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8.夜の学校

 一哉達は学校へと向けて町の中を進んだ。


 その途中、一哉達は道沿いにあったコンビニに立ち寄った。


「うわーっ、すごーいっ」


 真夜は目をキラキラと輝かせて並べられた商品を見回す。

 コンビニに来ること自体初めてだったのかもしれない。


 一哉はアイスをひとつ買った。ソーダ味で棒状で左右に割ることのできるやつだ。


 一哉は店を出ると買ったアイスを二つに割り、真夜と分け合って食べながら学校へと向けて足を進め続けた。



        ◇



 一哉達は学校の正門前に着いた。


「こっちだよ」


 一哉は正門横の開けっぱなしになっている通用口から中に入る。真夜も一哉の後に続いて中に入る。



 この学校には一部の生徒達の間で代々受け継がれ、ずっと隠蔽され続けてきた秘密の抜け道がある。かつては一哉も一度だけ宿題のノートを忘れた時に利用させてもらったことがある。歴代の先輩様々だ。こういう時の生徒達の団結力は本当に馬鹿にできない。


 一哉は真夜と共にその秘密の抜け道を使って校舎の中へと忍び込んだ。



 一哉と真夜は、一哉が使っている教室へと訪れた。


「ここだよ」

「うわぁ――っ!」


 一哉の後に続いて、真夜は小走りで教室の中へと入った。


 教室の正面には大きな黒板があり、その間には教卓が置かれていて、それに向き合うように生徒達の机がずらりと並んでいる。

 何でもないごく普通の教室だ。一哉にとっては見慣れ過ぎて見飽きた光景でもある。

 近所の人に見付かってはまずいため明かりを点けることはできない。だから教室の中はとても暗い。窓の外から差し込んでくる月と町の光だけが唯一の光源だ。誰も居なくて、真っ暗でしんと静まりかえっている。

 今の教室はとても不気味だ。お化けが出てきそうな雰囲気さえある。


 そんな教室を、真夜は興味深そうに、そして楽しそうに見回している。


「へぇーっ、学校の教室ってこんな風になってるんだぁ」


 一哉はそんな真夜の様子を教室の隅から見守る。



「ねぇ、一哉君の席はどこ?」

「俺の席? えーとね、」


 一哉は自分の席の場所を真夜に教えた。教室の真ん中の辺り。何をしていても先生から丸見えの具合の悪い席だ。


 真夜はタッタッタッと小走りで一哉の席へと向かう。そして机の天板に両手をつく。


「ここ?」

「うん、そこ」

「座ってもいい?」

「うん、いいよ」


 真夜はガラガラガラと椅子を引き一哉の席に腰を下ろした。

 そしてぐるりと周囲を見回す。


「ふーん、これが一哉君が毎日見ている風景なんだ」

「うん、まあ……」


 いつもは昼間だからもっと明るく、他の生徒もいるから賑やかで、全然違うのだけれども。

そう思うが、今はそんな事どうでもいいことだ。楽しそうな真夜の気持ちに水を差すのは悪い。

 一哉はそう思い言葉を呑んだ。


 真夜は両腕で頬杖をつき、机の下で足をぶらぶらさせる。

「そっかぁ、一哉君はいつもここで他の子達と一緒に勉強して、一緒に遊んで、そして先生に怒られたりしてるんだね」

「怒られるのは余計だよ」

 真夜はクスクスと笑った。


「私もいつかここで、一哉君達と一緒に授業を受けられるようになるのかな。一緒に遊んで、時には先生に怒られたりして、そんな毎日を過ごせるようになるのかな」

「大丈夫。その日は必ず来るさ。絶対に」

「うんっ!」

 真夜は嬉しそうに頷く。



 一哉は拳に力を込め震わせた。


 そうとも、外に連れ出すことには成功したんだ。もう家族から束縛されることは無くなったんだ。絶対に辿り着いてみせるさ、その日に。

 一哉は強くそう思う。



「真夜、他の場所にも行ってみようよ。学校ってのは他にも変わった場所が色々とあるんだ」

「うんっ」


 真夜は椅子から立ち上がると小走りで一哉の隣へと戻ってくる。

 そして二人は教室を後にした。




 その後、一哉と真夜は学校の中を見て回った。


 さすがに職員室周辺はセキュリティが厳しいので近付かないようにした。

 理科室や音楽室といった特別教室は鍵が掛かっているため入ることができない。仕方が無いので近くの教室から机や椅子を持ってきてそれを積み上げ、出入口上のらんまから教室の中を覗き見るなどした。


「へーっ、すごーいっ、こんなふうになってるんだぁ」


 真夜は教室の中の様子を見ては楽しそうにはしゃいでいた。



 時間は瞬く間に過ぎ去っていった。


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