0.二人の出会い
山の裾に広がる森の中に建つ館にはお化けが住んでいる。
子供達の間でそんな噂があった。
藤間一哉は噂の真相を確かめるべく学校の友達と一緒になって噂の場所へと向かった。
森の中の小道を進めば噂通りそこには古びた館が建っていた。
西洋風のかなり古い建物。黒ずんでいてボロボロで今にも崩れそう。庭は手入れがされていなくて雑草が伸び放題。建物の壁にまでツタが這い上がっている始末だ。
本当に今にもお化けが出てきそうな不気味な館だった。
そんな館の周りには背の高い鉄柵が張り巡らされていて誰も入れないようにしてあった。
その鉄柵も草むらの中を進み山の斜面と交差するところまで潜り込んでしまえば、斜面を利用して簡単に乗り越えることができた。
こうして一哉達は館の敷地内へと忍び込むことに成功した。
しかし一哉達は運悪く偶然館の中から出てきた住人と鉢合わせし、あえなく発見されてしまったのだった。
◇
「お化けが出たぞーっ! 逃げろーっ! 捕まったら殺されるぞーっ!」
「誰がお化けだっ! 勝手に人の家に入り込むんじゃねぇっ! さっさと出て行きやがれ、この糞ガキどもっ!」
子供達は逃げ回り、館の住人である青年はそんな子供達を追い回す。
母屋から少し離れた場所には小さな家が建っていた。
一階建てのミニチュアのような小ぢんまりとした家。こっちも黒ずんでいてボロボロ。おそらく物置か何かであろうそんな家だ。
一哉はその家の陰に隠れてその場をやり過ごそうとしていた。
一哉はそーっと首を伸ばして周囲の様子を窺う。
「うわ――っ! 来たぞーっ、逃げろーっ!」
「さっさと出て行けっつってんだろうっ、この糞ガキっ!」
逃げ回る仲間や館の住人が近付いてくる。一哉は慌てて首を引っ込めて息を潜めた。
数秒もすれば声も足音も遠ざかり一哉はホッと胸を撫で下ろした。
その時だった。突然小さな家の窓がカタンッと音を立てて動いた。
「!?」
一哉はとっさに窓へと目を向ける。
少しだけ開かれた窓。その隙間から一人の女の子が顔を覗かせていた。
黒くて長い髪、色白な肌、黒い瞳。黒色を基調としたフリルが沢山ついた服を着ていて、頭にも黒色のリボンを着けている。まるでそこだけ白黒画像を見ているかのような、そんな女の子がそこにいた。
そしてその女の子は怯えた様子で一哉の方を見ていた。
女の子はおずおずと聞いてくる。
「だ……誰? そんな所で、何してるの……?」
一哉はその女の子が自分と同い年くらいの子供であったことから、自分の味方になってくれるんじゃないか、協力してくれるんじゃないかとと思った。だから、
「し――――っ」
一哉は口の前で人差し指を立てて静かにしていてくれるよう願うジェスチャーをした。
「?」
女の子はよく分からなかったのか怯えた表情のまま首を傾げた。
それが藤間一哉と緋野真夜の出会いだった。