル。大きなデパートを含む商業施設や外部との交通機関を有するペリミター。明確に学生用の居住地域とされるワンド、ソード、カップ、ペンタクル。最後に用途の定められていないエリアであるブランクです。」


 バス内の空中に投影された地図には大きな楕円形に描かれたロウグエナ魔導学園が示されています。中央にセントラル、それを取り囲むようにワンド、ソード、カップ、ペンタクル、ブランクのエリア。最後にそれら全体を囲むようにペリミター。エリアの大きさはブランクが最も大きく、次いでセントラル、ペリミター。他は同程度のようですわね。


「ロウグエナ魔導学園の入学審査はそれぞれどの寮に適正を持つかも調べられます。学生は基本的になその中の寮から自身が所属する寮を選びます。皆さんも入学の際に適正のある寮を示されたかと思います。」

「あ、入学要綱書いてあったソード適正ってそういうことだったのか。」

「説明書読んでなかったんですの……?」

「ま、まあそれはいいじゃないですの。結構分厚いですし。」

「……。(これ、ヒルベリュカ様も読んでないですね?)」


 一般的に言われているものではワンドが研究者など新しい何かを見出すのに向いた者、ソードが闘争心を持ち前へ出て戦える者、カップが社交性を持ち人との繋がりを大切にできる者、ペンタクルが現実性を持ち、安定した選択を取れる者、らしいです。それがどこまで当たっているのかまでは存じ上げませんが。


 各寮の特色もそれに合わせたものになっているとかで、ワンド寮では借りられる研究施設や図書館が最も多く、また学生の間で定期的に研究発表会を行っている、と聞きます。


 逆にソード寮は決闘場であったり修行場が多く、定期的に魔導決闘の大会が開かれているとか。カップになると寮の建物の中にそれぞれ大きな談話室があり、それ以外にも寮主催のイベントなどで交流を推奨しているそうです。


 ペンタクル寮は寮と言いつつもそれぞれの部屋はマンションの一室のような形になっており、実用的な商業施設が多く、また一部授業のレポートの出し方であったり、先輩方の魔導決闘のノウハウや記録映像だったりという情報的な恩恵が多いらしいです。


「ですが我々が実際に属することになるのはこれら4つのエリアではなくブランクエリアとなります。ブランクエリアは学生居住地域ではないものの、寮として使用できる設備が複数あり、適正な金額を支払えば居住区として利用できます。……この人数ですと寮を合わせることもままなりませんから。」


 取り巻きという制度は単におべんちゃらを言う集まりではなくコネを目的としたものですが、上に立つ者がただ敬われるという形ではありません。当然その分の何等かの見返り―――学業における支援などを行うことが習わしです。


 私達の場合は学費の肩代わりや必要な物資等の支援でしょうか?まあつまりは金銭的な支援です。成績が良ければ、魔法を教えるなんてこともできたのですけれど、正直私は教わる側でございます。……いやコーアに投げれば行けますかね?


「ブランクエリアに住まう学生は便宜上ブランク寮所属となります。ですが他四つの寮と異なりブランク寮には寮監を行う先生方であったり統一した連絡網であったりを持ちませんし、他寮所属者がブランクエリアに拠点を動かすことも可能です。こ寮生活に馴染めなかった生徒への救済も兼ねている制度だそうですが……いくつかの学園行事においては他寮同様ブランクエリア所属者もチームとして扱われますので覚えておいてください。」


 ちなみに取り巻きの人数を絞る際にどの寮に属するかで絞るという案も出ました。これは昔からよく使われる手法で、今年入学するリルカ以外の他の十三貴族やそれよりそれなりに下がるものの実績を上げ裕福でもある最近このようなことをやり始めた家系がこういう方法で絞ったと聞きます。


 私としてもそういう手段で人数を減らす、ということを考えなかったわけではありませんが、頂いた合格通知を見て、断念いたしました。


 何故ならば私の寮適正は―――なし(ブランク)。私は最初からブランクエリアにしか住まえなかったのです。これでは居住地域を理由に取り巻きを減らすなんてことはできません。


 寮適正がなしになるというのはかなり珍しいことではあるものの今までの歴史を遡れば二百を越える人数は居たそうでございます。考えてみれば私は研究などからっきしで闘争心などももはや持ち合わせず社交を断った経験があり、けれども現実をきちんと見つめられているわけでもないというそれはもうあっぱらぱーな有様でありますから、どこの寮からもお断りされるのも当然のことでございましょう。学生寮の適正なしならもう不合格でいいのでは?と少しも異議申し立てをしたくないと言えば嘘になるますけれども。


「それで居住拠点でございますが、こちらですでに物件賃貸済みでございます。皆様がこれより学園にてお住まいになりますのは現在向かっているブランクエリア十三区の夜輝館と名の付いた物件でございます。……ちょうど見えて参りましたね。」



「わぁ~。」

「あらあら、まぁまぁ。」

「えっ、めちゃくちゃ広くないっすか!?」

「おや、この材質はもしかして―――――。」



 バスのフロントガラスから目に入ったのはトランプのスートの形に先端がなっている鉄の門扉とその奥にある黒くて品の良い屋敷でした。十五人ということを考えると少し小さいように思える屋敷でしたが、学園の敷地にはある程度限界がありますから仕方のないことなのかもしれません。


 コーアが手元のデバイスを操作すると、ぎぎぃ~と重厚な音を立てて鉄の扉が左右に開きます。私なんかはこういった音は演出的に好きではあるのですが、メイなんかは「もしかしてどこか錆びているのでしょうか?」なんて眉を顰めていました。


 門をくぐればもう大き目のガレージが右手側に見えました。私の知っているような物件ですと門をくぐってからも今少し走ることが多いですから、やはり土地柄時短に気を配っているのでございましょう。



 それではこちらです、なんて声を聴きながら立ち上がってバスを出ようとします。私としては別にこんなところの順番に何か意識があるわけでもないのですけれども、他の方々の中には私が座ったままだと気にする方もいるのかもしれないため、こういう時には一番に出るようにしています。あるいはこれは自意識過剰だったり厚かましかったりするのでしょうか?


 これに限らずのことですけれど、順番というのは気にする人は気にするものでして、些細なことでもやれマナー違反だのやれ敬いの心が足りないだのという話になってしまいます。


 これが例えば格式的なテーブルマナーのようなものでしたら、私も幼少期に苦悶の声を上げながらなんとか習熟しておりますので、別段問題はないのですけれど、このような細かな部分になると言ってみればローカルルールのようなものでございますから、その時々によってマナーの内容が異なる、なんてこともよくあるそうで。一応事前にコーアに聞いたところバスの降車順にマナーはないとのことでしたが……大丈夫でしょうか?



「あらぁ!?」



 なんてことをあれこれ考えていたのが悪かったのでしょう。私のハイヒールがバスの階段のところでずるりと斜め上へとスライドし、そのまま宙を泳ぎ始めます。当然私の身体もその動きに従って頭の位置が弧を描きながら下がります。


 恐らくこのままでは後頭部に段差の角が当たることでしょう。自慢ではありませんが、これでも私何度も転んで頭をぶつけたことがございますのでその痛み―――特に尖ったそれがとてもとても痛いということは勿論存じ上げております。


 いや昨今のバスなら事故防止のためにこうした部分は丸くなっているのでしょうか?ぼんやりしていてどうなっているかを見てはいませんでしたが、こんなことなら見ておけばよかったかもしれません。いえ、見ていて先が丸くなってなければ今よりも恐怖心を感じていたかもしれませんわね。




「……あら?」


 ――――なんて走馬灯未満の考え踊らせていましたがいつまで経っても衝撃がやってまいりません。どころか私の身体も不自然な態勢で宙に浮いているような?


「お嬢様、段差にはお気を付けくださいませ。ただでさえ何もないところでもお転びになられるのですから。」


 そこには呆れたものを見る目で魔法陣を宙空に展開していたコーアがいました。……助けてくれたのはお礼を言いますけれど、その駄目な子を見るような目はどうかと思いますわよ?



「んん、ごほん。ありがとうコーア。助かりましたわ。……皆様も転ばないようにお気をつけてくださいまし。」


 私の耳が熱を持ち、外から見れば色が赤くなっているであろうことから考えを何とか逸らしてバスを降ります。そのままガレージを出て私たちの学生寮―――夜輝館へと歩を進めましょう。


 失態を誤魔化すために急ぎ足であったためか途中で風がふーっと顔へと辺り、私の頬の温度を下げてくれました。それでようやくちょっとは余裕が出来てきて目の前に見えた屋敷をまじまじと見つめました。




 建物は窓の数から見て三階建て。どうやら左右で多少構造が異なるようで、玄関から見て右側は細長く背丈は1階と2階の間くらいまでで、ガラス張りになっていますわね。恐らくは食堂でしょう。


 左側は三回まできちんとあり窓が多いのでこちらが部屋なのでしょうか?それから中央の一番上には大きな時計が付いており、現在の時刻を教えてくれています。



「……悪くはなさそうかしら?」


 正直なところ寮生活―――実家から離れるということに関しては学園に行くのが嫌ということを除いても不安感がありました。何せ私、かなりのお金持ちでございまして、今まで何もかもを世話されて暮らしてきたわけです。けれどここで同じような生活を送るわけにも行きません。コーアにメイが一緒に来てくれてはいるものの、彼女たちにだって学業があるのですから頼り切りは厳禁ですもの。


 そういった不安は横に置きまして、確認したお屋敷―――夜輝館はいくらか小さくなったとはいえ以前まで住んでいた別館と比べてそこまで大きな差異はないように思えます。きちんとした判断は自分の部屋へ行ってみなければ分かりませんが、こういう肯定材料がほんの僅かであっても心を軽くしてくれるのです。そしてその小さな積み重ねこそがきっと余裕と呼ばれるものになるのでしょう。



「……そういえば皆さんの荷物はどこかしら?玄関にはないようだけれど。」

「ああ、そちらでしたらすでに皆様各員のお部屋へと運んでおりますよ。」


 ほとんど私と一緒に行動していたはずなのにいつの間にこういう手筈を整えているのでしょうね、この子は。なんて思いつつ皆様に声を掛けて数時間ほど荷物整理の時間を取ることに致しました。本日は初日で授業はありませんし、しばらくの間は体験授業で余裕がございますから。




 シックな玄関先を抜け、黒く塗られた木造の階段を上る。デバイスに送られました地図によると私の部屋は三階とのことで、入口からは少し距離がございました。エレベーターも備え付けてあったのですが、なんとなく自分の目で新しき住居を見てみたくなった私は歩いて移動することにしたのです。


 階段の踊り場に着けられた小窓から太陽の光が淡く差し込み、カツカツという足が地を叩く音が耳に届きます。思えば最近は階段を利用することも少なくなっていましたわね。心の中のこととはいえ少し年寄り臭いでしょうか?閑話休題。


「別に着いてこなくとも自分優先で大丈夫ですのよ?二人とも自分の荷物だってあるのでしょう?」


「「お嬢様がお一人で引っ越し作業を為さるおつもりで!!!???」」


「なっ、なんですのその反応?まるで私が一人で部屋の片づけもできないみたいに……」

「みたいというか、実際できませんよね?」

「懐かしいですね、あれは四年前のこと……お嬢様が自室を掃除なされると仰って三十分足らずのことでした。屋敷中に轟くような轟音が――」

「わーっ!?わーっ!?メイ、その話はもう終わりと言ったでしょう!?」

「………………やっぱり僕の知らない所でもばっちりやらかしてるじゃないですか。」


 コーア、そんな駄目なものを見る目を主人に向けないでくださる!?分かりました、分かりましたわよ!二人共着いてきてくださいな!!

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