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4.理由を考える

「ごちそうさま」

 一哉は夕食を終えると母がいるリビングを後にした。


 部屋に戻るとベッドに仰向けに寝転がる。そして天井をじっと見詰めて考えた。



 真夜はなぜ突然会わないなんて言い出したんだろう?


 考えるまでもない。 俺があの窓から離れている間に家の人から何か言われたのだろう。それ以外には考えられない。

 俺なら少しくらい何か言われても平気だしそんなの無視するけど、さすがに気の弱い真夜ではそれは無理な話だ。素直に従うしかなかったんだろう。


 一哉の脳裏にあの館の住人の姿が思い浮かんだ。

 あの野郎、真夜が弱いことにつけ込みやがって……っ。

 腹の奥底からふつふつと怒りが込み上げてくる。



 真夜はどうしてあんなにも触ることを恐れているんだろう? どうしてあの小さな家から出ようとしないのだろう?


 その理由も考えるまでもない。真夜が触ったら相手が死んでしまうから。それは真夜自身が言っていたことだ。

 真夜が窓を開けてくれなくなったのもそれが原因だ。その力で俺を死なせたくないからだ。だからもう会わないと決めたんだろう。


 馬鹿なこと考えやがって。

 何ともいえない怒りともどかしさが湧き起ってくる。



 そもそも、触ったら相手が死ぬなんてことが本当にあり得るのだろうか?


 数秒の間。


 一哉はふんっと鼻を鳴らして笑った。

 馬鹿馬鹿しい。マンガやゲームじゃあるまいし、そんな非現実的で非科学的な力があってたまるか。考えるまでもないことだ。


 けれど……と思う。


 一哉の頭に真夜の悲しそうな顔が思い浮かんだ。


 あの顔は嘘や冗談を言っている顔じゃない。本気でそう思っている顔だ。心底そう思い込んでいる顔だ。真夜は何も嘘は言っていない。それは間違いない筈だ。



 ならば現実的に考えてみたらどうだろう。

 触ったらその相手が死んでしまう、そんな事が本当に起こり得るとして、どういう理由ならそれがあり得るだろう。


 可能性があるとすれば……、


 もしかしたら、真夜は何か重い病気に掛かっているんじゃないだろうか。

 病気だとしたら、触ることで相手に病気が移ってその人が死んでしまうこともあるだろう。それなら誰にも触ってはいけないし、学校にも行かずあの小さな家に閉じこもっていることにも納得できる。


 数秒の間。


 一哉はまたもふんっと鼻を鳴らして笑った。

 馬鹿馬鹿しい、そんなことあるもんか。絶対に有り得ない。

 真夜は色白だけれども、それは決して病人のそれではない。もし病人だったならあんな風に笑ったり冗談を言ったりなんかできるもんか。それに触っただけで感染して死ぬような病原菌を持っているのだとしたら、あんな場所にいる筈がない。もっと大きな病院のもっと厳重に管理された部屋に隔離されている筈だ。真夜が病気であるとは考えにくい。



 だとすると、それ以外に考えられる理由は何かあるだろうか……。

 真夜が触ったら相手が死ぬ。

 真夜は嘘は言っていない。

 それが成り立つ現実的に有り得そうな理由、筋が通る理由……。



 一哉の頭に嫌な言葉が浮かんだ。


 家庭内暴力


 もしかしたら、真夜は家庭内暴力によってあの家に閉じ込められているんじゃないだろうか。

 あんなに元気なのに学校にも通わせてもらえていないのが何よりの証拠だ。触ったら死ぬというのも、家の人からそう言われているのかもしれない。幼いころから何度もそう言い聞かされて信じ込まされているのかもしれない。家の人の言うことだから疑いもしないし、逃げようとも思わない。だから真夜は誰にも触ろうともしないし、あの家から出ようともしない。

 それなら、筋が通る……。


 一哉の脳裏にテレビのニュースなどで報じられている映像が思い浮かんだ。【幼い子供がまたも犠牲に】といった文字や、ブルーシートに囲われた現場の様子に、目のところに黒線が入った子供の写真。

 一哉の頭の中でそれらのイメージがあの古びた館や真夜の顔へと変わる。


 一哉はギリッと歯軋りをした。


 そんな事になってたまるか。手遅れになる前に何とかしないと。



 一哉は天井を見詰めて考え込んだ。

 何かいい方法はないだろうか。今すぐ真夜を助け出せる方法はないだろうか。可能な限り最短で、可能な限り早急に真夜を救い出せる方法、

 俺が今できることは何かないか……

 今すぐ解決へと至れる方法はないか……


 一哉は考え続ける。


 時間が過ぎ去っていく。


 しばらくして、

「よしっ」

 一哉はベッドから飛び起きた。


 クローゼットへと向かいリュックサックを引っ張り出すと、様々な物を手当たり次第に詰め込んでいく。

 そしてパンパンになったリュックサックを背負うと、一哉は部屋を出た。



 玄関で靴を履きつつ。

「ちょっとコンビニに行ってくる」

 家の奥から母の声がする。

「気を付けて行ってくるのよーっ」

「はーい」

 適当に返事をして家を出る。


 そして一哉は真夜がいる小さな家へと向かった。


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